【歴史】感想:歴史番組「ダークサイドミステリー」シーズン4(2022年版)「徹底検証!地震の都市伝説 ~人工地震・予言・自然異常~」(2022年7月21日(木)放送)

日本の地震予知研究130年史: 明治期から東日本大震災まで

ダークサイドミステリー NHK https://www.nhk.jp/p/darkside/ts/4847XJM6K8/
放送 NHK BSプレミアム。毎週木曜夜9時放送。

www.nhk.jp
【※以下ネタバレ】
 

他の回の内容・感想

perry-r.hatenablog.com
 

本当の謎は、人間の闇


シーズン4スタートしました!
今年度はなんと、地上波・Eテレで毎週(火)夜10:45放送の、名作の数々のコンパクト29分版と同時期放送です!
背筋がゾワゾワ、心がドキドキ、怖いからこそ見たくなる。世界はそんなミステリーに満ちている。世間を揺るがした未解決の事件、常識を越えた自然の脅威、いにしえの不思議な伝説、怪しい歴史の記録、作家の驚異の創造力…。
人智を超えた謎に迫る「幻解!超常ファイル」のスピンオフ!
栗山千明中田譲治志方あきこのダークなトライアングルに加え、伊藤海彦アナウンサーも参加!

 

徹底検証!地震の都市伝説 ~人工地震・予言・自然異常~ (2022年7月21日(木)放送)

 

内容

ダークサイドミステリー「徹底検証!地震の都市伝説~人工地震・予言・自然異常~」
[BSプレミアム] 2022年07月21日 午後9:00 ~ 午後10:00 (60分)


あなたはダマされてないか?地震の怪しいウワサを徹底検証!衝撃の「人工地震」映像やナマズの統計実験、絶対当たる予言テクニック、予知のまじめな最新研究など全部盛り!


大きな地震が起きるたびに飛び交う、怪しいウワサの数々はどこまで本当なのか、ガチンコ検証!科学による予知の最新研究もまじめにお伝えします。▽衝撃映像!これが本当の「人工地震」だ!▽ネタバレ!絶対当たる予言テクニック!▽ナマズの予知をホンキ実験?▽雲が!虹が!怪しい前兆?▽いきなりドスン!は核兵器?▽前夜に赤ん坊が叫んだ?▽中国が地震予知に成功?▽探査船ちきゅうの真実▽そもそもなぜ地震は起きる?


【ナビゲーター】栗山千明,【ゲスト】東京大学地震研究所教授…古村孝志,科学ジャーナリスト皆神龍太郎,【語り】中田譲治,【司会】伊藤海彦

 
 今回のテーマは「地震について色々」


陰謀論「人工地震」の真実

 2022年3月16日、福島県地震マグニチュード7.4)が発生した。そして、地震の後、SNSでは「今回の地震は人工地震だ」といううわさが飛び交った。普通は地震は、小さな揺れ「初期微動」のあとに大きな揺れ「主要動」が続くが、福島県地震では初期微動が無く、いきなり大きな揺れが発生したからである。

 また地震の波形を分析し、地下核実験で発生した地震と似ていると指摘するものもあった。地下核実験では初期微動はなく、いきなり大きな揺れが発生するからである。

 さらに「ちきゅうの仕業」とするものもあった。「ちきゅう」とは「地球深部探査船 ちきゅう」のこと。この船は国の研究機関の下、地下深くまでドリルで穴を掘り、地震の発生原因などを調査している。ネットの説では、このちきゅうが地下深くに穴を掘って核爆弾を仕掛け、人工地震を起こしているというのである。

 しかも、過去の新聞を調べてみると、しっかり新聞記事に「人工地震」を起こした、という内容が掲載されているのである!


 などという陰謀論に騙されてはいけない。


・何故いきなり大きな揺れが起きたのか?

 地震の初期微動は「P波」、主要動は「S波」という。P波は速く、S波は遅い。そのため、震源から遠い場所では、弱くなったP波が先に到着し、続いて強いS波がやってくるので、「最初は弱い揺れ、続いて強い揺れ」となる。ところが震源から近い場所では、強いままのP波が先に到着し、続いてさらに強いS波がやってくるので「最初から強い揺れ、続いてもっと強い揺れ」となる。 結論「いきなり強い揺れが来るのは震源が近いから」。地震の原因がどうこうという話ではない。

 福島県地震の波形を見ると、ちゃんと揺れが徐々に強くなっていることが確認でき、初期微動が存在しているとわかる。核爆発ではいきなり大きな揺れが発生するので、全く違う。



