【ゲームブック】感想:ゲームブック「モンスターの逆襲」(山本 弘/1988年)【クリア】

モンスターの逆襲 (現代教養文庫―アドベンチャーゲームブック)

http://www.amazon.co.jp/dp/4390112406
モンスターの逆襲 (現代教養文庫アドベンチャーゲームブック) 文庫 1988/4/1
山本 弘 (著)
出版社:社会思想社 (1988/4/1)
発売日:1988/4/1
文庫:366ページ

★★【以下ネタバレ】★★
 
 

ゴブリンたちが平和に暮らす地下迷宮を、4人の凶悪な人間が襲撃した。若く勇敢なゴブリンである君は、親兄弟の仇を討つべく放浪の旅に出る。奪われた魔法の黒いヒスイを探し出し、その力を借りて、次々と強力なモンスターに進化していかねばならない。君は最強のモンスターとなり、憎むべき4人の敵を倒すことができるだろうか。

 

概要

 剣と魔法系ファンタジー物。社会思想社のゲーム雑誌「ウォーロック」3号(1987年3月号)~6号(1987年6月号)に4回連載された作品を加筆の上一冊にまとめた物。


あらすじ

 ゴブリンである「君」は、地下迷宮で仲間たちと平和な暮らしを送っていたが、ある日君が留守の間に地下迷宮は人間の冒険者四人に襲撃され、君の家族や仲間は虐殺され、財宝は略奪されていた。怒りに震える君は人間への復讐を決意した。奪われた財宝の中にある「黒いヒスイ」十二個は、呪文を唱えることで持ち主を別の生物に変身させる力を持っている。君はヒスイの力を使い、憎むべき人間たちに復讐することが出来るか?!


ゲームシステムなど

 パラグラフ数450。

 キャラクターのパラメーター「殺傷力」「防御力」「耐久力」あり。サイコロ振り・戦闘あり。


感想

 評価は○(あまり合わなかった)

 山本弘氏がグループSNE時代に創刊直後のウォーロック誌に連載したミニゲームブック連載を一冊にまとめたもの。クオリティは認めますが、個人的にはあんまり合いませんでした……


 本作品は、人間の冒険者としてモンスターを倒すのではなく、逆にモンスターとして仇の冒険者を倒していく、という普通とは完全に立場が逆転している珍しい作品です。類似の設定は連載当時はもちろんのこと、2023年現在でも殆ど見当たらず、独創性が光る一作です。


 パラグラフ数は450ですが、前述のとおり雑誌で全四回連載された作品のため、本は全4章構成となっていて、第1章~第3章は各100パラグラフ、第4章は150パラグラフ、のミニゲームブックの連作形式となっています。そして各章で仇と一人ずつ対決し、勝利すれば次の章へと進んでいくことになるのです。

 主人公は最初は雑魚モンスターのゴブリンですが、どこかで魔法の黒ヒスイを手に入れることで一段階上のより強いモンスターに変身できます。そして一度行った変身は次の章にも引き継がれるため、各章で変身する度にどんどん強大な存在と化していき、最終的には並びたつものの無い強大なモンスターへと上り詰める事が可能です。一冊のゲームブツクの中で「成長」が実感できる稀有な作品ですね。

 各章はパラグラフ数が100~150と規模が小さいため当然制約がきついにもかかわらず、実に巧みに組み立てられており、ミニゲームブックとは思えないプレイの幅の広さが楽しめました。特に第4章では「以後、XXの場合にはそのパラグラフ番号に50を足した数にジャンプすること」といった隠し選択肢が存在しており、この技法を使う事でマルチエンディングとなっているなど、ゲームブックとしてのクオリティは一級品でした。


 さて、本作の売りとして、主人公は魔法のヒスイの力でより強力な上位モンスターに変身でき、しかも変身できる総数は数十にも及びます。ただしいきなり強力なモンスターに一足飛びに変身できるわけではなく、まずゴブリンからスタートして、選択できるちょっとだけ強いモンスター数種類の中からどれかを選び、その変身後のモンスターからまた少しだけ強い数種類の上位モンスターに変身し、という風に変身のルートとなる一種の樹形図のような物が存在します。どのモンスターに変身したかで、同じ場面でも展開が微妙に、あるいは大きく異なるのが面白いところです。

 た・だ・し、特定のモンスターの場合はストーリーの途中で絶対回避できないデッドエンドが待っていたりするので変身にも注意が必要です……、まあその時が来るまでどれが袋小路モンスターなのかはわからない訳ですけどね……


 ストーリーは当初は単なる仇討ち話ですが、最終章の第4章になると復讐談に終わっておらず「実は仇と思っていた魔法使いは結構良い人だった」「しかし今は悪人の弟子に体を乗っ取られてしまっている」「王女登場」「上手く話を進めれば、人間とモンスターの和平的な物が結ばれる」など、かなりスケールの大きな話になっていて、最初の頃のゴブリンの復讐物語が壮大な結末に着地した物だと感心させられました。


 と、このように、ゲームブックの技法の部分は一級品、ストーリーもなかなか凝っていて、褒めるところばかりのように見える作品なのですが……、残念ながら正直さっぱり好みに合いませんでした。 (>_<)

 第1章~第2章は弱いモンスターとなってこそこそと隠れながら仇討ちを行うという暗い展開だし、第3章に入ると主人公は強大なモンスターとして周囲に認識されるほどの存在となりますが、かといって話が面白くなるわけでも無し。最終章・第4章も人間を助けたり王女を見つけたり仇の筈の男の意外な素顔を知ったり、と色々あったもののやはりノリきれず……


 ということで、ゲームブックとしてのクオリティが高いことは間違いないのですが、話が趣味ではない、というその一点で辛い評価となってしまいました。しかし再三繰り返しますが、ゲームブックとしての質は高いので、他の人がプレイする分には問題無いと思います。