放送開始50周年 刑事コロンボ|NHK BSプレミアム BS4K 海外ドラマ https://www9.nhk.or.jp/kaigai/columbo/
放送 NHK BSプレミアム。
【※以下ネタバレ】
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第32話 忘れられたスター FORGOTTEN LADY (第5シーズン(1975~1976)・第1話)
あらすじ
過去の名作ミュージカルの名場面を集めた映画が公開され、再び脚光を浴びた往年の名女優グレース・ウィラー。女優としてカムバックするために必要な資金の援助を夫に断られると、眠っている夫の手に拳銃を握らせ、自殺に見せかけて殺害した。完全犯罪を実行したかのように思えるグレースをコロンボは逮捕できるのか!?
昔のミュージカル映画の名場面を集めた映画「ソング&ダンス」が大ヒットを飛ばし、かつてミュージカル映画のスターだったグレース・ウィラーに再び注目が集まっていた。グレースは、この機会に念願の芸能界復帰を果たそうと、自分が主役のブロードウェイのミュージカルショーを企画する。
しかし、グレースの夫で元医者のヘンリー・ウイリスは、ショーに必要な資金50万ドルの出資を拒否し、そもそもグレースの芸能界復帰も反対する。グレースは50万ドルを手に入れるためヘンリー殺害を決意し、就寝前のヘンリーを睡眠薬で前後不覚にした後、拳銃を握らせて頭を撃ちぬき、あたかもヘンリーは自殺したかのように偽装する。
警察はすぐさま自殺だと断定するが、コロンボだけは現場の状況に不審を抱き、引き続き捜査を行う。同じ頃、グレースはスター時代の名コンビで、今でも親しい友人であるネッド・ダイヤモンドをプロデューサーに迎え、ショーの準備を進め始めた。
コロンボは捜査を続け、次々と不審点を見出す。ヘンリーは死の直前まで自殺する素振りは一切見せておらず、それどころか世界一周旅行に出かけるつもりだった。自殺の動機は病気を苦にしたように見えるが、病気は軽い物で簡単な手術で治療可能だった。突発的に自殺したのなら、遠くに置いてあった銃を深夜自室まで持って来た筈だが、その痕跡はなかった。逆に計画的な自殺であらかじめ銃を用意していたのなら、死ぬ直前に睡眠薬を服用するのは変である。
ネッドは、コロンボがグレースに付きまとっている事を非難し、今後グレースに近づかないように釘を刺す。しかしコロンボは拒絶し、グレースがヘンリーを殺した疑いが強いと言い切る。そして夜にグレースの屋敷に招待されているので、心配なら見に来るようにと忠告する。
夜。コロンボは客としてグレースの屋敷を訪れ、待ち構えていたネッドに自分の推理を話す。ヘンリーが死んだ晩、グレースは別の部屋で映画を見ていた筈だが、執事の証言から、上映時間が1時間45分の映画が2時間もかかったことになっていた。コロンボは、その余分の時間の間にグレースが映写室を離れヘンリーを射殺したが、途中でフィルムが切れてしまった結果、空白の時間が生まれたのだと説明する。
さらにコロンボはヘンリーが密かに作成していたグレースのカルテを見せ、グレースが脳内に手術不可能な動脈瘤を患っており、余命は長くて二か月だと説明する。これこそがヘンリーがグレースの芸能界復帰に反対した理由だった。またこの病気は記憶の障害をもたらすため、もうグレースは自分がヘンリーを殺した事を覚えているかどうかも怪しかった。
グレースはコロンボがヘンリーが殺されたと口にしているのを聞いていきり立つが、ネッドはグレースに、自分がヘンリーを殺した犯人だと言い、グレースの復帰に反対するヘンリーを排除したのだと説明する。グレースは病気でもはや自分の犯行の記憶が無く、ネッドの告白を聞いて嘆き悲しむ。
コロンボはネッドに対し、偽の自白などすぐひっくり返されると忠告するが、ネッドはグレースが亡くなるまでの二か月は耐えきってみせると言うのだった。
感想
評価は◎(秀作)。
