【アナログゲーム】卓上ゲーム40年の歴史(1980年~2023年)【PBMも含む】

シミュレーションゲームマガジン 月刊タクテクス 1989年8月号 No.69

2023.6.20
フィクション共創による仮想社会構築ムーブメントとしてのPBM(プレイバイメール)とその意義──「NPO法人 日本PBMアーカイブス」の取り組みから[前編]
中川 大地
https://macc.bunka.go.jp/1826/

macc.bunka.go.jp

 
 に触発されて、卓上ゲーム40年の歴史を備忘録的にまとめてみました。PBMも含めて「コンピューターゲーム以外」のゲームをまとめたつもり。まだまだ粗はあるかもしれませんけど……


■1970年代以前

人生ゲーム (2023年ver.)

 不毛時代。今でいう「ゲーム」は存在せず、おもちゃ会社が子供向けに作ったパーティーゲームか電子ゲームがある程度。それらにやり込み要素は無く、刹那的に暇をつぶすものに過ぎなかったので、小学校を卒業すると同時に興味を失う程度のものしか無かった。

 70年代後半頃にはウォーゲームが海外から輸入され翻訳ルールを付けて販売されてはいたが、ごく一部のマニアだけのものに過ぎなかった。


■1980年代

シミュレーションゲーム 日本機動部隊 エポック社ワールドウォーゲーム8 Y
 1981年に国産ウォーゲームが各社から発売され、ミリタリー好きの中高生の間でブームを巻き起こし、同年末には専門誌「タクテクス」が創刊された。ウォーゲームのテーマは史実の戦争だけでなく、アニメ「機動戦士ガンダム」のような戦争テーマアニメの中の架空の戦いもゲーム化されていたため、アニメ好きの中高生にも広く購入された。



トラベラー・ハンドブック―SFロールプレイング・ゲーム完全入門
 1984年にTRPG「トラベラー」「ローズ・トゥ・ロード」が発売され、日本でもTRPGの歴史がスタートした。しかし当時はTRPGはまだどのようにプレイするかが解り辛く、この頃は一部マニアに支持されるにとどまった。



火吹山の魔法使い ファイティング・ファンタジー (現代教養文庫)
 同じ1984年にゲームブック火吹山の魔法使い」が発売され大ヒットとなり(一説では100万部売ったと言われる)、この後3年に渡る大ゲームブックブームを巻き起こした。

 
 
ロードス島戦記1 RPGリプレイ集呪われた島編 ロードス島戦記RPGリプレイ集呪われた島編 (富士見ドラゴンブック)
 1986年。コンピューターゲーム雑誌コンプティークで「ロードス島戦記」の連載開始。この作品はリプレイ形式でTRPGのプレイの様子を描き、読者の中高生たちに「TRPGとは何か」をレクチャーした。この連載は大人気となり、その後のTRPG人気の火付け役となった。

 また同年から1989年にかけて、ゲームグラフィックス誌で読者参加型ゲーム「イングリッズ・レース」と「フィクショナル・トルーパーズ」が連載され人気を博した。



モンスター誕生‾ファイティング・ファンタジー (24)
 1987年頃になるとウォーゲームのブームは終わりを迎え、さらに翌年1988年頃にはゲームブックのブームが同じ運命をたどった。この頃になると中高生の間ではゲームは「コンピューターでプレイするもの」が常識となり、手でサイコロを振ったりする従来のゲームは古臭い物と見なされ見向きもされなくなっていった。しかしTRPGはそれまでに全く無かったタイプのゲームという事でコンピューターゲームと共存し、ますます人気が高まっていった。


 1988年に入ると、コンプティーク誌で読者参加型ゲーム「ロボクラッシュ」「トップをねらえ!」がスタートし好評を博した。

 また同年(1988年)後半には、遊演隊の運営するPBM「ネットゲーム88」が開催された。本作はTRPG雑誌に告知が行われ、リアルで行うロールプレイングとして参加したTRPG愛好者から高い評価を得た。



