【SF小説】感想:小説「ブラックアウト (文庫版)」(渡辺浩弐/1999年)

BLACK OUT (幻冬舎文庫)

http://www.amazon.co.jp/dp/4877288082
文庫: 448ページ
出版社: 幻冬舎 (1999/11)
発売日: 1999/11

【※以下ネタバレ】
 

不法遺伝子操作、コンピュータ・ウイルス、プラズマ兵器、クローン人間…。20世紀末、超高度に発展した科学が人類を制圧した!多発する超ハイテク犯罪と、警察庁内の秘密組織・科学捜査部のすさまじい死闘。人類の未来は、コンピュータに握られている!人気深夜ドラマの原作で、幻のストーリーも追加した完全版。サイエンスホラーの最高傑作。

 
 

あらすじ

 1999年。大学講師・華屋(かや)宗一は、警察庁から秘密裏に接触を受け、警察庁がハイテク犯罪に対抗するために非公式に設立した部署「科学捜査部」の一員となる。他のメンバーはFBIに留学経験のあるキャリア中園祥子と、天才少年ハッカーの小林。三人のチームは暴走した科学によって引き起こされた様々な犯罪に挑んでゆく。

 科学捜査部は様々な事件を解決していくが、最終話(12話)で祥子は犯罪者が引き起こした核爆発に巻き込まれて被爆し死が目前となる。しかし華屋の提案で祥子に冷凍睡眠処理が施され、祥子は治療法が確立される未来まで眠り続けることになった。

 50年後。2049年。祥子は老いた華屋によって無事蘇生されるが、過去の記憶をすべて失っていた。立ち去る祥子を華屋が見送る場面で〆。


感想

 評価は(ぎりぎりでなんとか)○。

 以前にネットで「X-ファイルのファン向け」云々と言う評価を見て購入したが、正直期待外れだった。

 この作品は1995年にテレビ朝日系で放送されたテレビドラマ「ブラックアウト」の原作小説という触れ込みだが、調べてみるとどうも話が違っていて、小説が先に有ったのではなく、テレビドラマの内容を小説化したものであるらしい(話がまるで逆さまである)。小説の構成は、多分小説オリジナルのプロローグと、テレビドラマの内容を文字起こししたと思しき12の作品からなる連作短編集、となっている。

 ちなみにドラマ終了直後の1996年にハードカバー版が発売された後、1999年にこの文庫版が発売されたが、11・12話は文庫版にしか存在せず、またハードカバー版は文庫版とは別のオチであるらしい。


 この小説は、ジャンル的にはハイテクスリラーSF小説という事になるのだろうが、とにかく各話のストーリーが浅くて、どうにも失望に値した。はっきり言ってこれは「X-ファイル」ではなく、円谷の特撮ドラマ「怪奇大作戦」のオマージュというかそういうやつである。

 例えば第五話「地獄からのコール」は、電話を使ってかけた先の相手を殺す、という事件を扱う物で、怪奇大作戦の代表的エピソード「恐怖の電話」の丸パクリである。その他のエピソードはここまで露骨にパクった物は無かったものの、X-ファイル的な大人のドラマではなく、いかにも日本の特撮ドラマチックな話ばかりで、はっきり言って興ざめだった。

 まあそういう話でも映像としてみれば楽しめる可能性はあるが、想像力だけが勝負の文字メディアでこういう薄い話を書かれても、正直評価出来なかった。

 まあ数作品はおっと思わせるものも無くはなく、全てがダメというわけでは無かったのだが、正直に言えば期待外れでしかなかった。あと、近未来(発売当時)を舞台にした小説の筈だったのに、最終エピソードでいきなり50年後に話が飛んでしまうのもどうだろうと思わずにはいられない。


