堀井雄二が手掛けたAVG
ゲーム系のサイトの「AUTOMATON」で興味深い記事が掲載されました。堀井雄二氏がゲーム制作者のキャリアの初期に作った伝説のAVGシリーズを、本人のインタビューにより徹底分析するという企画です。
「堀井雄二」調査団: アドベンチャーゲームは如何に日本のストーリーゲームを発展させていったか? (前編) | AUTOMATON
http://jp.automaton.am/articles/interviewsjp/20171215-59185/同 中編
http://jp.automaton.am/articles/interviewsjp/20171216-59190/同 後編
http://jp.automaton.am/articles/interviewsjp/20171217-59192/
jp.automaton.am
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堀井雄二氏は、今では「ドラゴンクエストの人」としてあまりも有名で、「ドラクエの前に作っていたのは……」という文脈で「ポートピア連続殺人事件」「オホーツクに消ゆ」も良く取り上げられますが、今回の記事ではそれらのAVGをゲームシステム面から徹底的に分析し、「実は堀井雄二がその後の日本のAVGの原型を作り上げたパイオニア」という結論にもっていっています。
非常に興味深い内容なので、ちょっとまとめてみました。
1作目「ポートピア連続殺人事件」
1983年6月、PC-6001向けに発売。主人公の刑事であるボスは部下のヤスと共に殺人事件を解き明かす。コマンドを入力するとヤスを間接的に操作して事件を解明する。日本初の推理アドベンチャー。またファミコン移植版はファミコン初のアドベンチャーゲームとして、同様に記念碑的なゲームになった。ファミコン版はオープニングの有無、3Dダンジョンの有無、登場人物の追加、被害者の背景などいくつかの変更点がある。
この作品以前には無く「ポートピア」で導入されたエポックメイキングな要素を挙げていきます。
●時間経過
当時、ちょっと思ったのは、アドベンチャーゲームって『ミステリーハウス』もそうなんですけど、現状だけなんですよ。現状から時間が動かない状況で謎を解いていく。そうじゃなくて火曜サスペンス風にして、プレイしながら事件が進んでいって、ドラマティックな仕立てにしてみようと思ったのが『ポートピア連続殺人事件』なんですよね。(※)
時間経過の要素。上記インタビューの中で触れられている「ミステリーハウス」(マイクロキャビン)は宝探しAVGで、ある無人の家の中をうろうろして、アイテムを入手して使ったり、隠し部屋を見つけたりして、最終的にお宝を手に入れるというもの。自分以外の人間は出てこないし、何をしても時間は経過しません。自分以外誰もいない永遠に静止した世界での探索行です。
それに対して、ポートピアは色々捜査しているうちに、次々とドラマが進行していきます。こんなことは今では当たり前すぎて「発明」されたことすら認識していませんでしたが、これを生み出したのが堀井雄二氏なのです。
●「地の文」を無くす
やっぱりね、これは『ドラゴンクエスト』もそうなんですけど、僕的には人とやり取りして台詞だけでゲームが進むところだと思うんですよ。ヤスとのやり取りだけで進むのが『ポートピア連続殺人事件』のオリジナリティ性だと思っていて。つまり「地の文」というのがないんですね。
今のゲームでは全く想像もできませんが、初期(1980年代前半頃)のAVGというのは、物凄く説明調でした。例えば「机の上・見る」と指定すると、ゲームからは「机の上には本とペンが置いてあります」といった機械的な反応が返って来るだけ。
これをキャラクターと掛け合いに変え、エンターテインメント性を出したのが堀井雄二氏の発明。イメージとしては、こんな感じ。
コマンド「調べる+引き出し」→【探偵助手】「すでに調べましたが、特に何もありませんでした」
とか
