【デジタルゲーム】ノベルゲームのさきがけになれなかったノベルウェア(システムサコム)について語りたい

38万キロの虚空

ノベル形式のはしり「ノベルウェア」

 ゲームブックを色々調べていると、興味はゲームブックの発展形とでもいうべき「ノベルゲーム」へと拡大していったのですが、その歴史を調べているうちに、忘れられている存在、システムサコムの「ノベルウェア」へとたどり着くことになりました。今回は、記憶している人もまれであろうこのノベルウェアについて書き記したいと思います。


 ノベルウェアは1988年~1991年の間にシステムサコムから発売されたAVGの一形態です。当時はパソコンのAVGも進化を遂げ、アイテムを取って組み合わせたり、パズルを解いたりするような内容から、「小説のようにストーリーを体験させる」という方向へと変化しつつありました。

 そんな中でシステムサコムは、当時それなりの数が存在した「パソコンを買ったが何をしていいかわからない。ゲームをするにも複雑な物は歯が立たない」という大人を相手に、電子小説的な物を売っていこうとしました。そのために作られたのが、簡易AVG、今でいうノベルゲームの「ノベルウェア」でした。

 そして、このノベルウェアに深くかかわったのが多摩豊氏です。多摩氏は1980年代から90年代にかけてゲーム業界で活躍された方で、黎明期のTRPGの普及のためにプレTRPGとでもいう作品をデザインしたり、ゲームブック雑誌の編集長を務めたり、海外のコンピューターゲームのデザイナーと親交を結んだり、ゲーム批評本を書いたり、と、当時の「ゲーム」の業界で実に幅広く活躍された方でした。その多摩氏がAVGの新たな可能性を切り開こうと取り組んだのがノベルウェアだったという訳です。


全7作品

 ノベルウェアは最終的に全7作品が発売されました。内容はあくまで「大人向け」を意識して初期は硬派な感じの内容が目立ちますが、その一方でパロディ満載のユーモア系の物も有ったりして、色々な方向性を模索していたことがうかがえます。


1作目「DOME」(1988年6月発売)

ドーム | プロジェクトEGG | レトロゲーム配信サイト
https://www.amusement-center.com/ja/project/egg/cgi/ecatalog-detail.cgi?contcode=7&product_id=157

 
 ジャンル:SF。シナリオ:多摩豊。有名推理作家の夏木静子が1986年に発表したSF「ドーム 終末への序曲」を原作とした作品。

 現代(つまり1980年代)、米ソ対立による全面核戦争が勃発した場合に備え、ノアの箱舟的な施設「ザ・ドーム」を建設しようという構想が立ち上がる。プレイヤーは広告代理店・広通の社員「林」の立場で、ドーム建設のための資金を寄付で募るという仕事を担当することになり……

 夏樹静子の小説は、ドームを建設しようとする科学者が主人公だが、本作は別人が主人公のため、夏樹作品の設定を借りて作られた別物と見るべきだろう。しかし、そのため小説を読んた人間でも楽しむことが可能である。

 マニュアルには「電子小説」云々という記述があり、従来のAVGとは異なり、スタッフは「ストーリーを読ませる」という事を意識していた事がうかがえ、文章量は非常に多い。とはいえ、「コマンド選択」で選べるのは「話す」「移動」といったメニューで、あまり従来のAVGと異なるようには思えない。まだ作り手もどういう風に作るべきなのか手探り状態だったという事だろう。

 時間の概念があるため、使用できるコマンドは限られており、何を選んだかによって3通りの結末が待っている。しかしどこでフラグが立ったかわかりにくく、難易度は高め。

 ビジュアルは実写取り込み。アニメ絵などにしなかった時点で、子供(学生)ではなく大人(社会人)をターゲットにしていたことがうかがえる。


2作目「ソフトでハードな物語」(1988年7月発売)

ソフトでハードな物語 | プロジェクトEGG | レトロゲーム配信サイト
https://www.amusement-center.com/project/egg/cgi/ecatalog-detail.cgi?product_id=352

 
 ジャンル:ユーモア。シナリオ:多摩豊

 大学生「宏志」は、倒れた父親に代わって中堅ソフト会社モカシステムの社長となり、会社を切り回していくことになったが……

 当時全く無かったゲーム開発業界物で、パロディとかがふんだんに詰め込まれていた。選択肢は三択だけとなり、さらに難易度は低めで、適当に選択肢を選んでいっても、それなりの結末にたどり着くことが可能。


3作目「シャティ」(1988年11月発売)

シャティ | プロジェクトEGG | レトロゲーム配信サイト
https://www.amusement-center.com/ja/project/egg/cgi/ecatalog-detail.cgi?contcode=7&product_id=161

 
 ジャンル:SF。作家・翻訳家として有名な鎌田三平が原作・シナリオを書き下ろした。

 遥かな未来。何者かの陰謀で事件の犯人に仕立てあげられた主人公が、次元転移装置を使って別世界に飛びこみ……

 ストーリーはSFではあるものの、テイストは完全に「大人」向け。またグラフィックはモノクロかつざらざらしたタッチで、当時のMac用ゲームの雰囲気を意識している。難易度は「DOME」同様高め。