ソード・ワールドRPG (富士見文庫―富士見ドラゴン・ブック)
 1989年。TRPGソードワールドRPG」の発売により、中高生の間でTRPG人気が爆発した。


■1990年代

RPG MAGAZINE (ロールプレイングゲーム・マガジン) 1994年5月号 No.49
 1990年代に入ると中高生の間でTRPGは完全に定着し、新作が大量に発売され、サポート雑誌も次から次へと創刊された(1990年ロールプレイングゲームマガジン、1991年コンプRPG、1992年ログアウト、1994年電撃アドベンチャーズRPGドラゴン)。



なんでもかんでも蓬莱学園!
 また遊演体の「ネットゲーム90 蓬莱学園の冒険!」(1990)が大成功をおさめ、以後同社や他社から同様のPBMが次々と誕生した。またゲーム雑誌でも「読者参加型ゲーム」として同種のPBMが盛んに連載され、90年代前半は「ロールプレイングゲーム」的な物一色の時代だった。



コンプRPG vol.6
 しかし1995年に入るとTRPG人気に陰りが見え始める。この年からサポート雑誌の休刊が始まり、1999年までで5誌あった雑誌は全滅した(1995年ログアウト→1996年コンプRPG→1997年RPGドラゴン→1998年電撃アドベンチャーズ→1999年ロールプレイングゲームマガジン)。ゲーム雑誌の消滅と共に読者参加型ゲームも消えていき、遊演体も1998年を最後にネットゲームから撤退した。



Official Magic: The Gathering Strategy Guide
 TRPGの衰退と入れ替わるように、TCGトレーディングカードゲーム)のブームが到来した。1996年の「マジック:ザ・ギャザリング」発売やその後の国産TCGの発売で、中高生の間でTCGの大ブームが巻き起こり、ゲーム業界はTCG一色となった。



ゲームギャザ  2002年 6月号 [雑誌]
我が名は無法召喚士―モンスター・コレクション・ノベル (富士見ファンタジア文庫)
 1999年には専門誌「GAMEぎゃざ」が創刊され、またTCGをテーマとした小説も発売され人気を博すなど、TCGはかつてのTRPGが占めていた地位を完全に奪い取ってしまった。



GP Games カタン スタンダード版 Standard
 TCG大ブームの陰で、海外で大人気となっていたボードゲームカタン」が輸入・発売され、一部ゲーマーに注目された。カタンをきっかけに、ドイツがカタン同様に大人でも楽しめるボードゲームの大国だという事実が知られるようになり、一部ショップがカタン同様に海外ゲームを輸入して独自の日本語説明書を付けて発売するようになった。


■2000年代

モンスター・コレクションTCG パーフェクト・カードカタログ
 2001年頃になるとTCGはブームのピークを過ぎ、少しづつ売り上げが落ち始めた。しかしかつてのウォーゲーム、ゲームブックTRPGのブームの終焉時とは異なり、この時期にはTCGの代わりとなるジャンルが存在しなかったため、TCGの失速と共にアナログゲーム市場自体が人気を失い始めた。

 この時期、TRPGは既にマイナージャンルとなってフレイヤーは激減していた。またボードゲームは依然として僅かな愛好者たちが海外から輸入したゲームをプレイしているだけのニッチな存在に過ぎなかった。



カプコン 開拓ゲーム カタン スタンダード
 2002年。玩具大手のエポックとコンピューターゲーム会社のカプコンが、それぞれボードゲーム市場に参入した。エポックは輸入ゲーム5タイトルを「ノンデジタル・ストラテジー・ゲーム」として、またカプコンは「カタン」日本語版などを「ブレインスポーツ」として、それぞれそれまでになかった娯楽として売り出した。しかしどちらもビジネスとしては失敗し、すぐに両社は市場から撤退してしまった。



Role&Roll(ロール&ロール)Vol.1
国際通信社/RPGAMER VOL.9 Dark Nebula ダークネビュラ 付録ゲーム付 駒未切断
 2003年。TRPG人気はわずかではあるが回復し始め、専門誌「ロール&ロール」(アークライト/2003年~)と「RPGamer」(国際通信社/2003年~2006年)が創刊された。しかしTRPGジャンルの人気は十数年前の大ブーム時の足元にも及ばなかった。



GAME ぎゃざ (ゲームギャザ) 2006年 05月号
 2000年代半ばになると、TCGの人気が右肩下がりとなっている中で、TRPGボードゲームの人気もパッとせず、アナログゲームは低迷状態に陥ってしまった。

