【歴史】感想:歴史番組「ダークサイドミステリー」シーズン3(2021年版)「神秘の遺宝の謎に迫る ~ロンギヌスの槍・聖杯・死海文書~」(2021年5月13日(木)放送)

ヒトラーとロンギヌスの槍 (ボーダーランド文庫)

ダークサイドミステリー NHK https://www.nhk.jp/p/darkside/ts/4847XJM6K8/
放送 NHK BSプレミアム。毎週木曜夜9時放送。

www.nhk.jp
【※以下ネタバレ】
 

他の回の内容・感想

perry-r.hatenablog.com
 

本当の謎は、人間の闇


背筋がゾワゾワ、心がドキドキ、怖いからこそ見たくなる。世界はそんなミステリーに満ちている。世間を揺るがした未解決の事件、常識を越えた自然の脅威、いにしえの不思議な伝説、怪しい歴史の記録、作家の驚異の創造力…。こうした事件・出来事を徹底再検証!
人智を超えた謎に迫る「幻解!超常ファイル」を拡大スピンオフ!今度は人間や自然が生み出した謎と恐怖に満ちた事件・伝説の正体に、栗山千明志方あきこ中田譲治のダークなトライアングルで引き続き迫ります。

 

神秘の遺宝の謎に迫る ~ロンギヌスの槍(やり)・聖杯・死海文書~ (2021年5月13日(木)放送)

 

内容

ダークサイドミステリー「神秘の遺宝の謎~聖槍ロンギヌス・聖杯・死海文書~」
[BS4K] 2021年05月13日 午後9:00 ~ 午後10:00 (60分)


人気エンタメの魅力をいろどる聖なる遺宝には、あなたの知らない人類のあこがれ、恐れ、野望、想像の歴史が秘められている。聖槍、聖杯、死海文書。驚きの謎と神秘に迫る。


聖なるもの。それは人に驚くべき力を与える。アニメやゲーム、映画に登場する聖なる遺物たち。現実には“本物”が伝承される一方で、フィクションでは“世界を変える”“すべての願いをかなえる”など、すさまじいパワーで物語を彩る。なぜ、魅力的なイメージは飛躍したのか?そもそもの遺宝の真実とは?聖なるものと人類、2000年に及ぶ知られざる伝説とは?ロンギヌスの槍(やり)・聖杯・死海文書、驚きと秘密の真相に迫る。


【ナビゲーター】栗山千明,【ゲスト】中央大学文学部教授…杉崎泰一郎,ゲーム・アニメライター…塩田信之,【語り】中田譲治,【司会】青井実

 
 今回のテーマは「聖遺物 ロンギヌスの槍(やり)・聖杯・死海文書」。


ロンギヌスの槍(やり)

 ロンギヌスの聖槍は、ゲーム「ファイナルファンタジー」シリーズで主人公が使う究極の武器だったり、アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」に登場したり、とエンタメ界隈で大人気。

 この槍は、西暦30年頃にエルサレムで磔になったイエス・キリストの脇腹をローマの兵士ロンギヌスが刺した槍である。槍を伝ってイエスの血が流れ、ロンギヌスがその血を浴びると、患っていた目が完治した。ロンギヌスはそれをきっかけに改心し洗礼を受けた。

 この槍のように聖人の体に触れた物を「聖遺物」といい、ロンギヌスの槍、イエスの体を包んだ布「聖骸布」、イバラの冠、はトップクラスの聖遺物として扱われている。


 現在ロンギヌスの槍と言われるものは世界の三か所に存在している。そのうちの一つ、アルメニアエチミアジン大聖堂に保存されている槍の穂先は、三世紀に異教徒の王の病を治した という奇跡が伝えられている。その国王はキリスト教に改宗し、その結果301年にアルメニアは世界で初めてキリスト教を国教とした。

 トルコのアンティオキアでは、11世紀、キリスト教十字軍がイスラム教徒に包囲されていた。ある日、イエスの使途のお告げに従い、教会の地下を掘ると槍の穂先が見つかった。これで十字軍の士気は高まり、1009年7月には聖地エルサレムを奪還するという大逆転を成し遂げた。


 と、ロンギヌスの槍は奇跡とワンセットで語られる。ところが、ロンギヌスの槍はそもそも新約聖書ヨハネによる福音書)の中には一切出てこない。ロンギヌスという名前は、新約聖書外典「ピラト行伝」には出てくるが、やはり奇跡云々は書かれていない。


