感想:海外ドラマ「刑事コロンボ」第12話「アリバイのダイヤル」

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刑事コロンボNHK BSプレミアム BS4K 海外ドラマ https://www9.nhk.or.jp/kaigai/columbo/
放送 NHK BSプレミアム

【※以下ネタバレ】
 

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第12話 アリバイのダイヤル THE MOST CRUCIAL GAME (第2シーズン(1972~1973)・第3話)

 

あらすじ

人気フットボールチームのゼネラル・マネージャー、ハンロンは、初代チームオーナーの放とう息子で現オーナーのエリックを殺し、自分がトップに立とうと画策。彼の屋敷へ向かう途中、ラジオの試合中継を流し試合会場にいるふりをしてエリックへ電話。屋敷に着き彼を殺害した。エリックの死は事故と判断されかけたが、コロンボは現場の状況のおかしな点を見抜いていく。

●序盤

 フットボールチーム「ロケット」のゼネラルマネージャーのポール・ハンロンは、若いオーナー、エリック・ワグナーの代理として、ビジネス全般を取り仕切っていた。エリックは、二年前に亡くなった父親の事業を引き継いだものの、仕事に全く興味が無く、酒と女に溺れる毎日を送っていた。

 ある日、ハンロンはスタジアムのボックス席で自チームの試合を観戦しているふりをして、こっそり抜け出すと、アイスクリーム販売車に乗ってエリックの屋敷に向かう。そして途中の公衆電話で、ラジオ放送で試合の音声を流してボックス席にいるふりをしながらエリックに連絡を入れる。そのあと、エリックの屋敷に乗り込み、プールで泳いでいたエリックの頭を氷で殴って失神させ、足跡を水で洗い流すと、そのままこっそりスタジアムに戻る。


●中盤

 エリックの屋敷で、死後数時間経ったエリックの溺死死体が発見されるが、医者は飛び込みの際に頭を打って意識を失い、そのまま溺死したと推測する。しかしコロンボはプールの周囲に、水道水が撒かれていたことに気が付く。

 コロンボは、水道水の件や、現場近くで目撃された不審なアイスクリーム販売車、といった状況証拠を元に、これは殺人だと考える。コロンボはロケットのコーチから、ハンロンはボックス席で試合を見ていた筈だが、試合に前半チームが負けていたのに、前半終了直後は機嫌が良かったという話を聞く。

 やがて、コロンボは、エリックの屋敷の電話に盗聴器が仕掛けられていることに気が付き、深夜それを回収しに来た私立探偵を捕まえる。私立探偵を雇ったのは、エリックやその父親の代からの弁護士ウォルター・キャネルだった。キャネルはハンロンと折り合いが悪く、エリックの屋敷とハンロンのオフィスの電話に盗聴器を仕掛けさせて、ハンロンの足を引っ張る証拠を握ろうとしていた。

 しかし盗聴された録音には、犯行直前にハンロンがボックス席と思しきところからエリックに電話している音声が入っており、これでハンロンのアリバイが成立してしまう。しかしコロンボは、ハンロンが盗聴器の事を知っており、それを逆手に取って何らかのトリックでアリバイを偽造したと考える。

 コロンボは、私立探偵から、イブ・バブコックという女性を雇って、ハンロンのオフィスとエリックの屋敷に盗聴器を仕掛けさせたことを聞き出す。さらにコロンボはイブの本名がロゴージーであり、ハンロンに何度も電話をかけていた相手だと確認する。


●終盤

 ハンロンがスタジアムのボックス席にいると、エリックが殺害されたのと同じ14時半の直前にコロンボが訪ねてくる。そしてコロンボは、ハンロンがエリックにかけた電話には、あるはずの音が入っていない、つまり偽造だと指摘する。ハンロンが詰め寄ると、丁度14時半となり、置時計のアラームが響く(※テープには時計のアラームは入っていなかった)。それに気が付いたハンロンが、無言でコロンボを睨みつけて終幕。


監督 ジェレミー・ケーガン
脚本 ジョン・T・デュガン


感想

 評価は○(そこそこ)。

 ラストシーンの切れ味は見事だが、全体的にはコロンボらしくない構成で、評価はそこそこといったところ。

 このエピソードの最大の特徴は、ストーリー途中まで視聴者にも隠されている事実がいくつもあり、話の終盤にならないと事件の全体像が見えないところ、だろう。普通のコロンボ物のストーリーであれば、序盤に「犯人と被害者の関係」「殺人の動機」「殺人の様子」など必要な情報が全て手際よく紹介され、それ以降はコロンボが如何に証拠を見つけていくか、という流れとなる。

 ところが本作では、いくつもの事実が伏せられたままで進んでいくため、序盤にハンロンがエリックを殺しに行く前に、わざわざラジオを付けて、スタジアムのボックス席から電話したようなふりをする理由が、当初はまるで解らない。