・「ちきゅう」についての誤解

 ちきゅうのドリルで掘れる穴は、直径20センチ程度。この小さなドリルで、地震を起こせるほどの核爆弾を地下に仕掛けられるわけがない。

 また、設計上ちきゅうが掘れる深さは海底から7Kmだが、今までに掘った事のある深さは最大約3Kmである。過去の大地震震源の深さは

1995年 阪神・淡路大震災 … 16Km
2011年 東日本大震災 … 24Km
2016年 熊本地震 … 12Km
2022年 福島県地震 … 57Km

と、とてもちきゅうの技術では到達できない深さである。



・過去の「人工地震」記事とは

 過去の新聞記事で報道された「人工地震」とは、科学的な目的のため、地下100メートルほどに爆薬を仕掛けて起こした物で、地下の構造を調べたり、地下資源を探査するために行われた物。そのエネルギーはダイナマイト1トン分程度で、最大マグニチュード3.2程度。これは熊本地震のようなマグニチュード7級の地震の百万分の一のエネルギーしかない。こういった人工地震による調査は今でも当たり前に行われているが、「人工地震」という用語だけが独り歩きしている状況。

※現在では科学者たちは「人工地震」という言葉は止め、「制御震源」と表現するようになっているとのこと。


●怪しい「地震の予言者」たち

 「大地震を予言していた」という人たちが存在する。


・予言者その1 東日本大震災をひと月前に予言したAさん

 Aさんは2011年2月にブログに「太平洋岸で何かが起きそうな気配。石巻という地名が呼び掛けて来る……」云々と記載している。東北での地震を言い当てたのである。



・予言者その2 「予言の日付が地震前だ」と証明しているBさん

 ブラジル人のBさんは東日本大震災の発生を三年も前に予言し、それを警告する内容の手紙を日本大使館に郵送した。そしてその内容は「南海トラフ地震が起きるか、2011年3月11日か12日にマグニチュード8.9の地震が仙台で起き津波で大被害が出る」というものだった。

 Bさんはその手紙のコピーと共に、ブラジル郵政公社の伝票もサイトで公開していた。その伝票は、2007年11月12日に日本大使館に手紙を送ったという証拠だった。



 さて、この手の予言の真偽を見極めるポイントは以下の三つ。
ポイント1 あいまいな言葉の予言
ポイント2 たくさんの予言
ポイント3 わざとらしい日付アピール


 まずAさんの予言は「地震が起きる」とは一言も書いていない。このようなものは「マルチプル・アウト」という。曖昧な言葉で表現することで、あとから解釈を都合よく誘導する手法である。またAさんは過去6年間で120回も東北の地名を出して予言していた。つまり一ヵ月に1~2回も東北で地震が起きるような予言をしており、これだけの数が有ればいつかは当たって当たり前である。

 またBさんの予言は、伝票は本物だとしても、その際に予言の手紙を送ったという証明にはならない。全く別の内容の手紙を送った時の伝票を入手し、それを証拠と言い張っているだけかもしれない。


 また日付トリックでの予言は、SNSでも使われている。その手口は

1)ある年の7月にSNSに、非公開で「今年8月に大地震が起きる」「今年9月に(以下略)」「今年10月~」「今年11月~」と多数予言を投稿しておく。

2)もし10月に地震が起きた場合は、外れた予言「今年8月~」「今年9月~」「今年11月~」は削除し、「今年10月に大地震が起きる」という予言だけ残す。

3)非公開を公開に変更する

 こうすると、他の人には今年の7月に書き込んだ「今年10月に大地震が起きる」というものしか見えないので、7月に10月の地震を予言してたように見える、という訳である。


 こんな風に予言は簡単に捏造できるので、怪しい地震の予言には気を付けてください。



地震の前兆現象は存在するか?

 1970年代、中国は国民に対し「井戸水が濁ったり、家畜が騒いだりした場合は、地震の前兆『宏観異常現象(こうかんいじょうげんしょう)』の可能性が有るので当局に連絡するように」と通知していた。宏観異常現象とは、地震の前兆となる不可解な自然現象のこと。

 実際に中国は宏観異常現象により地震の被害を防いだことがある。1974年12月、中国・海城市氏では市民から「冬眠しているはずのヘビが現れた」「ネズミの大群が走り回った」「普段はおとなしい豚が騒ぎ出した」というような報告が相次いだ。さらに小さな地震の発生が増えたたため、当局は1975年2月4日午前10時に市民に避難命令を発令した。その9時間後にマグニチュード7.3の大地震「海城地震」が発生したが、既に市民の避難が終了していたため、被害は最小限に抑えられた。この出来事で宏観異常現象は予知に利用できるのではないか、と考えられるきっかけとなった。


 宏観異常現象と考えられるのが「地震雲」。1995年の阪神・淡路大震災の前にも地震雲とされるものが撮影されている。

 また地震研究家の椋平広吉(むくひら・ひろきち)は、虹で地震を予知した。椋平は「椋平虹」という短冊形の虹を観測することで、いつどこでどれくらいの地震が起きるか予言できるとした。実際、昭和5年11月26日に発生した北伊豆地震を予言した電報が残っている。椋平は的中率85パーセントと自称した。



 宏観異常現象は地震予知に使えるのだろうか?