 実は槍の奇跡云々の話は、13世紀に出版された書物「レゲンダ・アウレア」から始まった。著者はジェノバ大司教ヤコブス・デ・ウォラギネ。ヤコブスは100人以上の聖人の伝記を執筆し、その中でロンギヌスも聖人として扱われ、第47章でエピソードが書かれている。この本は架空の創作を元にしていたりしたので、当時から「話を盛っている」と批判を受けていたが、感動を求める読者にこの二次創作本は大ヒットし、さらに画家が絵にしたことで「ロンギヌスの槍+奇跡」が定着したのである。


 しかし、現在ロンギヌスの槍は「世界を変える力がある」とか物凄いイメージが定着している。その理由は、オーストリア・ウィーンのホーフブルク宮殿のハプスブルグ家の宝物庫に所蔵されている槍の穂先、別名「運命の槍」から来ている。

 始まりは四世紀のローマ帝国皇帝・コンスタンティヌス1世から。分裂していた帝国を再統一し、キリスト教を公認した聖人。312年に槍を持って異教徒との大決戦に勝利し、以後槍はキリスト教の守護者が持つものと位置づけられた。

 その後槍は「7~8世紀 フランク王国カール大帝」「10世紀 神聖ローマ帝国のオットー1世」「12世紀 神聖ローマ帝国のフリードリヒ1世」などに次々と受け継がれていった。19世紀、かのナポレオンが槍が保管されていたニュルンベルクに接近した時には、槍目当てかと騒然となったという。20世紀。ヒトラーは1938年オーストリアを併合したが、ナチス第三帝国神聖ローマ帝国の後継者と示すため、ウィーンに保管されていた槍をニュルンベルクに移させた。


 しかし、この槍を2003年に調べると、槍は8世紀に作られたらしいと判明した。つまりイエスを刺したものでも、コンスタンティヌス1世の使った槍でも無いことになる。しかし「物語のネタ」としてのロンギヌスの槍の魅力は失われることはないだろう。



●聖杯

 ゲーム・アニメの「Fate」シリーズでは、聖杯は願いをかなえるもので、主人公たちが追い求める最終目的。またアニメ「セーラームーン」ではスーパーセーラームーンに進化するための重要アイテムとして描かれた。その他のエンタメでも、聖杯は願いをかなえる一方、そのための試練を与える存在として描写されている。


 聖杯は、有名なキリストの最後の晩餐の際に使われた盃の事で、聖遺物「イエスの聖杯 Holy Chalice」と呼ばれる。イエスの聖杯と呼ばれるものは、世界中の五か所にあり、「アメリカ・メトロポリタン美術館」「スペイン・バレンシア大聖堂」「イタリア・ジェノヴァ大聖堂」などに置かれている。ただし、これらの聖杯には「願いをかなえる」というような逸話は一切存在しない。


 実は「願いをかなえる」という設定の聖杯は、イエスの聖杯とは別のところからやってきている。それは「アーサー王と円卓の騎士」の物語からである。これは騎士たちが聖杯 Grail を求めて旅をする冒険エンターテインメント。

 大まかな内容は以下の通り。あるところに漁夫王/フィッシャーキング/Fisher Kingという王様がいた。王は、ある日戦いで呪いの槍で足を刺され、怪我が治らないため国は乱れ荒廃した。ある日、円卓の騎士がフィッシャーキングを訪ねると、城に伝わる聖杯が現れ「選ばれしものが聖杯を手に入れ王の傷をいやす」と告げた。円卓の騎士たちは苦しい探索の度の末、聖杯を発見し、フッシャーキングの怪我を完治させ、国を復興させた。

 「願いをかなえる」「探求の旅」「試練」「資格者」といった、現代エンタメの聖杯関係の要素がここに現れている。ところが、聖杯ネタの起源はもっと過去、紀元前9世紀にヨーロッパ各地に住んでいたケルト人の英雄神話である。神話では英雄が世界の中心に有る神々の宝を探索する。その宝とは「魔法の大釜」で、食料を無尽蔵に生み出し、また戦いで死んだものを復活させる力があるという。


 ところが、12世紀になると、エンタメの世界で、イエスの聖杯とアーサー王の聖杯を合体させる、という大胆なアレンジが行われる。1190年頃、フランスの詩人クレチアン・ド・トロワは円卓の騎士物語で聖杯にパンが入っているという描写を行っている。これはイエスの聖杯との関連を思わせる。