 まあ最初から「怪奇大作戦の亜種」という前提で読めば良かったのかもしれない。期待しすぎていたという事だろう。



 以下個々のエピソードの感想。

・シークレット・アクセス

 プロローグ。華屋がチャットで警察関係者を名乗る相手からスカウトされる。


 チャットって今でもあるのかな。



・Futurity1 設計された子供達 <クローニング>

 超低温で冷凍されていたと思われる死体が発見される。事件はレコード会社の社長がピアノの才能に恵まれた息子が欲しいので人工授精で三人クローンを作り、一番出来の良い一人だけを残して残り二人は臓器移植用に冷凍していたという真相。冷凍睡眠されていた一人は無事生き返って、ピアニストとして活躍していた方を殺してすり替わる。華屋たちはそれに気が付くが、すり替わりを立証しようがないので引き下がる。


 冷凍睡眠とか言い出した割に、オチはわりとしょぼい事件。いきなりがっかりさせられたが、続きも似たようなものだった……



・Futurity2 プラズマ・ゲーム <インディペンデント・テロリズム>

 人間が突然焼け死ぬ怪事件が頻発する。実は子供三人がインターネットを参考にプラズマ兵器を開発し面白半分に人を殺しまわっていた。しかし兵器からは放射線がまき散らされており、子供たちは放射線障害になっていた。最後に華屋たちが捕まえた時には、犯人たちは虫の息だった。


 プラズマ兵器……、今(2019年)となっては響きからしてなんか安っぽいですね。「恐るべき子供たち」系の話ですが、なんというかありがちなタイプでしたし。



・Futurity3 アルキメデスの罪 <バイオ・コンピュータ・ウイルス>

 厳重に守られていたはずのコンピューターが次々とウイルスに侵される事件が発生する。調べてみると、コンピューター内部に粘菌がうごめいていた。華屋の知人の科学者が粘菌を改良してコンピューターを犯す新種を作ったのだった。しかしその粘菌の胞子は人体に有害で、最後犯人が死んで〆。


 ネットワークを経由せずにリアルにコンピューターを侵すウイルス、って笑ってしまいましたよ。まあコンピューターの蓋を開けたらアメーバ的な物がうごめいていたら驚くとは思いますが。



・Futurity4 死者再生プログラム

 精巧な3Dホログラフィとコンピューターの組み合わせであたかも死者を蘇らせたように見せるビジネスが存在していた。しかし顧客たちは、ふとその蘇った「家族」が作り物だと気が付き、絶望して次々と自殺してしまう。華屋たちがその会社に乗り込むが、社長も死んだ父親の3D像と暮らしていた。しかし社長も父親が本物でないことに絶望し自殺、あとは作り物の父と子の映像だけが残る。


 ある意味本当に実現できそうな商売だとは思いますが、いかんせん話が面白くない。最後にホログラフィの父親と子供が話し合う場面とか「そう来ると思っていたよ」としか。



・Futurity5 地獄からのコール <音響爆弾>

 耳と脳が破壊された奇怪な死体が次々と見つかる。犯人はコールセンターの苦情受付係で、悪質なクレーマーに電話をかけ、知り合いの開発した音響兵器で復讐していたのだった。華屋たちは犯人を追い詰めるが犯人が兵器で自殺して〆。


 特撮「怪奇大作戦」の「恐怖の電話」のパクリとしか思えない。



・Futurity6 太古の毒 <ホメオボックス>

 未知の毒で死んだ人間が次々と見つかる。遺伝子の研究者が琥珀から6000万年前のハエの遺伝子を取り出し、現代のハエに移植して、猛毒を持つハエを作り出したのだった。しかも研究者は恐竜絶滅の理由はこのハエのせいだと仮説を立て、人間を犠牲にして毒性を研究していた。しかしハエはすぐに死んでしまい、自分はハエに残っていた毒で死んだ。


 とことんおかしな話。ジュラシックパークのパクリであることも問題ですが、毒性を調べたいならモルモットとか実験動物を使えばいいのに、何故人を殺して回らないといけないのか? 話が無理過ぎる。



