フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿 https://www.nhk.jp/p/ts/11Q1LRN1R3/
放送 NHK BSプレミアム
www.nhk.jp
【※以下ネタバレ】
※他の回の内容・感想は以下のリンクからどうぞ
perry-r.hatenablog.com
科学は、人間に夢を見せる一方で、ときに残酷な結果をつきつける。
理想の人間を作ろうとした青年フランケンシュタインが、怪物を生み出してしまったように―
輝かしい科学の歴史の陰には、残酷な実験や非人道的な研究、不正が数多くあった。
そんな闇に埋もれた事件に光を当て、「科学」「歴史」「倫理」に迫るシリーズが帰ってくる。
ナビゲーター/ナレーション 吉川晃司 (ミュージシャン)
夢のエネルギー“常温核融合”事件 (2021年2月25日(木)放送)
内容
フランケンシュタインの誘惑(4)「夢のエネルギー“常温核融合”事件」
[BSプレミアム] 2021年02月25日 午後9:00 ~ 午後10:00 (60分)
20世紀最大の科学スキャンダル“常温核融合”事件。無限に使える夢のエネルギー発見に世界中の科学者が踊らされた! 名だたる科学者たちが次々と追試成功を報告するが…
科学史の闇に迫る知的エンターテインメント。今回取り上げるのは、20世紀最大の科学スキャンダル“常温核融合”事件。1980年代末、安価で無限に使える夢のエネルギー発見に、世界中の科学者が踊らされた!第一発見者の名誉と世紀の発見がもたらす巨額の富をめぐる、科学者同士の大学を巻き込んでの争い、だまし、抜け駆け。さらに名だたる科学者達が次々と追試に挑み成功を報告するが…。当事者たちが、事件の真相を語る!
【ナビゲーター/ナレーション】吉川晃司,【出演】成田晋也,笠田竜太,【司会】武内陶子
今回のテーマは「常温核融合」。
●20世紀最大の科学スキャンダル
1989年3月23日、電気化学者のマーティン・フライシュマンとスタンレー・ポンズが、常温で核融合が起こったことを発表し世間を驚かせた。簡単に無尽蔵のエネルギーが手に入るという可能性に人々は狂喜したが、わずか七ヶ月後には「根拠がなかった」として完全に否定された。この騒ぎは「20世紀最大の科学スキャンダル」ともいわれる。
●核融合とは
核融合とは太陽の中で起きている核反応で、水素が融合してエネルギーを生み出す反応。反応の大きさに上限が無く、既存のウランなどを使った原子力利用と比較して格のゴミが遥かに少ない、地球に大量にある水素を燃料に出来る、など、夢のエネルギー源である。しかし反応を人工的に起こすためには一億度の熱が必要とされていた。
●驚異の発表
1989年3月23日、電気化学者のフライシュマンとポンズが記者会見を開き、常温で核融合の成功について発表した。
二人が行った方法は電気分解だった。水素を大量に含む「重水」を電気分解すると、プラス極から酸素が、マイナス極から重水素が、それぞれ発生する。その際に、マイナス極の電極をパラジウムにすると、パラジウムは体積の1000倍の水素を吸い込む性質があるため、大量の重水素が集まり、その結果核融合が発生したと説明した。
●成果争い
ポンズと師匠のフライシュマンは、電気分解実験を行ううち、パラジウムが蒸発していることを発見し、これは常温核融合が起きているためと考えた、そして研究費用をエネルギー省に出してもらうため、1988年に申請書類を提出したが、その内容をチェックする科学者たちの中に、同様の研究をしているスティーブン・ジョーンズがおり、ジョーンズはケチをつけて申請を却下してしまう。その後何回申請しても同様であった。
やがてポンズとフライシュマンは審査員の中にジョーンズがいることに気が付き、ジョーンズは二人に共同研究を持ち掛けてきた。ポンズ&フライシュマンの所属するユタ大学と、ジョーンズのブリガムヤング大学は、1989年3月6日に関係者が協議し、「(1)論文を3月24日に同時投稿する「(2)論文受理までは対外発表しない」という取り決めに合意した。
ところがポンズとフライシュマンは、すぐに合意を破って論文を投稿し、さらに常温核融合に関する特許を申請、3月23日には記者会見を開いたのである。
●絶頂
発表内容に、核研究の重鎮エドワード・テラーは有望である旨コメントした。また世界中の科学者がすぐさま追試にとりかかった。
常温核融合が起きていると確認するには、
(1)熱の発生の検出
(2)核反応に伴う「中性子」や「ガンマ線」の検出
(3)核反応で生成されるトリチウムの検出
が必要となる。そして世界中の科学者が次々と追試に成功したのだった。
4月にはアメリカ政府による公聴会が開かれ、その様子はテレビで生中継されるほどの注目を集めた。
●信ぴょう性なし
ところがすぐに科学者たちからの批判が巻き起こった。論文では入力したエネルギーの12倍のエネルギーが生み出されたと書いてあったが、それは実際に計測した物ではなく、計算ではじき出された値で、しかもその計算が間違っていることが明らかになった。またデータの一部だけを切り取って都合の良いように使っていることも判明した。
1989年5月にはエネルギー省が研究室の査察を行ったが、ポンズたちは信頼性のある証拠を提出できなかった。
しかも世界中の科学者たちの追試も上手くいかなかった。成功したという報告は、単に思い込み・計測ミス・機械の故障等による誤りだった。
1989年11月、エネルギー省は常温核融合について「信ぴょう性が無い」と切り捨てた。ポンズとフライシュマンはアメリカから姿を消した。
●その後
常温核融合の研究は現在でも続けられており、1980年代には存在しなかったナノテクノロジーを使っての実験が続けられている。
アメリカを去ったポンズとフライシュマンは、その後フランスで常温核融合の研究を続けたが、1990年代半ばに撤退した。そしてフライシュマンは2012年に死去、ポンズの消息は不明である。
感想
「試験管で核融合」という事で大騒ぎとなったあの事件がテーマの回。「闇の事件簿」に相応しいチョイスです。面白すぎて見ていて時間がたつもの忘れましたよ。いやー、想像していた以上にずさんな研究の話でした。
ちなみに「追試に成功した!」と発表した科学者のコメントを取っていて「実は間違いでした、と発表するときには死刑台に行くような気持だった」とか、リアルなコメントが聞けたのは良かったですね。