感想:科学番組「フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿」第16回『消された指紋』

指紋を発見した男―ヘンリー・フォールズと犯罪科学捜査の夜明け

フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿 http://www4.nhk.or.jp/P3442/
放送 NHK BSプレミアム(毎月最終木曜日 22:00~23:00 放送)。

【※以下ネタバレ】
 
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「フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿」内容・感想まとめ

 

第16回 『Case16 消された指紋』 (2017年8月31日(木)放送)

 

内容

8月31日木曜
フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿「消された指紋」


科学史に埋もれた闇の事件簿。今回は、科学捜査の先駆け「指紋鑑定」の誕生にまつわる知られざる物語。個人識別のための指紋鑑定を世界で初めて提唱したのはイギリスの医師ヘンリー・フォールズ。だが一介の貧しい医師だったために、その研究成果は学会の権威や警察に奪われ、実用化され、彼自身の功績は無視された!いまや生体認証技術の根幹をなす、究極の個人情報「指紋」。その鑑定技術の誕生と発展をめぐる、科学の闇に迫る!

●ヘンリー・フォールズの指紋研究

 19世紀末まで個人を特定する方法は存在しなかった。犯罪捜査では容姿などを手掛かりにするしかなかったが、外見などは加齢などで変化してしまうので決定的な物ではない。しかし当時はそれしかなかった。

 ヘンリー・フォールズ(1843-1930)はイギリス人の医師。彼は1874年に宣教師&医師として日本を訪れ、モースの大森貝塚の発掘を手伝ううち、土器に3000年前の人間の指紋が付いていることに気が付いた。フォールズは当時の最先端の学説である進化論の証拠に指紋が利用できるのではと思いついた。人種などによって指紋が異なるのではないかと推測したのである。

 フォールズは周りの人間から片っ端から指紋を集めた結果、人種云々という面では成果はなかったものの、指紋は一人ひとり違うという「万人不同」を発見した。また指先を傷つけてみても、指紋が以前と同じ形で再生することを確かめた。さらに、子供の指紋を追跡調査して、加齢で形が変わらない「終生不変」であることを確認した。

 ある時、病院の医療用アルコールが盗まれ、犯人はコップ代わりに使ったビーカーに指紋を残していた。フォールズは収拾したサンプルの指紋と比較し、犯人が病院に出入りする医学生だと突き止めた。

 1880年、フォールズは指紋についての論文をネイチャー誌に発表し、指紋が犯罪捜査に使えると指摘した。しかし論文には何の反応も無かった。その後フォールズは各国の警察に指紋が犯罪捜査に使えると訴えたが、すべて無視された。



●ゴールトンの研究

 フランシス・ゴールトンはイギリスの上流階級出身の科学者で、あのダーウィンの従兄弟。上流階級の人間は生まれながらに人種的に優れているという優勢思想の持ち主で、優れた人間を掛け合わせてより優れた人間を生み出す、という「優生学」の発案者。

 ゴールトンは優れた人間には何か特徴があるのでは考え、色々な特徴を探すうち、指紋がそうではないかと考えた。やはり上流階級の人間でウィリアム・ハーシェルが、インドで行政官をしている際、指紋を個人特定のサイン代わりに使用しているという話を知り、彼と共同で指紋を研究した。

 そして1892年に指紋についての本を発表。これが反響を呼び、スコットランドヤードは1894年から指紋を犯罪捜査に利用し始めた。ゴールトンは著書の中でハーシェルには触れていたが、フォールズの事は「先に指紋について調べていた人もいる」程度の扱いしかせず、しかも名前の綴りが間違っていた。

 フォールズは指紋についての研究は自分が先にしていたと訴えたが、無名のフォールズと、上流階級の出で有名人のゴールトンでは相手にならず、指紋研究の先駆者の称号はゴールトンの物となってしまった。フォールズは歯ぎしりするものの、どうにもならないままだった。



●指紋と犯罪捜査

 1905年、イギリスで強盗殺人事件が発生し、証拠は現場に残された親指の指紋のみだった。検察はこの一個の指紋を持って犯人のものだと主張。この事件ではなんと弁護側の証人としてフォールズがいた。フォールズは指紋は10個揃って初めて本人を特定できるもので、一個だけでは個人特定は不可能で、冤罪を生みかねないと考えていた。

 しかし結局フォールズは証言の機会も得られないまま、裁判は敗訴となった。この事件をきっかけに、指紋は犯罪捜査の決定的証拠と認められるようになった。



●その後のフォールズ

 フォールズはその後も自分の研究を認めるように訴えてゴールトンを攻撃、ゴールトンが1911年に死ぬと、今度はハーシェルに食って掛かった。しかしハーシェルも死んでしまい、論争する相手を失って失意のうちに1930年に亡くなった。



●フォールズの再発見

 ゴールトンは指紋が優生学の研究に使用できないと知ると、もう興味を失っていた。しかし彼は指紋研究の先駆者として歴史に記録されていた。

 フォールズはその後歴史の中に埋もれていたが、1974年、指紋鑑定関係者の世界的組織「指紋協会」が設立され、フォールズが再発見された。1987年、教会が荒れ果てていたフォールズの墓を建て直し、墓には指紋研究の先駆者と刻まれた。


感想

 今回は全く知らないエピソードだったので、最初から最後まで楽しく視聴できました。こういう生々しい研究の成果争いというか、いかにもこの番組らしい内容で堪能できましたですよ。
 
 

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