 やがて、「エリックの屋敷とハンコックのオフィスに盗聴器が仕掛けられていた事」「それを指示したのがハンロンと対立する弁護士キャネルであること」「実はハンロンもそれを知っていたこと」などが明らかになって、初めてハンロンが盗聴器をアリバイ作りに利用した事が明らかになる。

 普通の犯人当て型ミステリーであれば、最初は解らないことだらけで、話が進むにしたがって様々な事実が明らかになり最終的に謎が解ける、というのは至極普通の構成だが、倒叙型(最初から犯人が解っている)のコロンボでそういう構成になっているのは珍しい。初期のシーズン1・2頃は色々と話の作り方を試行錯誤していたのが見て取れる。


 話をじっくり見ていると。

・序盤にハンロンのボックス席の描写で豪華な時計が写る … 結末への伏線

・エリックの屋敷で電話がかかる度にラジオに雑音が入る … 盗聴器を仕掛けてある証拠

・エリックの屋敷でハンロン宛てに何度も「ロゴージー」という人物から電話がかかってくる … イヴ・パブコックとハンロンが繋がっていた事の伏線

・エリックの屋敷で、ハンロンの秘書が「前任者は三日で首になった」と言っている … これがイヴのことだった


 等々、きちんと後々のための伏線は用意されていて、見直すと結構よく計算されて話が作ってあるのが解る。ただ、コロンボ物の王道パターンではないのも事実である。


 さて、この話は、いくつもの事実が終盤までに明かされるとは書いたが、重要な「殺人の動機」については全く触れられないままで終わるのが困りものである。状況を見ても、ハンロンがエリックに恨みを抱いたりするような要素は皆無だし、エリックを殺すことで金銭的に得をするという事も無かった。ビジネスについても、エリックはあまりやる気は見せなかったものの、それでもハンロンと共にモントリオールに行くという話は承諾していたので、エリックのせいで仕事が先に進まない、という事でも無かった。

 エリックを殺して、未亡人となったシャーリーに接近してワグナー王国の資産を手に入れる、という腹かとも考えたが、劇中の描写を見る限り、シャーリーとは「オーナーの妻」と「仕事の関係者」以上の付き合いには見えない。結局、何が動機だったのか全く見えず、これにはモヤモヤさせられた。


 しかし、色々あったものの、ラストの切れ味は実に見事で、コロンボが犯行が行われたのとほぼ同時刻にハンロンを訪問し、録音テープを再生し、テープに入っていない時計の音が鳴り響くシーンは、実に上手い。そしてハンロンが振り向いて時計を見た後、何も言えずにコロンボをにらむシーンで締めくくるのが、演出として最高だった。

 というわけで、良いシーンもあるのだが、全面的にもろ手を挙げて評価できる内容でも無い、という微妙な仕上がりの一作となっている。良くも悪くも、シリーズ初期の、試行錯誤していた証という感じの作品だった。



 今回は、コロンボがエリックの屋敷のプールで靴を水で濡らしてダメにしてしまい、弁護士のキャネルやバスケットボールの関係者など、良い靴を履いている人物に会うたびに「その靴いくらでした?」とか「どこで買いました?」とか訪ねて回っているのが妙に面白かった。

 あと、ハンロンがバスケットボールの練習場でプロの選手たちに来てもらった云々と言うシーンがあるが、ここで登場していたのは、当時現実で有名なバスケ選手たちだったとのことで、サプライズの豪華ゲスト登場、というシーンだったのかもしれない。



 本作のサブタイトルは、原題は「THE MOST CRUCIAL GAME」で、意味は「最も重要なゲーム」となる。殺人を遠回しに表現したものだと推測されるが、ハンロンがスポーツ関係者だから「ゲーム」という言葉を使ったと思われ、まあ悪くはないセンスである。日本語サブタイトル「アリバイのダイヤル」は、意味が解ってみればなるほどと思えるが、終盤まではハンロンの電話がアリバイに繋がるとは分からないので、ちょっとイマイチの感がある。

備考

 放送時間:1時間14分。
 
 

#12 アリバイのダイヤル THE MOST CRUCIAL GAME
日本初回放送:1973年


コロンボ』では異色の「アリバイ崩し」作品。事件の構成要素がばらばらに登場し、見ている者を混乱させる。ロバート・カルプは「指輪の爪あと」に続いて2度目の犯人役。


出演
コロンボ・・・ピーター・フォーク小池朝雄
ポール・ハンロン・・・ロバート・カルプ(梅野泰靖
エリック・・・ディーン・ストックウェル(森功至
キャネル・・・ディーン・ジャガー(真木恭介)
リゾ・・・ジェームズ・グレゴリー(富田耕生
イブ・・・バレリー・ハーパー(荒砂ゆき)
シャーリー・・・スーザン・ハワード(武藤礼子


演出
ジェレミー・ケーガン


脚本
ジョン・T・デュガン

 

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