4作目「ソフトでハードな物語2」(1989年6月発売)

ソフトでハードな物語Ⅱ | プロジェクトEGG | レトロゲーム配信サイト
https://www.amusement-center.com/project/egg/cgi/ecatalog-detail.cgi?product_id=365

 
 ジャンル:ユーモア。シナリオ:佐藤浩一。

 なんとか倒産の危機を乗り越えたモカシステム。宏志は今度はシナリオライターとして働くことになったが……

 2作目「ソフトでハードな物語」の続編で、同様にゲーム開発業界の裏側を描いた作品。ただし、前作とは違い難易度が異常に上がっており、すぐにゲームオーバーになってしまう。前作とは別の意味で有名、というより悪名が高い作品。


5作目「38万キロの虚空」(1989年10月発売)

38万キロの虚空 | プロジェクトEGG | レトロゲーム配信サイト
https://www.amusement-center.com/ja/project/egg/cgi/ecatalog-detail.cgi?contcode=7&product_id=576

 ジャンル:SF。シナリオ:多摩豊(鈴木幸一)。

 西暦2049年。増加する一方の人口問題を解消するため、宇宙空間にスペースコロニー(SC)が作られた。しかしSCは本当に人類のためになるものなのだろうか? 

 プレイヤーはSC取材班の一人「相場謙」となり、SC内の取材を行う。そして取材を通じて、SCに対して「好意的」「中立」「批判的」のどの立場をとるかでストーリーが変化していく。

 本作はシナリオは多摩豊氏が担当したことになっているが、実際は氏が多忙を極めたことから、後半はアルバイトの鈴木幸一氏(当時高校2年生!)が担当している。


6作目「闇の血族」(1990年7月発売)

7作目「闇の血族 -完結編-」(1990年10月発売)

闇の血族 | プロジェクトEGG | レトロゲーム配信サイト
https://www.amusement-center.com/project/egg/cgi/ecatalog-detail.cgi?product_id=314

闇の血族 -完結編- | プロジェクトEGG | レトロゲーム配信サイト
https://www.amusement-center.com/project/egg/cgi/ecatalog-detail.cgi?contcode=7&product_id=325

 ジャンル:サスペンス・伝奇系。シナリオ:鈴木幸一。

 新人アパレルデザイナー「伊澤魅由」(いざわ・みゆ)は、人の心を読んだりする力や異常なカンの鋭さから「名探偵魅由」と呼ばれていた。やがて魅由の周囲で、人間が体から血を抜いて殺されるという異常な事件が頻発し……

 事実上一つの作品を二つに分けて発売した作品。そのため「闇の血族」は中途半端なところで「続く」で終わることになってしまい、購入した人間からは不評を買った。

 この作品の特徴はなんといっても女性が主人公で、その女性の一人称で展開するという点。当時女性が主人公という作品も珍しかったが、さらに文体が新井素子の小説調であるというのも話題で、ゲーム中の「はふ、ちょっとため息」というセリフは一部で有名になった。これはシナリオの鈴木幸一氏が当時新井作品やコバルト文庫花とゆめ系の少女漫画、等に傾倒しており、その趣味を前面に押し出したため、とのことである。ちなみにこの作品は、鈴木氏が高校3年生の時の仕事であるとのこと。

 難易度は低めで、後半に突入すると、もはやマウスクリックだけで進む一本道シナリオとなっている。

 この作品は1991年2月には、FM-TOWNS用に作品を一つにまとめた「闇の血族Special」というバージョンが発売された。

 さらに1993年12月には、PCエンジン向けに『闇の血族  遥かなる記憶』というタイトルで移植されてナグザットから発売されている。こちらは大幅に作り直されており、パッケージイラストはいのまたむつみの絵で、ゲーム中のキャラクターもいのまた調に描き直されている。


ノベルウェアの遺したもの

 さて以上7作品のノベルウェアの歴史を見てきましたが、ノベルウェアがゲーム業界に遺したものはなんだったのかと自問すると……、「思い出以外には何もない」というのが正直なところでしょうか。

 発売された当時、ノベルウェア各作品を「AVGの新しい地平」という風に意識した人は、残念ながらいなかったのではないかと思います。当時の認識は「システムサコムが出している、ちょっと変わったAVG」程度のものだったのではないでしょうか。

 まあ確かにコマンドをかなり減らしていて、アイテムを取ったり使ったりといった面倒な作業はありませんが、既に他社のコマンド選択式AVGでもストーリーを売りにした作品は出始めており、あまり他社作品と差別化できていたような記憶がありません。

 そういう意味では、1992年の「弟切草」や1994年の「かまいたちの夜」のような「これは今までのAVGとはまるで違う」という感触を提示できず、評判も呼べなかったために、歴史に埋もれてしまったのは仕方のない事だったのかもしれません。


 ところで、発売元のシステムサコムは2017年にも健在です。この会社は元々ハードウェア開発が専門で、ゲーム部門は「余業」みたいなものだったので、1990年代末にゲーム事業からすっぱり撤退した後も、元気にハードを作り続けています。
 
 
闇の血族~遙かなる記憶 【PCエンジン】