【ゲームブック】感想:ゲームブック「サラモニスの秘密」(スティーブ・ジャクソン/2024年)【クリア】

Fighting Fantasy: The Secrets of Salamonis
Fighting Fantasy: The Secrets of Salamonis

http://www.amazon.co.jp/dp/4815619638
ファイティング・ファンタジー・コレクション 40周年記念~スティーブ・ジャクソン編~「サラモニスの秘密」 単行本(ソフトカバー) 2024/2/16
安田均グループSNE (著)
出版社:SBクリエイティブ (2024/2/16)
発売日:2024/2/16
単行本(ソフトカバー):2056ページ

★★【以下ネタバレ】★★
 
 

サラモニスの秘密
スティーブ・ジャクソン氏が、シリーズ40周年を記念して、じつに36年ぶりに筆を執ったファン待望の最新作。舞台となるのは、古き都サラモニス。

 
 2024年2月に発売されたゲームブック5冊詰め合わせセット「ファイティング・ファンタジー・コレクション 40周年記念~スティーブ・ジャクソン編~「サラモニスの秘密」」

ファイティング・ファンタジー・コレクション 40周年記念~スティーブ・ジャクソン編~「サラモニスの秘密」 | SBクリエイティブ
https://www.sbcr.jp/product/4815619633/

www.sbcr.jp
 
 の中の一冊「サラモニスの秘密」(スティーブ・ジャクソン/本国イギリスでは2022年発売)をクリアしたので感想をば
 

概要

 「ファイティング・ファンタジー(FF)・シリーズ」の一冊。スティーブ・ジャクソンが「モンスター誕生」(1986)以来36年ぶりに手掛けたゲームブック。FFシリーズ生誕40周年記念作品。


あらすじ

 まだ年若い「きみ」は、両親の元を離れ、遠路はるばるサラモニス王国の首都サラモニスへとやって来た。しかし、きみは旅の途中で荷物を盗まれてしまい今は一文無しだ。きみはこのサラモニスの街でどんな冒険を体験することになるのだろうか?


ゲームシステムなど

 パラグラフ数は480。ファイティング・ファンタジー・シリーズの基本システムに成長要素が組み併せてあり、まずキャラクターは既定の数値「技術点:6」「体力点:12」「運点:6」からスタートし、途中様々なミッションを成功させて経験値に相当する「名誉点」を獲得していくことで能力を上昇させ、強いキャラクターへと成長させていく、というもの。


感想

 評価は○(まずまずの出来栄え)

 スティーブ・ジャクソン(英)がFFシリーズ生誕40周年を記念して実に36年ぶりに執筆したゲームブック。面白さとしては「まずまず」でした。


 ジャクソンは、FFゲームブックを書くたびに毎回新しい試みに挑戦していますが、本作ではFFシリーズ初(多分)の「キャラクターの成長」システムを採用していておおっと思わされました。

 本作では、主人公は腕に覚えのある冒険者ではなく能力値の低い未熟なキャラクターとしてスタートし、ミッションクリアを積み重ねて経験値に相当する「名誉点」を貯め、その経験値でキャラクターを強化していき、最終的に立派な冒険者となる、という流れとなっています。ファンタジー世界の冒険者が経験を積んで成長していく、というのはFF作品以外ではそれこそ当たり前ともいえるくらいお馴染みですが、FF作品では初めての体験だったのでちょっと驚かされました。

 そして、ストーリーの方もこのシステムを十二分に生かしたもので、最序盤は主人公は田舎から大都会に出てきた一文無しのお上りさん、というめったに体験できない状態から始まり、そこから日雇いの仕事か物乞い(涙)で苦労してお金をコツコツとため、ようやく冒険者ギルドに参加し、さらにお金を払って修行をして知識や特殊技能を身に着けていき、お金と時間をかけた末にようやく「新米冒険者」と名乗れるようになる……