ラスト10分の展開が何とも言えない余韻を残す作品で、コロンボ作品の中ではトップクラスに好きなエピソードの一つである。
本作品は、コロンボシリーズの醍醐味である、コロンボが事件の様々な矛盾点を見つけて犯人を追い込んでいく、という要素は希薄で、ミステリーとしては平凡な部類に入る。犯人のグレースは特に巧妙な偽装工作をしている訳でもないので、一度自殺では無いと疑いを持てば、あとは一直線にグレースの犯行という結論にたどり着けてしまう。また、お馴染みのコロンボと犯人との心理的な駆け引きといった要素も殆ど無い。
しかしこの作品の面白さはそういったミステリー面にはなく、全てはラスト15分のグレースの屋敷での物語に凝縮されていると言える。
・ネッドがコロンボの推理を聞いて、グレースの犯行を認めざるを得なくなる
・グレースが不治の病で余命いくばくもない事が明かされる
・そもそもグレースは犯行を記憶しているかどうかも分からないことが判明する
・ネッドの偽りの自白とグレースの嘆き
・コロンボとネッドとのやりとり
というこのクライマックスは、もう何回繰り返し見ても飽きないくらい良く出来ている。
ネッドの「もう茶番劇はこのへんで幕にしよう」という台詞から始まるネッドとグレースのやり取りは、本心からネッドの犯行と信じ込んで嘆き悲しんでいるグレースの哀れさ、グレースへのネッドの想い、などの要素がないまぜとなって、何度見ても心が動かされる。その後の、自分の余命を知らないグレースがネッドを待ち続けると約束する場面も、真相を知っている視聴者からするとなんとも言えない気持ちになる。
そして最後に、笑顔で映画を見ているグレースと対比するように、ネッドは「頑張ってみせる、ふた月間は」と言い、コロンボが「そう……、それが良いね」と返事してゆっくりドアを閉める、この締め方が最高である。この結末の三人のやり取りだけで傑作と言うに値する作品である。
ところで、この作品では本筋とは全く関係のない「コロンボが過去10年間、警官の義務である射撃テストをさぼり続けていた」という幕間劇が挿入され、担当の警官たちが入れ代わり立ち代わりテストを受けるように注意しにやってくる。この辺りは、コロンボのキャラを掘り下げるという意味では面白いが、メインストーリーとのかかわりがゼロで、いささか唐突感が無くも無い。どうやら一時間半という放送時間を持て余して入れた要素だったらしく、製作者の苦労が伝わる場面だった。
備考
放送時間:1時間38分。
劇中に登場し、解決のキーとなった映画「ウォーキング・マイ・ベイビー」は、架空の作品ではなく現実に存在する映画。1953年公開の「Walking My Baby Back Home」というミュージカル映画で、グレース役のジャネット・リーが本当に出演している。
執事たちが見ていた「ジョニー・カースン・ショー」も、架空の番組ではなく実際に放送していたトークショー。正確には「The Tonight Show Starring Johnny Carson」というタイトルで、刑事コロンボを放送したのと同じNBCの番組だった。
本作品は、NHKが2018年に実施した「あなたが選ぶ!思い出のコロンボ」という企画で、全69作中第3位にランキングされた。
#32 忘れられたスター FORGOTTEN LADY
日本初回放送:1977年
古きよきハリウッド映画へのオマージュがストレートに表されている作品。また、ストーリー内に、犯人の悲しい事実が伏線としてちりばめられている。グレース役はヒッチコック監督の映画『サイコ』のヒロイン、ジャネット・リー。
出演
コロンボ・・・ピーター・フォーク(小池朝雄)
グレース・ウィラー・・・ジャネット・リー(鳳八千代)
ネッド・・・ジョン・ペイン(小林昭二)
レイモンド・・・モーリス・エバンス(浮田佐武郎)
ヘンリー・・・サム・ジャッフェ(巖金四郎)
演出
ハーベイ・ハート
脚本
ウィリアム・ドリスキル