コマンド「取る+依頼人のかつら」→【探偵助手】「先生止めてください! そんなことをしたらただじゃすみませんよ(汗)」
とか
といった具合に、行動に対して誰かの台詞の形でゲームが反応を返してくるわけです。
●場所移動の方式
――『ポートピア連続殺人事件』に話を戻しまして、それまでのアドベンチャーゲームは東西南北の方角を入力して少しずつ移動する方式(※)だったのに対して、『ポートピア連続殺人事件』は地名を入力すると瞬間的に移動します。これも当時、国内外含めて他にありませんでした。
堀井氏:
それも事件ものなんで色んなところに行くだろうって、本当にごくごく自然に生み出しましたね。東西南北ではなく、「ここに行け」「あそこに行け」と場所指定で瞬間的にその場所まで飛ぶ。
前述の「ミステリーハウス」は、移動は「方向転換(東西南北)」と「進む」の組み合わせでした。つまり北に行きたければ「北を向く」「進む」「進む」「進む」「進む」……と指定していたわけです。これはまあ宝探しゲームだから致し方ないとはいえ、『面倒くさい』ことこの上ない。堀井氏はそれを「現場に行け」というような指定に変え、床のマス目単位ではなく、場所単位で移動するようにしました。これなら手軽だし使いやすい。
今ではこれも当たり前ですが、やはり堀井氏が「発明」したものだったのです。
ガラケー版
http://www.square-enix.co.jp/mobile/game/mysteries/portopia/
2作目「北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ」
84年12月21日にPC-6001、PC-88シリーズから同時発売。コマンド選択型がはじめて体系的に使われたアドベンチャーゲームである。
ファミコン移植版はイラストレーター荒井清和氏がキャラクターデザインに起用され、劇画調から少年漫画的な表現に変わった。以降、ファミコンのアドベンチャーゲームはそれに習ったキャラクターデザインが定着した。ファミコン版は終盤の展開にだいぶ手が加えられている。
ちなみに『オホーツクに消ゆ』のプログラムから『アドベンチャーツクール』が生まれたが、これは『RPGツクール』の前身となったソフトであり、『オホーツクに消ゆ』はツクールシリーズの最初のサンプルゲームであった。
●「コマンド選択」方式の採用
このゲームの大発明は何といっても「コマンド選択」。
――『オホーツクに消ゆ』といえば、それまでの「コマンド入力型」をやめて「コマンド選択型」を発明されました。
コマンド入力型というのは、ゲームに対して、キーボードで「トル コップ」とか「シラベル カビン」とか一々手で入力して反応を探っていく、という物です。昔のコンピューターは手でいちいち命令(コマンド)を打ち込むのが当たり前だったので、ゲームにもその習慣が持ち込まれたわけです。
この方式は、当たり前ですが、見当はずれなことを入力してもまともに反応しません。例えば事件現場で「ミル シタイ」と入力すれば、「頭から血を流して倒れています」とかの対応が返ってきますが、ここで「タベル カビン」とか打ち込んでも、「ソレハデキマセン」と拒否されるだけです。
このコマンド入力形式というのは、「何を打ち込めばいいのか見当がつかない」ので、「殺人事件の捜査がテーマのゲーム」であっても、実際はクロスワードパズルのように「単語探し」がメインになってしまいがちでした。
そしてゲームの作り手も、簡単に先に進まれるとゲームがあっという間に終わってしまうので、「ここでこんな言葉を使うか!?」という想像を絶する単語を正解にして、それを当てなければ先に進めない、という様にしていました。
当時はその言葉探しこそが「ゲーム性」扱いで、考えぬいたコマンドを入力しないと感情移入できない、みたいな空気でした。時代の違いを感じますよね。
「オホーツク」の凄い所は、「言葉探しでプレイヤーにストレスを与えるくらいなら、使用できるコマンドを最初から一覧で用意しておいて、純粋に話を楽しんでもらおう」と割り切った点。この発想が無かったら、それ以降の名作と呼ばれたAVGも一つも生まれなかったかもしれません……、恐ろしい。