 2006年にはTCG市場は最盛期の4割程度にまで落ち込んだ。この年、ホビージャパンTCGマジック:ザ・ギャザリング」の販売から撤退し、TCG専門誌「GAMEぎゃざ」も休刊させた。

グリード
GAME JAPAN (ゲームジャパン) 2006年 06月号 [雑誌]
 直後、ホビージャパンTCGに代わりボードゲーム輸入販売に参入し、また新雑誌「ゲームジャパン」を創刊した。しかし雑誌の内容はアナログゲームTCGボードゲーム・TPRG)以外にコンピューターゲームを扱っており、もはやこの頃にはアナログゲームだけでは雑誌が成り立たなくなってしまっていた。



GAME JAPAN (ゲームジャパン) 2009年 12月号 [雑誌]
 しかし、それから三年がたち、2009年頃になるとTCGの売り上げが徐々に回復し明るい兆しが見え始めた。この復活の理由としては、メーカーがルールの簡略化など入門者の取り込みに動いたこと、また1990年代後半頃に小学生だった世代が自分でカードを購入できる社会人となりゲームに出戻って来たこと、等があげられる。


■2010年代

GAME JAPAN (ゲームジャパン) 2011年 09月号 [雑誌]
カードゲーマー vol.1
 2011年にはホビージャパンTCGの復活を受け「ゲームジャパン」を休刊させ、改めてTCG専門誌「カードゲーマー」を創刊した。



ドミニオン (Dominion) 日本語版 カードゲーム
 また、同じ頃ボードゲームがついにブレイクし、一般ゲーマーにも人気が出始めた。その理由としては、2009年に発売されたカードゲーム「ドミニオン」がヒットした結果、TCGプレイヤーもドミニオンを発見してプレイするようになり、それを契機に新しい層のプレイヤーがボードゲーム流入したことがあげられる。



クトゥルフ神話 TRPG (ログインテーブルトークRPGシリーズ)
 またさらにTRPGにも追い風が吹き始めていた。この頃、ネットの動画でTRPGのリプレイの配信が流行となり、それを視聴することで全く新しい層がTRPGのプレイヤーとなっていったのである。


ニューゲームズオーダー 枯山水 新装版 23 x 7.2 x 32 cm 2-4人用
 2015年頃にはボードゲームは一般向けメディアでも取り上げられることが多くなり、完全に娯楽として定着した。アナログゲーム、特にボードゲーム人気の高まりとともに、アナログゲームイベント「ゲームマーケット」の参加者は急速に増加し、イベントの開催規模も拡大していった。


ゲームマスタリーマガジン Vol.1
 2017年。国産TRPGボードゲームの雑誌「ゲームマスタリーマガジン」創刊。
ウォーロックマガジンvol.1
 2018年。海外TRPGの雑誌「ウォーロックマガジン」創刊。



グループSNE 九頭竜館の殺人 (7-9人用 120分 15才以上向け) ボードゲーム
 2019年。マーダーミステリー(マダミス)が日本に登場し、すぐさま先端ゲーマーの間で人気を獲得した。


■2020年~2023年

GMウォーロック VOL.1
 2021年には「ゲームマスタリーマガジン」「ウォーロックマガジン」を一本化しアナログゲーム全般(ボードゲームTRPG・マダミスなど)を扱う「GMウォーロック」誌が創刊された。


グループSNE ムーンストーン邸殺人事件 (4人用 90分 15才以上向け) マーダーミステリー
アークライト ロナエナ ―厄災のギフト (5人用 60分 12才以上向け) マーダーミステリー
 マーダーミステリーは旬のジャンルとして様々なメーカーが次々と参入した。


■総括

 2010年代以降、アナログゲームは完全に日本に定着した。TCGのカードは飛ぶように売れており、ボードゲームは一般メディアで取り上げられることも珍しくなくなり、TRPGも1990年代ほどでは無いにしてもプレイされ、マダミス人気も上々である。今後も新しい分野が生まれることはあっても、かつてのウォーゲームやゲームブックTRPGTCGが辿ったような「バブル的な大人気→崩壊→冬の時代」というサイクルを繰り返す事は起こらないと思われる。いい時代になったものである。



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