【ゲームブック】感想:ゲームブック「海賊船バンシー号」(アンドリュー・チャップマン/1987年)【クリア】

海賊船バンシー号‾ファイティング・ファンタジー (16)

http://www.amazon.co.jp/dp/4390111590
海賊船バンシー号 ファイティング・ファンタジー (16) 文庫 1987/3/1
A. チャップマン (著), 鎌田 三平 (著), アンドリュー・チャップマン (著)
出版社:社会思想社 (1987/3/1)
発売日:1987/3/1
文庫:266ページ

★★【以下ネタバレ】★★
 
 

君は海賊船バンシー号の船長。情知らずで恐れ知らずの君のライバルが、殺し屋アブダルだ。どちらが海賊のチャンピオンか―君たち二人は航海にのりだし、財宝の略奪競争で勝負をつけることにした。海や島は罠と怪物で満ちている。はたして君は、海の藻くずと消えるか、それとも、海の王者になることができるか。さぁ、出港だ!

 

概要

 「ファイティング・ファンタジー(FF)・シリーズ」16作目。海賊船の船長が主人公の悪漢物語。


あらすじ

 君は海賊船バンシー号の船長。荒くれ者の乗組員たちを率いて、とある大陸の内海で略奪の限りを尽くし悪名を轟かせている。ある時、君はライバルの海賊「殺し屋アブダル」と、どちらがより優れた海賊であるかを賭け略奪勝負を行うことになった。50日以内に南の海にあるニプール島にたどり着き、その際に略奪した財宝が多い方が勝者となるのだ。君は「海賊の王」の名誉を手に入れることが出来るか?!


ゲームシステムなど

 パラグラフ数は400。システムは、ファイティング・ファンタジー・シリーズ共通の「サイコロを振ってキャラクターの3つの能力(技術点・体力点・運点)を決定」、「必要に応じてサイコロで判定を行い、戦闘や運試しなどを行う」というもの。

 特別ルールとして、部下たちについても「襲撃力点」「戦力点」という数値があり、部下を率いての大規模戦闘の際に使用する。


感想

 評価は○(面白い点もあるが問題も多し)

 FFシリーズ16作目。海賊船の船長として略奪を繰り広げるピカレスクロマン物。それなりに遊べるゲームブックでした。


 本作は主人公が「悪党」で、荒くれ者の乗組員を率いて略奪を繰り返し、できるだけ多くの金額を奪うと勝ち、というなんとも豪快なストーリーですが、非常に珍しい立場でプレイできるだけに、プレイする前からやる気がそそられました。この辺りはテーマの勝利でしょうね。


 本作の面白さは、何といっても、「自由度の高さ」と「体験できるイベントの多彩さ」でしょう。

 基本的なストーリーとして「海賊船を率いて地図の北端にある港町から出発し、最終的に南端にある島に到着すること」という大まかな縛りはありますが、その途中をどう進むかは自由そのもの。

 出発地点から次の移動先として3箇所が指定され、以後も次にどこに移動するかでほぼ3~4箇所を選ぶことが出来ます。南から北に逆戻りする事は出来ませんが、東西の移動はかなり自由で、網の目の様に絡み合ったルートを自由に選択し気ままに略奪の旅を楽しむことが出来ます。

 コンピューターゲームの用語で「オープンワールド」という物がありますが、本作はゲームブック版のオープンワールド物と呼びたいくらい自由に冒険ができました。


 また移動先で体験するイベントが多彩で、「部下を率いて砦を攻撃する」、「単身未知の遺跡に乗り込んでダンジョン探索」、「商船や遊覧船を襲撃」、「島に上陸して現地の有力者と面会」、「賭博場で大金を借りている相手と一悶着」、「賭けレースで一儲けを狙う」、「未知の島に部下たちと上陸して探検行」などなど、バリエーション豊かで飽きさせませんでした。

 そしてお馴染みの個人戦闘ルール以外に「集団戦闘」もシンプルなルールで処理されていて、一人での冒険以外に、部下を率いての陸戦や別の船との戦いといった戦いも体験できました。ゲームブックは基本的に単身で戦う物なので、こういう「兵隊同士の激突」あるいは「船同士の海戦」など、シミュレーションゲーム風の戦いを体験させてくれたのは新鮮でしたね。

 このように本作は「海賊船を率いての略奪行」というテーマに対して、ストーリーでもシステムでもうまく処理していてこの辺りは好感が持てました。



 ただし、本作は同時に欠点も多々ありました。

 まず、イベントの種類が多彩な代わりにそれぞれのボリュームが少なく、どれも始まったと思うとすぐに終わってしまうのがなんとも物足りませんでした。まあ、もしボリュームを増やしたらパラグラフ数400では収まらない超大作になってしまうので致し方なかったとも言えますが、やはり食い足りなさは否めませんでしたね。

 またゲーム中にしょっちゅう細かい作業を強いられるのが面倒で、正直途中で嫌気がさしました。まず、バンシー号で移動する度に航海日数を加算していくのですが、これにはいちいちサイコロを振って決めていかなくてはならずに面倒の一言。また略奪した金貨の枚数をきちんと管理する必要があリましたし、さらに奴隷を市場で売る際にいくらで売ったか、乗組員をスカウトする際に給料でいくら払ったか、等も記録しておく必要があり、日数計算と収支計算が煩わしい事この上なく、相当ストレスフルでした。

 さらに、運試しの失敗時のペナルティが大抵「即死」というのもたまりませんでした。運が悪くてある程度ダメージを受ける、ならまだ納得できますが、運が悪かっただけで死亡して強制終了というのは酷過ぎます。

 とどめが、最終決戦ともいうべき一つ目巨人との戦いで戦闘がしまりなくダラダラ続くので堪忍袋の緒が切れそうになりました。もうちょっとなんとかならなかったものか……


 という事で、本作は気に入った点も多かったのですが、同時に我慢のならない点も多々ありましたね。非常に惜しかった。


 ゲームブックの感想でこういう事を書くのはどうかと思いますが、この作品はコンピューターゲームならかなり楽しめたのではないでしょうか。面倒な金銭管理などは全部機械に任せ、プレイヤーはイベントを体験する事だけに集中する、という形なら、相当面白かった気がします。

 決して悪い作品では無く、テーマ設定も新鮮で見どころも多かったのですが、もう少し細かいところで読者を気遣ってくれれば良かったのに、という気はしましたね。

 
 

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