【ゲームブック】感想:ゲームブック「さまよえる宇宙船」(スティーブ・ジャクソン/1985年)【クリア】

さまよえる宇宙船―ファイティング・ファンタジー (4) (現代教養文庫24)

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さまよえる宇宙船―ファイティング・ファンタジー (4) (現代教養文庫24) 文庫 1985/9/1
スティーブ・ジャクソン (著), 浅羽莢子 (翻訳)
出版社:社会思想社 (1985/9/1)
発売日:1985/9/1
文庫:237ページ

★★【以下ネタバレ】★★
 

恐ろしい悪夢のセルツィア空間にすいこまれた宇宙船トラベラー号は、ブラックホールをつきぬけて未知の宇宙に飛びこんでしまう。船長は君だ。船の命運は君の手に握られている。出会った異星人や惑星の助けを借りて地球へもどることができるだろうか? それとも星図にものっていない宇宙空間を永久にさまよい続ける羽目になるか?

 

概要

 「ファイティング・ファンタジー(FF)・シリーズ」4作目。シリーズ初のファンタジー以外のジャンルの作品。


あらすじ

 君は宇宙艦隊に所属する最新宇宙船トラベラー号の船長だ。しかしトラベラー号はアクシデントによりブラックホールに吸い込まれ、気が付いた時には未知の宇宙へと投げ出されてしまっていた。この宇宙は元の宇宙と並行して存在する全く別の宇宙に違いない。君はトラベラー号を指揮し、元の宇宙へと帰還することができるか?


ゲームシステムなど

 パラグラフ数は343。システムは、ファイティング・ファンタジー・シリーズ共通の「サイコロを振ってキャラクターの3つの能力(技術点・体力点・運点)を決定」、「必要に応じてサイコロで判定を行い、戦闘や運試しなどを行う」というもの。

 特別ルールとして、主人公(船長)と部下六人・計七人分の技術点・体力点を決めてキャラメイクする必要があり、また戦闘も複数人同士の戦いとなる。さらに船同士の戦いもあり、船の武器力・防衛力も設定する。


感想

 評価は○(いま一つ)

 FFシリーズ4作目にして、シリーズ初のファンタジー以外のジャンルの作品です。シリーズの新境地を切り開こうと挑戦した作品だと思われますが、結果としては出来栄えはもう一つの残念な作品となっており、プレイした感想はかなり厳しいものとなりました。


 本作の最大の特徴は、既刊三作とは異なってテーマをファンタジー以外のジャンル・宇宙SFにしたことでしょう。現在ではこの作品以降もシリーズにいくつもファンタジー以外のテーマが発売されたことを知っているので特に何も感じませんが、当時のイギリスの読者たちは「ファティング・≪ファンタジー≫・シリーズ」なのにファンタジー以外の作品が登場したことに困惑したのではないでしょうか?

 多分出版社側は、何作もファンタジーばかり続けてはマンネリで飽きられると危惧しての事かもしれませんが、大胆な方向転換ではありました。

 しかも、既刊三作品はオリジナルのファンタジー世界の冒険を描いてきたのに、本作では一転、アメリカのSFドラマ「スタートレック 宇宙大作戦」のオマージュ作品となっています。宇宙船での冒険・船長が主人公、という要素だけならともかく、惑星に上陸するときには転送ビームを使い、しかも武器の名前が「フェーザー」なのですから、もう間違えようがありません。過去、初めて本作のルール説明を読んだ時にはこの設定にフフっと笑ってしまいました。

 しかも設定だけではなくストーリーもかなり忠実にスタートレック風味を再現しており、大型の超光速宇宙船で未知の惑星へと到着し、船長みずから部下を率いて調査に向かい、様々なトラブルに遭遇しつつも、最終的には惑星を離れて別の星へと向かう、という展開は、もうスタートレックそのまんまです。本作を読んでいるとスタートレックのテレビシリーズのキャンペーンゲームをプレイしているような気分にさせられました。

 また、各惑星のエピソードもスタートレックにありそうなエピソードが目白押しで「宇宙船の動力源のエネルギー鉱石が不足する」とか「転送ビームのトラブルが発生する」とか、オマージュとして相当出来が良く、スティーブ・ジャクソンがかなりスタートレックに詳しい事が伺えました。


 という事で、本作はスタートレックのオマージュとしては実に良い出来なのですが、残念ながらゲームブックとしての完成度は褒められたものではありませんでした。

 まずルールが多すぎ。スタートレックの雰囲気を再現するためにはFFシリーズの基本ルールではとても足りないため大幅にルールを拡張してしまっており、かなり重いルールとなっています。

 まず基本的に惑星に上陸するときには複数人のため、主人公の船長以外のキャラクターも作成する必要があります。さらに敵との戦闘になった場合は、主人公側複数人対敵側複数同士での戦闘となるので、基本戦闘ルールより手間が数倍に膨れ上がっており非常に面倒なことになっています。しかもさらに宇宙船同士の戦いも再現するルールまであります。

 ジャクソンがこれらのルールを用意したのはスタートレックの世界をより正確に再現したかったため、というのは痛いほどに解りましたが、それでもこのルール量は多すぎてとても一人でプレイする作品のボリュームではありません。ちょっとしたボードゲーム並みになってしまっていました。


 またストーリーが意外と面白くありません。主人公たちは複数の惑星を巡り情報を集めていくのですが、各惑星でのエピソードのボリュームが極めて少ないため、始まったかと思うとすぐ終わってしまい、テレビシリーズの番組のダイジェストを見せられているかのようでした。

 そもそも本作はパラグラフ数がFFシリーズ標準の400個よりもはるかに少ない343個しかなく、しかも341~343は戦闘時に参照する説明パラグラフのため、実質340しかありません。それでいて立ち寄れる場所が20個くらいあるので、当然の結果ともいえますが……

 また各惑星のエピソードに相互につながりが無く、ストーリー全体に整合性が全く感じられないのも不満でした。最初のうちは興が乗って色々な惑星の探索を楽しんでいたのですが、そのうち全く関係のないミニエピソードを次々とプレイさせられるだけと気が付き、すっかり醒めてしまいました。

 まあ「一話完結形式で、各惑星でそれぞれつながりのないエビソードが展開される」というのはスタートレックそのままなので、オマージュとしては正解なのですが、そのスタイルはゲームブックとはうまく合わなかったと言えます。

 そのせいでストーリーが序盤から後半に向かって徐々に盛り上がっていくという事もなく、最後も全く唐突に帰還する方法が分かったかを尋ねられ、上手くいけばハッピーエンド、だめなら破滅、という展開では面白さもへったくれもありませんでした。数字を組み合わせて答えを当てさせるというのも「火吹山の魔法使い」のギミックの再利用でしたし……

 ということで、本作は「スタートレックのオマージュ」としては実に良い線を行っていましたが、ゲームブックとしての完成度はいまひとつでした。まあこの作品の反省があって、これ以降のファンタジー以外のジャンル作品の内容が洗練されていったのかもしれません。

追記

 この作品は途中で何度もキャラクターの技術点での判定が行われますが、かなりの場面で「技術点以上/以下の分岐先が逆なのでは?」と思ってしまう箇所がありました。元々の作品から変なのか、誤訳なのか? 気になって気になって……
 
 

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