感想:海外ドラマ「X-ファイル シーズン9」第17話「解放」

X-ファイル シーズン9 (SEASONSコンパクト・ボックス) [DVD]

■ディーライフ/Dlife X-ファイル シーズン9 http://dlife.disney.co.jp/program/drama/xfile_s9.html
放送 Dlife。全20話。

【※以下ネタバレ】
 
※シーズン9の他のエピソードのあらすじ・感想はこちら→「X-ファイル シーズン9」あらすじ・感想まとめ
 

第17話 解放 RELEASE

 

あらすじ

 お題は「霊能者」。

 ある日、ドゲットは匿名の密告を元に女性の刺殺死体を発見した。スカリーは、FBIアカデミーでその死体を教材に生徒に講義を行うが、生徒の一人ルドルフ・ヘイズは、驚異的推理力で今回の事件と別の女性殺しが同一犯の犯行だと見抜く。さらにヘイズはプロファイリングにより犯人像を導き出し、まさにその像に当てはまる前科者ニコラス・レガーリが浮かび上がった

 ドゲットはヘイズの能力に感嘆し、個人的にヘイズと会い、9年前(1993年。このエピソードの放送は2002年5月)に息子のルークが誘拐され殺された未解決事件の資料を見せ、何か手掛かりが見つからないか尋ねる。ルーク殺しの第一容疑者はボブ・ハービーという男だったが、ハービーは一年前に死んでおり、もう捜査は完全に行き詰っていた。

 ヘイズは、ハービーはルークを誘拐したが殺してはいないこと、また今回の連続女性殺人とルーク殺しは関係があること、を示唆する。ヘイズは何故か未解決事件に異様に魅了されており、事件の記録写真を眺めていると、被害者たちの呼びかけが聞こえると言う。そして以前からルークの事件も気にかけていたとも言う。ドゲットはヘイズの正気を疑いつつも、レガーリがルーク殺しの犯人と信じ、手掛かりを探し始める。

 レガーリは過去に様々な事件で逮捕されていたが、全て微罪で終わっており、ドゲットは官憲側の誰かが賄賂をもらってレガーリの罪を軽くしていると考える。レイエスはフォーマー副長官のところへ行き、三年前に彼がある男から金をもらっていたと告発するが、フォーマーは情報屋に金を渡していただけ、と切り返す。しかし、実際はフォーマーは過去にレガーリから金を受け取っており、もう関係が絶ち切れなくなっていた。

 FBIはヘイズの経歴が全て偽造で、本名はスチュアート・ミルズといい、過去に統合失調症だった病歴があり、さらに9年前の事件当時ドゲット家の近くに住んでいた事を突き止め逮捕する。しかしミルズは犯行を否認し、ルークの事件に執着していたのでドゲットを助けようとした、と言うだけだった。

 振り出しに戻ったドゲットは、疲れ果ててバーにいたレガーリを訪ねる。レガーリは仮定と断り、ある話を聞かせる。ハービーがルークを誘拐したあと、犯罪者とつながりを持つ、ある「ビジネスマン」がハービーを訪ねてきた。ビジネスマンはルークに顔を見られたため、ハービーとの関係を他言されないために、ルークという問題に何らかの対処をしなければならなかったのだと。直後、レガーリは店の外に出るが、次の瞬間フォーマーに射殺された。

 最後。ドゲットと元妻のバーバラが海岸でルークの遺灰を撒いているシーンで〆。


監督 キム・マナーズ
脚本 デヴィッド・アマン(原案 ジョン・シバン & デヴィッド・アマン)


感想

 評価は○。

 前シーズン(シーズン8)から継続していていた、ドゲットの息子ルークの誘拐殺人話の完結編。全体に流れるもの悲しいピアノ曲の調べと、ラストで海に遺灰を撒くという叙情的な展開で、出来の良い話のように思ってしまったが、視聴後によくよく考えてみると、結構クセのある奇妙な話だった。


 今回展開されたのは、ドゲットの息子ルークが9年前に誘拐され数日後に死体で見つかったという事件の捜査で、事件の詳細はシーズン8・第17話「秘密」で明らかにされている。

