感想:科学番組「フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿」『ノーベル賞 爆薬王の遺言』(2020年10月29日(木))

Alfred Nobel: A Biography

フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿 https://www.nhk.jp/p/ts/11Q1LRN1R3/
放送 NHK BSプレミアム

www.nhk.jp

【※以下ネタバレ】
 
※他の回の内容・感想は以下のリンクからどうぞ

「フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿」(2020年分~)内容・感想まとめ

perry-r.hatenablog.com
 

科学は、人間に夢を見せる一方で、ときに残酷な結果をつきつける。
理想の人間を作ろうとした青年フランケンシュタインが、怪物を生み出してしまったように―
輝かしい科学の歴史の陰には、残酷な実験や非人道的な研究、不正が数多くあった。
そんな闇に埋もれた事件に光を当て、「科学」「歴史」「倫理」に迫るシリーズが帰ってくる。


ナビゲーター/ナレーション 吉川晃司 (ミュージシャン)

 

ノーベル賞 爆薬王の遺言 (2020年10月29日(木)放送)

 

内容

フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿「ノーベル賞 爆薬王の遺言」
[BSプレミアム]2020年10月29日(木) 午後9:00~午後10:00(60分)


科学の世界で最も権威ある賞ノーベル賞。ダイナマイトの発明で知られるスウェーデンの化学者ノーベルの名前を冠したこの賞はなぜ生まれたのか?爆薬王ノーベルの謎に迫る!


科学史の闇に迫る知的エンターテインメント。爆薬に取りつかれた化学者アルフレッド・ノーベル。彼が発明したダイナマイトは破壊力抜群。不可能とされてきた巨大土木工事や鉱山開発を可能にし、強力な兵器として戦争でも使われた。ノーベルは自分の発明が兵器になることになんのためらいもなかったという。自ら世界中にダイナマイトを売りさばき、巨万の富を築き上げたのだ。そんな彼が残した遺言とは?爆薬王ノーベルの謎に迫る。


【ナビゲーター/ナレーション】吉川晃司,【出演】松永猛裕

 
 今回のテーマは「アルフレッド・ノーベル」。


●爆薬に取り憑かれた男

 アルフレッド・ノーベルは、1833年スウェーデンの首都ストックホルム生まれ。父のイマヌエルは発明家だったが、生まれた時には破産していて、ノーベルが生まれたころは一家は貧乏暮らしだった。しかし、イマヌエルが発明した機雷がロシア軍に採用され、一家はロシアのサンクトペテルブルクに移住し、その頃から一家は一転して裕福な暮らしとなった。ノーベルは家庭教師から英才教育を受け、若いころは文学に熱中し、本気で文学者の道に進むことも考えていたほどだった。

 1853年、クリミア戦争(1853~1856)が始まり、イマヌエルの工場は急拡大した。1855年、ノーベルは発明されたばかりの薬品ニトログリセリンの事を知る。ニトログリセリンは爆発性の液体で、その爆発力は黒色火薬の5倍も有った。

 1856年、クリミア戦争が終わると、兵器の需要は激減し、イマヌエルの工場は潰れてしまった。ノーベルたちはストックホルムに戻り、一からやり直すことにした。



 ノーベルは、ニトログリセリンの改良に取り組むことにした。ニトログリセリンは、強い爆発力が有ったものの、液体のためショックですぐに爆発するという危険性があり極めて扱いにくかった。さらに、逆に爆発させたい時には爆発しない、という不安定さも有った。

 ノーベルは研究の結果、ニトログリセリンは、180度以上に加熱するか、急激に圧力をかけると、確実に爆発することを突き止めた。そこでニトログリセリンの側に容器に入れた火薬をおき、火薬を導火線で爆発させることでニトログリセリンに圧力をかけ確実に爆発させる、という仕組みを考えた。この起爆装置を「雷管」といい、この仕組みは以後世界中で使われるようになった。

 しかし、確実に爆発させることは出来るようになったが、意図しない爆発が起きてしまう、という問題は未解決のままだった。

 1864年ニトログリセリンの爆発事故で、ノーベルの弟エーミルを含む五人の犠牲者が出たが、ノーベルは研究を諦めなかった。ノーベルは、ニトログリセリンが危険なのはショックが伝わりやすい液体だからと考え、ならば固形化すれば良いと思いつき、何かの物質にしみこませて固形にすることを試し始めた。

 しかし、様々な物で試しても
黒色火薬→爆発力が低下してしまう
・おがくず→風が吹いただけで爆発する。安全性に問題。
・炭やレンガの粉→爆発しない
と散々な結果となった。