・Futurity7 海のメデューサ <遺伝子捜査>

 海で石のような物に覆われた死体が発見される。実はリゾート会社が人工的に急成長するサンゴを開発していたが、このサンゴは生物をエサにする恐るべき性質が有った。華屋が研究者を問い詰めると、その研究者は幼い娘がサンゴにとりつかれていて、死なないように必死で研究していた。しかし娘が助からないことを悟り、娘と共に海に飛び込んで自殺して〆。


 娘がサンゴにくわれそうになって云々というお涙頂戴話の時点で醒めた。



・Futurity8 ハーメルン・ハッカー <サイバーチップ>

 突然人間が狂暴化して人を殺す事件が続発する。実はある会社が健康診断のついでに無断で人間をコントロールするチップを埋め込んでいて、それを悪用しているらしい。華屋たちがその会社に乗り込むと、実はハッカーにシステムを乗っ取られていると言い出す。そして都内ですさまじい数の事件が起きるが、突然終わる。事件の起きた場所に印をつけて遠くから見るとモナリザの絵になっていた。


 オチがちょっとX-ファイル風味でこれは気に入りました。



・Futurity9 夢を食うマシン <ブレイン・スキャニング>

 人間が理由も無く人を殺す事件が発生。調べて見ると犯人は「寝ている時間を利用して仕事をするシステム」の利用者だった。そのシステムの運営会社が寝ている人間を操り、人を殺させて会社の機密情報を盗ませていた。しかし最後に開発社内で内輪もめが起きて〆。


 アイデアは面白い。オチは「悪の研究者がこんな事を止めようとか言い出して仲間割れして〆」というありがち過ぎるもので失望しましたが。



・Futurity10 奇妙な人質 <人工受精>

 殺人事件の現場には受精卵を入れた容器が残されていた。どうも精子バンクの精子を勝手に受精させて子供を作り、親に認知を迫る悪質なビジネスが存在するらしい。華屋たちは犯人の女を追い詰めるが逃げられてしまい、つかまえた時には犯人が自分も妊娠していて、即時逮捕を免れる。


 5歳なのに大人並みの口を利く天才児が不気味。



・Futurity11 利己的な遺伝子 <ドーピング>

 町中で大量の注射器が見つかり、やがて成長ホルモンを投与して背を伸ばしたりドーピングしたりしている医者がいることが判明する。華屋は捕まえようとするものの、患者たちはその医者をかばったため、華屋は手が出せない。しかし切れた華屋は祥子の銃で医者を撃ち殺す。


 ひでえオチ。口で負けたから暴力に走るとか主人公の風上にも置けないキャラです。



・Futurity12  BLACK OUT <遺伝子解析>

 華屋の起こしたことは警察にもみ消された。やがて華屋の提供した遺伝子解析データにより、どの人間がどのくらい犯罪を犯しそうかという事が解るようになり、警察はそういった人間を次々と犯罪を犯す前に捕まえ始めた。やがて祥子はそういった犯罪者予備軍とみなされる人物の捜査に向かうが、その相手が起こした核爆発に巻き込まれて被ばくする。華屋は祥子を治療法が確立される未来まで冷凍睡眠させる。そして2049年、祥子は治療が済んで目覚めさせられるが、老いた華屋の事も記憶していなかった。


 いきなり50年後ってなんぞこれ。


参考:1996年発売のハードカバー版

発展しつづける科学が、悪魔の道具となった時、世界は『BLACK OUT』と化した。1999年、某日―。警察庁内に非公式組織が設立された。正式名称は警察庁科学捜査部。捜査官は西北大学理工学部講師と、FBIで犯罪心理学を学んだエリート女性警察官。さらに天才ハッカーの少年が加わった。捜査対象はハイテク犯罪。それまでの警察のレベルを超越した事件が多発していたのだ。クローニング、DNA操作、コンピュータ・ウイルス…。多発するハイテク犯罪に科学捜査部が立ち向かう。カルト的人気深夜ドラマの原作。

 

2019年の読書の感想の一覧は以下のページでどうぞ

perry-r.hatenablog.com
 
ブラックアウト