【ゲームブック】感想:ゲームブック「送り雛は瑠璃色の」(思緒 雄二/1990年)【クリア】

送り雛は瑠璃色の (現代教養文庫 1364 アドベンチャーゲームブック)

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送り雛は瑠璃色の (現代教養文庫 1364 アドベンチャーゲームブック) 文庫 1990/10/1
思緒 雄二 (著)
出版社:社会思想社 (1990/10/1)
発売日:1990/10/1
文庫:373ページ

★★【以下ネタバレ】★★
 

身近に起こった奇怪な体験談を主題として純粋な“日本風”の怪談をゲーム化した「顔のない村」、ルールを極端にまで単純化し、物語としての完成度を追求した作品で、著者の代表作といえる「送り雛は瑠璃色の」、本文庫用に特別に書き下ろした作品で、“占い遊び”をゲームに取り込んだ実験的作品の「夢草枕、歌枕」を収録。

 
 

概要

 幻想怪談/伝奇物の中短編ゲームブック計3作を収録。三作品とも世界観が共通している。

・「顔のない村」 … 掲載誌「ウォーロック12号」(1987年12月号)
・「送り雛は瑠璃色の」 … 掲載誌「ウォーロック30号~31号」(1989年6月号~同年7月号)
・「夢草枕、歌枕」 … 書下ろし


収録作品

1 顔のない村 パラグラフ数200

 布団の中で目覚めた君は過去の事を何一つ思い出せないことに気が付く。君は一体誰で、なぜこの場所にいるのか? 君は周囲の探索を始めるが、やがて恐るべき体験をすることに……

 ゲームシステムは、社会思想社から発売されていた「ファイティング・ファンタジー・シリーズ」のルールを流用しており、「サイコロを振ってキャラクターの3つの能力(技術点・気力点・運点)を決定」、「必要に応じてサイコロで判定を行い、戦闘や運試しなどを行う」というもの。



2 送り雛は瑠璃色の パラグラフ数260

 8月。中学三年生の君こと式部瞬(しきぶ・しゅん/シュン)は、クラスメートの御影遙(みかげ・はるか/ハルカ)が真っ赤なルージュを引いて登校してきたことに驚く。そして何かに違和感を感じた君は、友人の榊守幽神(さかきもり・かすみ/カズ)や清木冷香(さいき・れいか/レイカ)と共にハルカについて調べようとするが……

 ゲームシステムとして主人公に「霊力点」という点数が用意されており(初期値 30点)、ダメージを受けたり、あるいは何らかの行動に使用することで点数が減少し、自宅で休息することで回復する。霊力を使う事でゲームを有利に進めることも出来れば、点数を使い果たすと不利になることもある。



3 夢草枕、歌枕 パラグラフ数50

 高校一年の夏休み。君(シュン)たちは、信州の山奥にある旧家の屋敷を訪ね、夢占いを行おうとするが……

 事実上ストーリーは存在せず、サイコロを二回振って「夢」を二つ選び、それを組み合わせて夢占いを行う、というもの。


各作品の感想

1 顔のない村 パラグラフ数200

 評価は○(まずまず面白い)

 記憶喪失の状態で目覚めた主人公が怪奇現象が頻発する村の中をさまよいながら脱出を目指す、という内容で、展開される物語は「ホラー」というより「怪談」と呼ぶ方がしっくりする内容。めったに見かけないテイストの作品で中々に楽しめました。

 本作でちょっと面白いのは、戦闘ルールが存在しているにもかかわらず、クリアのためには戦闘が必須ではないこと。実は戦闘に突入するというのは正しいルートから外れている事を意味しており、戦闘は間違った方向に進んだ時のペナルティのようなものなのです。戦闘をしても一切得が無く、できるだけ避ける方が良いというのは発想の転換ですね。

 「舞台となる幻想的な村は、実は生と死のはざまの世界だった……」という設定は、特に斬新ではありませんが、村の中で襲ってくる顔のない者たちが作りかけのまま打ち捨てられた人形だった、というオチはなかなか印象的でした。あと、主人公が突然かかって来た電話を取ると、クリアに失敗した過去の自分からのメッセージが届く、とか、偶然拾った手紙を書いたのも過去の自分だった、というのがタイムループ物的な雰囲気を漂わせてなかなかグッドでしたね。

