感想:科学番組「フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿」第10回『脳を切る 悪魔の手術ロボトミー』

ロボトミスト 3400回ロボトミー手術を行った医師の栄光と失墜

フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿 http://www4.nhk.or.jp/P3442/
放送 NHK BSプレミアム(毎月最終木曜日 21:00~22:00 放送)。

【※以下ネタバレ】
 
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「フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿」内容・感想まとめ

 

第10回 『Case10 脳を切る 悪魔の手術ロボトミー』 (2017年2月23日(木)放送)

 

内容

フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿▽脳を切る 悪魔の手術ロボトミー


科学史に埋もれた闇に迫る。今回取り上げるのは悪魔の手術「ロボトミー」!精神疾患患者の脳の一部を切除し「おとなしくさせる」手術だ。現在では人間性を剥奪する「史上最悪の外科手術」とされているが、1950年代まで「奇跡の手術」として日本を含め世界中で盛んに行われていた。なぜロボトミーは生まれ世界に広まったのか?ロボトミーの普及と改良に生涯を捧げ3500人の脳を切った神経科医を追い、その光と影に迫る!

 今回は悪魔の手術「ロボトミー」を生み出した精神科医ウォルター・フリーマン(1895-1972)の物語。


精神疾患を手術で治す

 ウォルター・フリーマンの祖父ウイリアム・キーンは有名な外科医で、世界初の脳腫瘍手術を行い、ルーズベルト大統領の主治医も務めた人物だった。フリーマンは祖父にあこがれ医学の道に入り、精神疾患治療の道に進んだ。

 20世紀初頭、精神疾患はまともな治療法がなく、患者はただ病院に閉じ込められて社会から隔離されているだけだった。そして、治療法と言えば、電気ショック、インスリンを無理やり投与する、マラリアに感染させる、など、まともでないものばかりで、とても治療とは言えないものばかりだった。

 1935年、学会でチンパンジーの脳を手術し狂暴性を抑える、という研究が発表された。そしてポルトガルの医師エガス・モニス(のちのノーベル賞受賞者)は精神疾患の患者の脳で、前頭葉視床を切り離す手術を行い、成果を上げたと発表した。

 1936年、フリーマンは激越型うつ病の患者に同じ手術を行い(頭の横に穴を開けて器具を差し込む)、著しい効果を上げた。彼はこの手術を「前頭葉」と「切る」を意味するラテン語「LOBO」「TOMY」を組み合わせて「ロボトミー」と名付けた。

 フリーマンはこのロボトミー手術をマスコミを使って宣伝し、またアメリカ全土を旅して手術法を伝授してまわった。こうしてロボトミーはどんどん広まっていった。



●新型ロボトミーの開発

 1945年、第二次世界大戦が終わると兵士たちが復員してきたが、彼らのかなりの数が戦争で精神を病んでいた。そんな人たちにロボトミーを行うため、フリーマンは「改良型ロボトミー手術」を発明した。それは外科医ではない精神科医が簡単に手術できるように、麻酔も専門器具も使わず、患者を使い慣れた電気ショックで失神させた後、目の裏からアイスピックを突っ込んで脳をかき切る、という物だった。

 1949年にはあのエガス・モニスがロボトミーの技術についてノーベル賞を受賞した。これをきっかけに世界中でロボトミー手術が行われるようになった。この頃がロボトミーの絶頂期だった。



●恐るべき副作用

 やがてフリーマンはロボトミー精神疾患の治療だけでなく、予防にも使えると言い出した。そしてまだ12歳の子供を統合失調症と診断しロボトミー手術を行った。さすがにこの行動には非難が殺到した。さらにロボトミーは夢の治療法ではなく、恐ろしい副作用があることが次第に明らかになった。

 てんかんの発作などから解放される代わりに、それまでの人格を失い一人では生活できないような別人になる例が次々と現れたのである。

 しかしロボトミーは適用範囲を拡大し、「犯罪者」や「同性愛者」にまで治療が行われるようになった。そんな実態が小説「カッコーの巣の上で」で描かれた。精神病院内で反抗し続けた主人公が最後にはロボトミー手術を受けさせられ別人と化す話である。この小説は映画化されて大ヒットした。こうしてロボトミーの非人道性が世界に知れ渡った。


ロボトミーの終焉

 1967年、ついにロボトミー手術を行う病院は無くなった。翌1968年、フリーマンは全米の元患者たち600人を訪問し、230人に効果が有ったことを調べ論文として提出した。しかしもうそれに興味を持つ者は誰もいなかった。1972年、フリーマンは76歳で死去した。


ロボトミー手術の末裔

 現代アメリカではうつ病の治療のため、放射線を原因と思われる脳の一部に照射する、いわゆるガンマナイフ手術が許可されている。しかしその箇所が病気の原因であるという確証は未だ得られていない。にもかかわらず治療を待つ患者は数百人にも上るという。


感想

 この回はホント見ていてきつかった……、「なんとなく効きそう」というだけで、目から脳にアイスピックを突っ込んでぐりぐりかき回すなんて、話を聞いただけで身の毛がよだちますよ。そして、そのインスタント治療法で人格を破壊されて一生涯施設で暮らす羽目になったとか、もうエピソードがダーク過ぎました……、本物の闇の事件簿でしたよ。
 
 

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「フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿」内容・感想まとめ

 
 
ぼくの脳を返して~ロボトミー手術に翻弄されたある少年の物語~