 まず「地震雲」は、そもそも何が地震雲なのか全く定義されておらず、見た人が「あれは地震雲だ」と主張しているにすぎない。気象庁地震雲に関して「たまたま発生した奇妙な形の雲と地震を勝手に結び付けているだけ」と完全に否定している。


 また「椋平虹」は、椋平自身がなぜそのような虹で地震の予知ができるのか全く説明できず、経験上からわかるとしか言えなかった。また椋平が残したメモを地震学者は誰一人理解できなかった。


 動物の異常行動はどうか? 実は宏観異常現象が予知に使えるかどうかは

1)「前兆あり」&「地震発生」
2)「前兆あり」&「地震無し」
3)「前兆無し」&「地震発生」
4)「前兆無し」&「地震無し」

の回数を調べて見なければならない。1979年から85年にかけて神奈川県淡水魚養殖試験場は、ナマズの異常行動と横浜で起きた地震について研究した。すると
1)「前兆あり」&「地震発生」→10回
2)「前兆あり」&「地震無し」→140回
3)「前兆無し」&「地震発生」→14回

となった。つまり異常行動150回のうち、的中は10回だけ。これではとても予知には使えない。



 そもそも人間の認知の問題もある。ある研究で学生に「今日地震があったと仮定して、何か前兆らしきものがあればあげてください」と言うと、「月の色がおかしかった」「変な雲を見た」「金魚の様子がおかしかった」と宏観異常現象そのものの報告が相次いだ。つまり我々は日常的に「何か普段と違うおかしなこと」を目撃している。ただ、大地震が起きなければ、そういった事を気にも留めていないだけなのである。



東海地震は予知可能か

 1976年に、駿河湾震源とする東海地震が数十年以内に起こる可能性が指摘された。国は気象庁と一線の地震学者たちの力を結集し、地震予知プロジェクトをスタートさせた。目指したのは、地震の確実な前兆現象を見つけ出すこと。

 1978年1月に発生した伊豆大島近海地震では、前兆として「地殻変動」「井戸水の水位の変動」「地下水内のラドンガスの濃度の変化」などが観測され、地震予知に使えると期待された。しかし1980年6月発生の伊豆半島東方沖地震では、これらの前兆は全く観測されなかった。その後も「1994年9月 長野県西部地震」「1993年7月 北海道南西沖地震」「1995年1月 阪神・淡路大震災」のいずれでも前兆は観測されなかった。

 そのため、1990年代後半になると、前兆現象を追うのではなく、何故地震が起きるのか、という基礎研究に重点が置かれるようになった。

 それでも東海地震だけは予知の可能性が期待されていた。東海地震は、海側のプレートが陸側のプレートを引き込み、やがて陸側のプレートがはねあがる「海溝型地震」だと想定されている。そして東海地方は観測機器が充実しており、プレートが跳ね上がる前に固着している部分がすべる「前兆すべり」を観測できると考えられていた。しかし2011年3月11日の東日本大震災で、東海地震よりはるかに巨大と想定される地震にも関わらず、前兆すべりは観測できなかった。

 2017年9月、ついに国は東海地震は予知できないことを認めた。


感想

 人工地震地震の予言、地震雲などの前兆現象、と、地震についてオカルトに属するネタを詰め合わせて放送。いやこれもう「ダークな歴史」の番組ではなく、完全に「幻解!超常ファイル」の内容ですけど……、番組のアイデンティティというか、テーマの切り分けというか、スタッフの人は大丈夫ですか?

 しかしまあ、話は面白かったです。おつむの足りない連中が、地震が起きるたびにすぐ持ち出す「人工地震」ネタとか、怪しげな地震の予言ネタとかを、分かりやすく、しかし明快に斬り捨てていて痛快でした。

 あとは「地震予知って、基本的に不可能なんですね……」とよくわかりました。絶望……
 
 

光と闇のナビゲーター 栗山千明
語り 中田譲治
テーマ音楽 志方あきこ
司会 伊藤海彦 (アナウンサー)

 
 

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