 「番組のメインキャラの男性が、理不尽な事件により身内を失い、その結果家庭は崩壊し、今もその事件が忘れる事のできない苦しみとなってのしかかっている」という設定は、モルダーにおけるサマンサ失踪事件とそっくり同じパターンである。

 という事で、もしX-ファイルがシーズン9以降も継続していたら、サマンサ失踪事件同様に、毎シリーズに1・2回はこの事件に関するエピソードが作られたことはまず間違いない。多分、毎回「犯人らしい人間が見つかってドゲットが意気込むものの、結局やはり事件とは無関係と判明して落胆しておしまい」という展開が果てしも無くリピートされたはずである。しかし番組がシーズン9で打ち切りになったことで、足掛け2シーズンという短期間で速攻解決となったわけである。

 今回、ルーク殺しの第一容疑者だったボブ・ハービーが一年前に死んだという事が語られるが、その死にまつわる事件がまさに「秘密」だった。つまり、最初にルークの事件が語られてからちょうど一年後に同じ17話で事件が解決した訳で、スタッフはこれは狙ってやったのだろうか、それとも単なる偶然に過ぎないのだろうか。

 今回のゲストキャラのヘイズ/ミルズは、自称霊能力の持ち主で、被害者の声が聞こえると言い出す、一見危ない男である。しかし、単なる霊感頼り(?)の電波キャラクターではなく、死体を見ただけで殺人の詳細な様子を描写したり、本職のプロファイラーより優れた洞察で犯人像を描き出したりする、スーパーキャラとして設定されている。原案の二人は、ヘイズ/ミルズを、あのシャーロック・ホームズを意識して創造したらしい。

 そのため、視聴しているうちに、今回はドゲットが霊能力と推理力を併せ持つ助っ人の導きで息子殺しの真犯人を見つけるという、いかにもの心霊系のエピソードになるのかと思っていたら、実はその助っ人自身が事件の容疑者という予想もしない方向に話が転がって行って、心底驚かされた。しかも最終的には、事件は(視聴者の視点では)解決せずに終わってしまう。おいおいと突っ込まずにはいられない。

 しかし、ラストシーンを見ると、ドゲットと元妻のバーバラがルークの遺灰を海に撒いているし、何せサブタイトルが「解放」である。ドゲットが今までの苦しみから解放されたというのだから、劇中では事件は完璧に解決したのは間違いない。ということで、「真犯人が誰だったのか?」は、視聴者の考えに委ねられてしまっている。なんとも意表を突く結末ではある。


 さて、結局真犯人は誰だったのだろうか。

 フォーマー副長官か? レガーリの説明の中で語られた「ビジネスマン」とはフォーマーであり、最後に口封じ的な意味でレガーリを射殺したのか?

 レガーリか? レガーリがドゲットに語った「ビジネスマン」云々は全て作り話であり、レガーリが殺したのか? レガーリは事件当時犯行現場近くのガソリンスタンドに立ち寄ったという状況証拠が存在する。

 ヘイズ/ミルズか? 心を病んでいたミルズの犯行なのか?

 ボブ・ハービーか? 第一容疑者だったハービーが実際に犯人だったのか?


 ヘイズ/ミルズの証言によれば、ハービーは誘拐を実行しただけで殺してはいない事になる。フォーマーはレガーリと二人きりの際に「お前が子供を殺したのか?」と聞いていて、フォーマーは犯人ではないように見える。レガーリは自分で殺しを否定している。ヘイズ/ミルズは、自分は犯人ではなく、ドゲットの事件解決を手伝いたかっただけだという。結局誰のいう事を信じるかで、誰もが犯人になりそうな展開のまま幕引きである。まさにX-ファイル版の「藪の中」である。

 ドゲットと元妻が海岸で灰を撒くラストでなんとなく良い感じで締めくくられてしまったが、結局真相は不明のままであり、見ているほうの心は全く解放とは程遠いことになってしまった。例えば、UFO事件で「この事件は宇宙人の仕業だったのか、実は違ったのか」といった結末なら、それはそれで超常現象物らしい味のあるラストと言えるが、刑事事件の犯人が解らないまま終わりというのは、なんともモヤモヤするとしか言いようがない。

シーズン9の他のエピソードのあらすじ・感想はこちら

「X-ファイル シーズン9」あらすじ・感想まとめ