 パラグラフ数は200ですが、パラグラフの相当数が中身の無い「このままXXX番へ行け」のようなダミー的なものなので、体感のボリュームはそれほどでもありませんでした。気軽にプレイできて、かつそれなりの満足度を与えてくれた、まずまずの作品でした。



2 送り雛は瑠璃色の パラグラフ数260

 評価は△(作者の一人よがり)

 中学三年生の夏休み。主人公シュンは友人たちと共にクラスメートのハルカの異変から始まった奇怪な事件に巻き込まれていく……、という伝奇的ストーリーのゲームブック

 導入部は中学生たちの軽妙な(というか軽薄な)会話から始まるため、ジュブナイル的な内容と伝奇要素を組み合わせた面白そうな作品に思えたのですが、読み進めるうちにその期待がすっかり裏切られました…… 求めていたのは「主人公が奇怪な事件に次から次から遭遇し、それらに翻弄された末に、苦労しつつもラストにたどり着く」というものでしたが、本作は期待とはうらはらに、とにかく展開がまだるっこしく、話がちっとも進まないのです……


 本作のパラグラフ構造は、

(1)移動可能な場所を一度に数十か所提示する
(2)どれかに移動すると情報が得られる(※空振りの場合もある)。同時に時間が少し経過する
(3) 持ち時間が残っていれば(1)に戻る。持ち時間を使い切った場合にはクライマックスへ進む

というものになっています。

 このような構成は、推理物ゲームブックでまま見られるもので、名探偵になりきって事件の手がかりをじっくり調査していくというストーリーにはぴったりですが、本作のようなテーマにはまるで合っていません。さらに悪いことに、手掛かりとして得られる情報は意味不明の和歌や民俗学的な知識の羅列ばかりで、物語を面白くしてくれるようなものが何もありません。


 このようにモタモタと情報集めをさせられ、時間切れになったあとは突然怒涛のクライマックスに突入し、最終的にはなんだか意味がよくわからないラストにたどり着いて「はい、おしまい」で、読者は意味が解らないまま作品から放り出されてしまいます。本作はマルチエンドになっており、バッドエンドを除いても三種類の結末が用意されていますが、どれもすっきりした内容ではありません。

 作者のあとがきによれば、民俗学的な物を調べれば結末の意味を理解できるようになるそうですが、そんなものは娯楽ではありません。作者は大学で民俗学を学んでいたようで、その知識を本作にたっぷりつぎ込んだようですが、本作は作者の知識の披露する場・自己満足になり果てており、他人に読ませるゲームブックになっていない、というのが正直な感想です。期待しすぎていただけに、その分失望感も強い作品でした。



3 夢草枕、歌枕 パラグラフ数50

 評価は×(ゲームブックじゃない……)

 書下ろし作品。一応ゲームブックで分岐がありますが、プレイヤーの意志で分岐先を選択することはできず、サイコロを二回振って、その目に応じて対応する「夢」を二つ読み、それを組み合わせて適当に内容を解釈する、というものになっています。

 これはあまりにもひどい……、ランダムに意味不明のエピソードを二つ提示し、「意味は読者が勝手に考えてくれ」とは……、これはゲームブックの皮をかぶった別の何かです。まあ、おまけの書下ろしに内容を期待した方が間違いだったのでしょう……


全体の感想

 評価は○(そこそこ)

 「顔のない村」はまず満足できる内容でしたが、表題作「送り雛は瑠璃色の」が期待外れすぎてがっかりでした。そして「夢草枕、歌枕」に至っては……

 まあ、和歌や民俗学要素をふんだんに盛り込んだ、日本人にしか作れない作品というオリジナリティはありましたが、正直あんまり評価できる内容ではなかったですね。「顔のない村」がそれなりに遊べたのが救いでした……
 
 

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創土社版(2003年)
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幻想迷宮書店版(2020年)
送り雛は瑠璃色の (幻想迷宮ゲームブック)