【ゲームブック】感想:ゲームブック「展覧会の絵」(森山安雄/2002年)【クリア】

展覧会の絵 (アドベンチャーゲームノベル)
展覧会の絵 (アドベンチャーゲームノベル)

http://www.amazon.co.jp/dp/4789301184
展覧会の絵 (アドベンチャーゲームノベル) 単行本(ソフトカバー) 2002/12/1
森山安雄 (著), 伊藤弥生 (イラスト)
出版社:創土社; 第1版 (2002/12/1)
発売日:2002/12/1

★★【以下ネタバレ】★★
 
 

あなたは旅の吟遊詩人。失った記憶を取り戻すことが出来るか!? サイコロを使い、読者が主人公になりきって物語の中で冒険することができるゲームブック。1987年東京創元社刊の復刊。


あなたは自分の名前を知らない。それどころか過去の記憶一切を失っている。ふと気がついたらこの国にいて、琴を片手に吟遊詩人をしていたのだ。あなたは一体何者なのか?この世界は何なのか?さあ、出発しよう。真実を求めて、町から町へ。長い旅へと出かけよう。

 

概要

 ロシアの作曲家ムソルグスキー作のピアノ曲展覧会の絵」をモチーフとした幻想系のゲームブック。1987年に東京創元社ゲームブックブランド「スーパーアドベンチャーゲーム」の一冊として刊行され、15年後の2002年に創土社から復刊された。


あらすじ

 あなたは旅の吟遊詩人だ。あなたには過去の記憶がなく、自分のことを知っている人間を探して町から町へと旅を続けている。ある日、あなたはついにあなたを知っている商人と出会うが、商人はあなたは長い旅をする必要があると言い、絵の中の世界へと送り出した……


ゲームシステムなど

 パラグラフ数は531。主人公のパラメーターとして、主人公の所有する琴が奏でられる旋律(和解・魔除け・戦いの三種類)の数をサイコロで決定する。作中で必要に応じて旋律を奏でる必要があり、もし途中で必要となる旋律を使い切ってしまった場合はゲームオーバーとなる。

 その他に、運・不運をサイコロで判定する選択肢が多数存在する。


感想

 評価は○(いまひとつ)。

 本作は、オリジナルの東京創元社版(1987年)、創土社版(2002年)、幻想迷宮書店版(kindle 2016年)、と色々な出版社を渡り歩きながら読み継がれている作品。という事で、プレイ前の期待は高かったのですが、結果的にはかなり失望させられました。

 記憶を失っている主人公が、自らが何者なのかを知るために、絵の世界を次々と旅していく、という設定は物凄く面白そうなのですが、内容がそれに追いついていませんでした……


 本作で一番失望したのがパラグラフ構造です。この作品の典型的な構造は、以下のようなイメージです。

主人公は十字路に立っていて、東西南北に移動できる。
 北に移動
  →関門がある。合言葉を知っていれば通過できる。知らないのなら十字路へ戻れ

 南に移動
  →水を欲しがっている人がいる。水を渡せば合言葉を教えてくれる。水かないのなら十字路へ戻れ

 東に移動
  →泉がある。水筒を持っていれば水を汲める。水筒がないのなら十字路へ戻れ

 西に移動
  →水筒を入手できる。二度めに来た時には水筒はもうない。十字路へ戻れ


 この場面をクリアするには、一通り全ての場所を確認してから「西→十字路→東→十字路→南→十字路→北」というルートを巡ればいい訳ですが、つまり「パラグラフを選択して、その結果として色々なストーリー分岐を楽しむ」というゲームブック本来の楽しさがほぼ味わえません。


 本作のパラグラフ全てがこうという訳でもなく、多少は選択によって展開が変わる部分も無くは無いのですが、基本的には上記のような「総当たり方式」です。

 この様な構成は、ゲームブックではなく、パソコンゲームの黎明期に発売されていた初期のアドベンチャーゲームを彷彿とさせました。建物の中を歩き回り、アイテムを発見し、それを利用してフラグを建て、というスタイルが、本作そのままです。このような作りでは、ゲームブックとしての面白さを堪能できるとは言えないでしょう……


 ところで、本作の巻末には、SF作家・翻訳家の故・矢野徹氏の作品解説があり、その中で「作者は階層構造を利用するコンピューター・ゲーム・コンセプトで小説を書いた」云々と紹介してあったのを読んで、心底納得できました。作者は、分岐を楽しむゲームブックというより、MS-DOSのフォルダ構造というかそういうノリでフローチャートを書いていたんですね。ゲームブックらしくない訳です。


 また、第二の不満点はストーリーの味気無さです。主人公は自分の過去を求め、絵の世界を渡り歩くのですが、そこで体験する冒険が大して胸躍るものではなく、そういう意味でも拍子抜けでした。まあ、「ムソルグスキーの作品」という縛りの上に成り立っている作品なので、そうそう勝手な世界観を構築するわけにもいかなかったのでしょうが、それを差し引いても話が無味乾燥過ぎました。


 とはいえ、結末だけは結構良い感じで、本作は何故「展覧会の絵」という題名だったのか、主人公は何者だったのか、という疑問が一気に解消されるラストは心に残りました。どちらかというと、ゲームブックにせずに小説として読んだ方が面白かったかも、という気もしましたけどね。


 という事で、あまりゲームブックとしては評価しませんが、お話としては悪くなかったかと思います。


おまけ

 創土社版は表紙絵が二種類有るようで、アマゾンには二番目のやたら格好いい絵の版(2002年12月発売)しか無いようです。私が所有しているのは第一刷(2002年7月発売)で、絵としては幻想迷宮書店版の表紙絵の方がイメージが近いですが、「展覧会の絵 創土社版 旧表紙」で検索しないと見つからないですね……