ガラケー版
http://www.square-enix.co.jp/mobile/game/mysteries/okhotsk/
3作目「軽井沢誘拐案内」
1985年4月下旬にPC-8801から発売。ロマンティック・ミステリーと題されて軽井沢を舞台に『ウルティマ』のような2Dスクロールマップとアドベンチャーゲームを組み合わせた異色作。PC発売以後はガラケーに移植されたのみで現在もっともプレイするのが難しいゲームとなっている。
いわゆる「ミステリー三部作」の最終作ですが、知名度がめちゃくちゃ低い……、前2作品と違いお色気要素を押し出したため、パソコン向けにしか発売されず、ゲーム機向けが出なかったせいですね。
●しゃべる主人公
――『軽井沢誘拐案内』のもっとも気になるところは、堀井さんのゲームとしては珍しく主人公に台詞があってしゃべる点です。
堀井氏:
これはですね、女の子とのやりとりなんで、あんまり無口でもドラマ性がないなと。主人公というよりは、女の子のキャラクターを立てたかったんで、しゃべらせたと思うんです。
ここについに主人公がしゃべると言う革命が起きます。それまでのAVGは主人公は「プレイヤーの分身」ゆえに、自ら話すことは無かったのですが、ここに「プレイヤーと主人公は別の人」という概念が誕生したのでした。今から考えると当たり前に思いますが、ウィザードリィとかそういうゲームのキャラがあくまでプレイヤーの分身で寡黙だったことを思うと、「主人公も人格がある別キャラ」という点にたどり着いたのは大発明でしょう。
あと革新と言えるかどうかは微妙ですが、
――『軽井沢誘拐案内』はフィールドマップの移動(※)と同時に地名でも瞬間的に移動できたり、東西南北の館や洞窟探検があったり、カーソル移動方式(※)になったり、最後にはRPGになる。なにかルールに基づいて物語があるというより、物語優位といいますか。物語によってゲームのルールがその場その場で変わってしまいますね。
AVGのはずなのに、いつの間にか女の子二人をパートナーにして敵と戦うフィールドRPGになっちゃうところ。AVGとRPGの両方の要素を併せ持つジャンルミックス作品だったわけです。まあプレイヤーウケが良かったかどうかは微妙だと思いますけど……
ちなみに、この作品はのちにスクエニがガラケー向けのゲームとしてリメイクしています。キャラの絵が凄く濃い……
↓
軽井沢誘拐案内
http://www.square-enix.co.jp/mobile/game/mysteries/karuizawa/
[未発売]「九龍の牙」
香港島や九龍の街を自由に探索することができ、カーアクションなどの見せ場なども考えられていた。敵を倒していくとレベルがあがり、カンフーの技や広東語を覚えることができる。広東語は呪文の役割になっており、買い物や情報収集で有利になる。主人公は性格付けされたものになることが構想されていた。『九龍の牙』のRPG要素、性格付けがある主人公、人身売買組織、そして「しめあげて聞く」といったコマンドは、『軽井沢誘拐案内』に反映されている。
[未発売]「ソヴィエト殺人ツアー 白夜に消えた目撃者」
システム的に時間概念があり、情報を聞こうが聞くまいがツアーのスケジュールが消化され、1日が経過してどんどん場所や物語が勝手に進んでしまう。寝るコマンドを選ぶだけで時間が進むことも検討された。
当初は純粋なスパイものが構想されたが、中高生のパソコンゲーマーに受け入れられるか?ということで、ツアーものの殺人事件に変更された。全10章(『軽井沢誘拐案内』は全6章)の大作になる予定だった。
ちなみに「月刊OUT」85年10月号のインタビューで堀井氏は“KGB対CIAで、亡命したいやつをまんまとアメリカに亡命させるアドベンチャーゲーム”とオチに関わる部分の発言をしている。
これも未発売。当時のソビエトにロケハンまでしたとのこと。時間の概念があり寝ているだけでもどんどん時間が進んでしまう、というシステムは、エルフの大ヒット作品「同級生」シリーズを連想しますよねぇ。