感想:海外ドラマ「X-ファイル シーズン3」第20話「執筆」

X-ファイル シーズン3 (SEASONSコンパクト・ボックス) [DVD]

 ドラマ「X-ファイル シーズン3」(全24話)の感想です。
(※以下、今回の話の結末まで書いてあります。ネタバレにご注意ください)

■ディーライフ/Dlife X-ファイル シーズン3
http://www.dlife.jp/lineup/drama/xfile_s3/

 BSデジタル放送「Dlife」での視聴です。


第20話 執筆 JOSE CHUNG'S FROM OUTER SPACE

■あらすじ

http://www.dlife.jp/lineup/drama/xfile_s3/
EP20 執筆
スカリーが作家ホセ・チャンに語るアブダクト事件の顛末。UFOに誘拐されたカップルの話は見事に食い違う。少女は記憶を失っていたが、少年は宇宙人に誘拐されたと主張。

 お題は「異星人による誘拐、軍の陰謀」。


 有名作家ホセ・チャンが出版社の要請で異星人テーマの本を書くことになった。チャンはモルダーにインタビューを試みるが断られてしまい、代わりにスカリーが二人で捜査した事件を語ることになった。





 ある夜、クリッシーという若い娘が、服が前後も表裏も逆に身に付け、失神しているのが見つかる。恋人のハロルドが暴行したものと思われたが、逮捕されたハロルドは自分たちは異星人に誘拐されたと言い出した。モルダーの指示でクリッシーに逆行催眠を試したところ、グレイ型宇宙人に拉致されてテレパシーで尋問されたと証言する。


 続いてハロルドに話を聞くと、全く言う事が違い、自分とクリッシーは異星人に捕まって牢に入れられたが、すぐ隣の牢にはまた別のグレイ型宇宙人がいて、英語を喋りタバコをすっていたという。再度クリッシーに逆行催眠をかけると、今度は軍服を着た男たちに取り囲まれて尋問された、と自分が前に言ったこととすら違う証言を行なう。


 続いて、ロッキーという男が、ハロルドとクリッシーが宇宙人に誘拐されるのを見たと届け出てきた。ロッキーの書いた文章によれば、ハロルドとクリッシーをグレイ型宇宙人二体が誘拐しようとしたところに、第三の生物が現われたという。その生物は地球の中心「マグマ王国」に住む「キンボート」で、ロッキーも地球の中心に連れて行かれたと書いてあった。しかもロッキーの自宅には、怪しげな黒服の男が押しかけてきて、UFOを見たというのは勘違いだから忘れろ、と脅されたという。スカリーはあまりの支離滅裂な内容にはあきれ返るが、モルダーはそれなりに信じる素振りを見せる。


 続いてグレイ型宇宙人の死体が発見されるが、スカリーが解剖してみると、なんと精巧な着ぐるみを来た人間で、しかも軍人だった。直後、何故かすぐに軍がかぎつけてやってくるが、もう一人脱走した兵がいるらしい。モルダーは深夜その兵士と遭遇し、軍が秘密兵器としてUFOを開発しており、偽装のため時々民間人を誘拐していると聞かされる。ところが昨日の任務の際は、本物の異星人が現われ偽宇宙人を演じていた自分たちも誘拐されたという。モルダーが話を聞いているところに軍が駆けつけ、兵士を連れ去る。ところがチャンの取材によれば、モルダーがその兵士と会った事実は確認できなかったという。


 そして、森で墜落したUFOが発見されるが、軍の秘密兵器として処理されており、その中からは「宇宙人着ぐるみの中に入っていた死体」と「モルダーが出会った兵士」の二人が死体として見つかる。そしてこれで事件は終わりとなってしまった。





 取材後、チャンのところにモルダーが現われ、興味本位で異星人関係の本を書かれると迷惑するので止めて欲しいと頼むが、チャンは断る。そして結局事件の顛末は「JOSE CHUNG'S FROM OUTER SPACE」というタイトルで出版された。




監督 : ロブ・ボウマン
脚本 : ダリン・モーガン



■感想

 評価は○。


 X-ファイル史上に残るヘンな話。脚本のダリン・モーガンは、過去作品でシーズン2の20話「サーカス」、シーズン3の12話「害虫」を書くなど、ヘンな話専門のシナリオライターだったらしい。「異星人による誘拐」プラス「軍の陰謀」という、X-ファイルお得意の筋立てにも関わらず、普段とは全く異なるテイストで話が展開される。


 今回のエピソードは、関係するどの人物も証言も真面目に受け取れない。クリッシーは逆行催眠の度に言う事が食い違うし、ハロルドもグレイ型宇宙人がタバコを吸って英語を喋っていた、など、内容がメチャクチャである。またロッキーはロッキーで、地球の中心の「マグマ王国」を訪問しただの、MIB(宇宙人情報を隠蔽する謎の黒服の男)との遭遇などと言い出し、懐疑主義者のスカリーがまともに取り合わないのも無理は無い。


 しかも、我らがモルダーも今回に限っては、その「変な人たち」の仲間入りをしてしまっているのが面白い。モルダーはスカリーに、兵士に出会って軍の陰謀を聞き出したと語ったが、チャンの取材ではそのような出会いの事実は無く、代わりに一人でむしゃむしゃパイを食べていただけ、という結果となってしまう。さらに彼はスカリーが自室でMIBを歓待していた、などとも語っており、もうモルダーもトンデモ証言者の一人になってしまっている。


 しかし最後に確固たる事実として、軍の秘密兵器の墜落事故が確認され、そこから逆に考えると、モルダー・ロッキー・ハロルド・クリッシーのいずれの証言も、何かしらの真実を含んでいたのでは、と想像させる巧妙な組み立てとなっている。このように非常に凝りまくったエピソードだったと言える。


 ところで今回の話は、かなりパロディが多い。ざっと気が付いただけでも

・冒頭の星空に白い何かが飛んでいる/実は高層作業車の床を映していただけ→スターウォーズ
・グレイ型異星人→「未知との遭遇」に出てきた宇宙人
・キンボート→ハリーハウゼンの「シンドバッド七回目の航海」に出てきたサイクロプス
・スカリーの異星人解剖シーン→当時ヒットした「異星人解剖ビデオ」のパロディ
・モルダーがむしゃむしゃパイを食べる→「ツインピークス」のクーパーの真似

などがある。おふざけの激しい回だったという事だろう。