 ところが、ノーベルはたまたま珪藻土(けいそうど)(※植物性プランクトン珪藻の化石)が油を吸っているところを見て、これで試してみると、なんと三倍のニトログリセリンを吸収したうえ、爆発力はニトログリセリンと遜色なかった。

 ノーベルは、ギリシャ語で「力」を意味する「dunamis」から、発明品を「ダイナマイト /dynamite」と名付け、1867年に特許を取得した。ダイナマイトは、アルプス山脈を貫くトンネルなど、それまで不可能と思われていた土木工事に大いに活用された。



●兵器商人 誕生

 1870年にプロイセンとフランスの戦争「普仏戦争」が勃発した。ドイツ諸国家の一部に過ぎず弱小国と思われていたプロイセンは、ダイナマイトを橋の破壊などに活用することで、大国フランスに勝利した。これはダイナマイトが兵器として活用された初の戦争となった。

 これ以後、ノーベルはヨーロッパ中にダイナマイトを兵器として売り込んだ。ダイナマイトの生産量は数年で200倍以上になり、ノーベルは巨万の富を得ることとなった。

 1876年、ノーベルは新兵器・無煙火薬の開発に着手した。当時の黒色火薬は爆発させると大量に煙が出るうえにすすが付くため、軍からは煙もすすも出ない無煙火薬が熱望されており、開発競争となっていた。

 フランスに拠点を構えたノーベルは、フランス軍のために開発に取り組み、1884年、ニトロセルロースニトログリセリン・樟脳を混ぜて作る無煙火薬バリスタイト」を完成させた。この功績で、ノーベルはフランス政府からレジオン・ド・ヌール勲章を贈られた。ノーベルの人生の絶頂期であった。



●爆薬王の“兵器と平和”論

 しかしこれ以後ノーベルの人生は下り坂となっていった。

 1888年。ノーベルと仲の良かった兄が死亡したが、新聞社はそれをノーベル本人の死と取り違え、掲載した死亡記事ではお悔やみを述べる代わりに「人類に貢献したとは言い難い男が死んだ」と書いていた。翌1889年にはノーベルの母親が死亡した。

 また、フランス軍は、ライバル会社の無煙火薬を採用し、バリスタイトは生産中止に追い込まれてしまった。ノーベルは1890年にイタリア軍バリスタイトを売る契約を結ぶが、フランスの新聞からはフランスで研究した火薬を他国に売った裏切り者と非難され、ノーベルはフランスを出てイタリアに移り住む羽目になった。とどめで、この頃から持病の心臓病も悪化していった。

 そんな時、ノーベルはベルタ・フォン・ズットナーの書いた反戦小説「武器を捨てよ!」に出会う。実はズットナーはノーベルの知人で、かつてはノーベルの秘書を勤めたこともあった。この本を読み、ノーベルは平和ということについて考え始めた。

 1892年、ノーベルはズットナー主催の平和会議に出席した。しかし、ズットナーが平和のためには各国は武器を捨てるべきと主張したのに対し、ノーベルは各国が究極の兵器を持つことで互いに恐怖のため戦争をしなくなり、それで平和が訪れる、と主張し、二人の考えはすれ違った。

 ノーベルは自分の主張を推し進めるように、1894年にはスウェーデンの兵器工場を手に入れ、大砲の生産を開始した。



●爆薬王の遺言

 1896年12月10日、ノーベルは脳出血で死亡した。享年63歳。生涯未婚で使用人一人に看取られただけの寂しい最期だった。

 ノーベルは遺書で、自分の遺産を安全確実な有価証券に変え、その年利を前年に人類に貢献した人物に与えるように指示していた。授与する分野は「物理学」「化学」「生理学および医学」「文学」「平和」だった。平和以外の分野はノーベルが若いころに興味を持って学んだものだったが、ノーベルは戦争で大儲けをしたのに、何故賞の中に「平和」を入れたのかは謎である。

 ノーベルは賞のため、総資産の94パーセント、現在の日本円で250億円を遺していた。この賞の構想はスウェーデンたけでなく国外でも大反響を呼び、この賞は「ノーベル賞」と名付けられ、1901年からノーベルの命日12月10日に授賞式が行われることになった。


感想

 2015~2018年にBSプレミアムで放送されていた番組が、2020年から満を持して新シリーズで再起動。

 第一回目はダイナマイトで大儲けした後、ノーベル賞を作ったアルフレッド・ノーベルがテーマ。まあ今回は初回だからか(?)鬱になるような暗いテーマではなく、穏やかな内容となりました。ほぼ知っているような話ばかりでしたが、それなりには面白かったです。
 
 ところで雷管はノーベルが発明したんですね。これは知らなかった。
 
 

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