 と、このように、過去のFF作品には無かった「主人公が冒険に出られるようになるまでの修行の過程」が描かれていたのは、ちょっと面白かったですね。


 キャラクターがそれなりに成長し、ようやく冒険に出られるようになると、そこからが本番となり、ギルドに出かけて様々な仕事を選択して完遂し、金・アイテム・経験値・情報を手に入れ、そして全てのミッションをクリアした暁には最終フラグが立って最後の大冒険に出陣することになります。こういう構成となるのは途中からは完全に予想がついていましたが、それまでに出会ったキャラクターたちとともに最終ミッションに出かけるという展開はそれなりに盛り上がりました。


 またジャクソンは成長システム以外に、後半の冒険のために、さらに二つの要素、魔法「綴り魔法」と、時間経過を示す「週の輪」、を用意していて、これもちょっと面白い試みでした。

 「綴り魔法」は一種のパズルで、使用できる場面では、例えば(自分が考えたものですが)「それは剣よりも長い武器……、相手に投げつけることもできる…… 答えは「Y○○I」」のように書かれているので、答えは「槍(YARI)」だと見当をつけ、各英文字に割り振られた数字を色々足したり引いたりすると、最終的に目標のパラグラフ番号が判明する、という仕組みです。

 つまり隠しパラグラフの一種ですが、答えがわからなくてもクリアできないという事は無く、ある程度話を有利に進められる、というだけなので、それほど重要ではありません。しかし上手く謎を解いて正しいパラグラフにジャンプできると、これは結構うれしかったですね。


 「週の輪」は時間管理のシステムで、この世界では七曜「嵐→月→火→土→風→海→高」がぐるぐる回っています。そして冒険をクリアするたびに何日経過したかが解るのでそれに従い曜日を進めていきます。そして現時点が何曜日かで発生するイベントが異なってくる、という作りとなっています。そして用意された全てのミッションをクリアしないと、最終イベントには入れないように管理してある、というわけです。


 さらに楽しかったのはジャクソンの過去作品とのリンクが随所に存在していたことで、

・修行の過程でザラダン・マーの兵士を育成する訓練所に行ってしまい、下手をするとそのままザラダン・マーの兵士となってしまってバッドエンドに……
 →「モンスター誕生」

とか

・ギルドの依頼でドリーの村の魔女のために薬草を集める
 →「モンスター誕生」

とか

・ハーフエルフの要請に従いバルサス・ダイアと戦うことに……
 →「バルサスの要塞」へ続く

とか

・夢の中で見知らぬダンジョンをさまよい、数字付きの鍵を見つけたり監禁されていた老人を助けたり……
 →「火吹山の魔法使い

とか

ジャクソンの過去作品の読者へのサービスが盛り込まれていて、これは嬉しい驚きでした。火吹山のダンジョンの冒険は、どうせ序盤だけだろうと思っていたら、結構奥まで進んでいってなかなか終わらないので、もしかしてこのままザコールと対決するところまで進んでいくのか?! とちょっと焦りました(笑)


 と、このように、本作では様々な新しい試みが盛り込まれており、ストーリーも(FFでは)今までに体験したことのないタイプで新鮮ではあったのですが……、ただ面白さという面では、それほど成功していたようには感じませんでした。

 綴り魔法はともかく、経験値をためて成長するシステムや、フラグで時間を管理し最終イベントの発生を制御する作り、ギルドで複数のミッションを自由に選択できる構成、全ての依頼イベントをこなすと最終決戦が待っているという流れ、等はFFシリーズ初ではあっても、他のゲームブックで、あるいはコンピューターRPGで、既に何度も体験してきたもので、本作ならではの新鮮さというものは全く有りませんでした。

 また成長要素をウリにしたことで、代わりに「なかなか冒険がスタートしないので退屈」とか「一つ一つの冒険のスケールが小さくあまり盛り上がらない」という事になってしまっていました。最終ミッションも「震える男」や「シュリーカー」等、それまでに体験してきた要素の集大成ではありましたが、いきなり王子がどうとか言われても……、という気持ちになりましたしね。

 本作はゲームブックとしては悪くない出来で、これはこれで楽しめる一作でしたが、「モンスター誕生」の様な鮮烈なプレイ体験を求めていただけに、やや求めていたものとは違ったな、という感はありました。そこはちょっと物足りなくて残念でしたね。
 
 
 

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