 続いて1200年頃には、詩人ロベール・ド・ボロンが、聖杯は磔になったイエスの血を受けた盃で、フィッシャーキングはイエスの聖杯を守り続けた騎士の子孫、という設定を作り出した。ケルトの魔法の器と、イエスの聖杯、という二大伝説の合体は大ヒットとなり、現代に続いている。昔の人たちも二次創作が大好きだったのである。



死海文書(しかいもんじょ)

 2021年3月に、新しい死海文書が発見されニュースになった。

 死海文書はアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」内で使われたことで超有名。ところで「死の海」というと、いかにもおどろおどろしいが、実際はイスラエルとヨルダンの間にある普通の湖。人が泳げるが、塩分濃度が30パーセントも有って殆ど生き物がいないため、死海と言われている。


 死海文書は、2000年前に書かれた文書で、1947年に死海の北西部・クムランの丘陵地帯にある洞窟で発見された。洞窟の中で見つかったカメの中に羊皮紙などに書かれた七つの巻物が入っており、さらに他の洞窟を調べると、11の洞窟から合計972個の断片からなる、1900~2200年前に書かれた文書と判明した。

 時期的にイエス・キリストの時代について書かれた文書のため、世界中から注目された。1953年にパレスチナ考古学博物館に考古学者が集まって国際委員会を設置し、調査の結果、死海文書には旧約聖書の内容が含まれていることが明らかになった。

 旧約聖書とは、キリスト教誕生以前の古代イスラエル人・ユダヤ人の記録である。旧約聖書には原本が残っておらず、最古の写本は1008年か1009年に写されたレニングラード写本で、死海文書の旧約聖書はそれより1000年も古いため、どのような違いがあるのかが注目された。

 また、しかし文書にはユダヤ教の一派・クムラン教団についての記載があり、2000年前の様子がうかがえる貴重な資料でもある。


 最初の洞窟で発見された文書は1956年までに全ての内容が判明して公開された。ところがそれ以降発表のペースが極端に遅れだし、1960年代に4巻、1970年代に1巻、1980年代に1巻、と殆ど停止状態となった。そのため、陰謀論で「死海文書にはバチカンにとって不利益となることが書かれているため、公表をストップさせている」という説がささやかれるようになった。「クムラン教団キリスト教の起源と書かれているのでは?」とか「現代の戦争を予言する内容が書かれているのでは?」とかである。

 しかし、実際は陰謀とは何の関係も無く、公開は1995年以降に一気に進み、2011年には全て完了した。遅れの理由は、単に文書が細かい断片に分かれており、それを元通りの形に直すために、膨大な時間がかかっていただけだった。やがてデジタル技術が進歩すると、断片をそれぞれ写真に撮り、それを画面上で色々組み合わせることができるようになり、詐欺効率が飛躍的に向上した。内容を見ると、噂されていたようなバチカンに不利な内容などは見当たらず、陰謀論が根も葉もないデマだった事もはっきりした。

 しかし2000年隠されていた古代の文書、予言、陰謀論、等の要素はエンタメにはうってつけで、大人気となったのである。


感想

 今回の特集は「エンタメでよく出てくる聖遺物」がお題ということで、もうFateやらセーラームーンやらファイナルファンタジーやらの映像が出まくり(笑) でもエヴァンゲリオンが名前だけで映像が出なかったのは、使用料が高いとかそういう理由でしょうか?

 特に笑ったのは聖杯を扱うパートで、冒頭でナビゲーターの「黒い栗山千明」が世界征服のために聖杯を召喚しようとして失敗し「何故来ない……? 誰かが邪魔をしているのか……? まさか……、中田譲治!?(注:この番組のナレーター)」とか言って、次に中田譲治が「聖杯を手に入れるのは選ばれし者のみ。フフ、どうやらあなたにその資格がないようですな」と言った後、間髪を入れずFateアニメの言峰綺礼(声優:中田譲治)が登場するシーンを流し始めたので爆笑した(笑) オタに受けるツボがよく解っている(笑)


 それはともかく、名前ばっかり有名で実態はほぼ誰も知らない(断言)聖遺物を、しっかり史実ベースで紹介してくれて、めちゃくちゃためになりました。それぞれ一つだけでも一時間番組が作れそうなアイテムなのに、それを一気に三個も紹介したから中身が濃い濃い。凄い見ごたえでしたよ。この感想を書くのにも物凄い時間がかかりましたが(笑)

 あと、今回のゲストとして来ていた塩田信之氏って、昔ゲームブック書いていた人ですよね。えって驚きました。
 
 

光と闇のナビゲーター 栗山千明
MC 青井実 (アナウンサー)
語り 中田譲治
テーマ音楽 志方あきこ

 
 

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