【ゲームブック】感想:ゲームブック「サソリ沼の迷路」(スティーブ・ジャクソン(米)/1986年)【クリア】

アドベンチャーゲームブック サソリ沼の迷路‾ファイティング・ファンタジー (8)

http://www.amazon.co.jp/dp/4390111515
アドベンチャーゲームブック サソリ沼の迷路 ファイティング・ファンタジー (8) 文庫 1986/2/1
S ジャクソン (著), 大村 美根子 (著), スティーブ・ジャクソン (著)
出版社:社会思想社 (1986/2/1)
発売日:1986/2/1
文庫:400ページ

★★【以下ネタバレ】★★
 

これまで君は賢明にも、歩きにくい小径が縦横に交差する、恐るべきサソリ沼に踏みこむのを避けていた。そこに住みつく生きものは、悪夢のような伝説を産みだしてきた。だが、サソリ沼の財宝と栄光はいまや君をさし招くのだ―三人の魔法使いのだれに仕えるかで、三とおりの任務が与えられる。君はこの挑戦を無視できるか!

 

概要

 「ファイティング・ファンタジー(FF)・シリーズ」8作目。剣と魔法系ファンタジー物。作者はアメリカのゲームデザイナーのスティーブ・ジャクソンで、FFシリーズで初めてリビングストンとジャクソン(英)以外の作者が参加した作品。


あらすじ

 冒険者である君は、ある老魔女の命を助けたことで謝礼として魔法の指輪を送られた。この指輪を身に着ければ常に正しい方角を把握でき、さらに相手の嘘を見抜くことができるのだ。この指輪の力は前人未到のサソリ沼の迷路に立ち向かうにはうってつけだ。君は栄光と財宝を求め、一路サソリ沼を目指して旅立った!


ゲームシステムなど

 パラグラフ数は400。システムは、ファイティング・ファンタジー・シリーズ共通の「サイコロを振ってキャラクターの3つの能力(技術点・体力点・運点)を決定」、「必要に応じてサイコロで判定を行い、戦闘や運試しなどを行う」というもの。

 特別ルールはなし。


感想

 評価は○(手軽に楽しめる好作品)

 FFシリーズ8作目。FFシリーズで初めてリビングストン&英ジャクソン以外の作者が手掛けた一作ですが、イギリス人コンビとは微妙に異なるテイストで、これはこれで楽しめた作品でした。


 この作品は英ジャクソン&リビングストンの手掛けた既存のFF7作品とは全く違った発想で作られていて、それが非常に新鮮でした。


 特徴の第一は「マルチストーリー」。ゲームブックが選択次第で複数のストーリーに展開するのは自明のことですが、本作ではまず冒険に出かける前に「善の魔法使いセレイター」「中立の魔法使いプームチャッカー」「悪の魔法使いグリムズレイド」の誰を訪ねるかを決め、三人の誰かに雇われるかによって、「サソリ沼に向かう目的」「あらかじめ手に入る魔法」「サソリ沼でのイベント内容」「結末」がすっぱり三種類に分かれます。つまり一作で三度楽しめるというわけです。

 まあ善か中立の雇い主を選んだ場合は内容はあまり異なるわけではありませんが、悪を選んだ場合は主人公は出会う相手から悪の手先として扱われ、主人公自身もそれに応じて結構残酷なふるまいを行ったりします。基本的にFFシリーズは悪の魔法使いは倒すべき相手でしたので、真反対の悪の魔法使いのために働く、という展開は異色の一言。この辺りはまさに英ジャクソン&リビングストンにはなかった要素で、結構目新しかったですね。


 もう一つの特徴は「サソリ沼の迷路の構成」。英ジャクソン&リビングストン作品での迷路は入り口から目的地まで一方通行で、「右か左か」程度の選択肢はあっても、引き返して戻ってくることはできませんでした。しかし、本作の迷路は、東西南北にきれいに格子状に並べられたポイントが繋がってできており、そしてそのポイントは自由自在に行き来可能のため、思うがままに探索できます。

 これは、読者がその気になれば(キャラクターの体力が持つ限りですが)いつまでもこの作品世界で楽しんでいられる、という作りになっており、これはなんとも言えないうれしい要素でしたね。

 まあ、この迷路の構成には弱点もあり、プレイヤーがどのイベントからクリアしてくれるかコントロールできないので、『迷路の序盤にアイテムを配置し、終盤にそれを使用する』といった仕掛けを作ることができません。そのため、本作で遭遇するイベントは、ほぼすべてが「モンスター/人と出会った! どうする? → 戦って/交渉でアイテムを手に入れた」というものばかりになっており、そのためかなり単調さは否めませんでした。こけはちょっと残念でしたね。


 この作品の迷路を探索していると、あたかも古典的なファンタジーボードゲームをプレイしているような感覚に襲われました。実際、「迷路の通路を描いたタイルを格子状に並べ、それをめくって迷路の構成を明らかにしていき、イベントとして何かのキャラクターと遭遇し、戦ったり交渉したりしていく」という作品が存在します。スティーブ・ジャクソン(米)の本業はボードゲームデザイナーですので、彼はそういったゲームの面白さをゲームブックに落とし込んでみようとして、この作品を書いたのでは、と想像してしまいました。


 前述のとおり、イベントが遭遇型しかなく、いささか単調なきらいもありましたが、迷路は地図を書いてみると意外にシンプルで迷うところもありませんし、意地悪な引っ掛けもないので、かなり簡単にクリアできました。しかしそれでいて物足りないという事もなく、十分な満足感を得られました。伝説の一作! というレベルではありませんでしたが、気楽にプレイできてそれでいて十分楽しめる佳作でしたね。
 
 
 

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