【SF小説】感想「盗聴拠点ピンホイール」(宇宙英雄ローダン・シリーズ 657巻)(2022年1月19日発売)

盗聴拠点ピンホイール (ハヤカワ文庫 SF ロ 1-657 宇宙英雄ローダン・シリーズ 657)

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盗聴拠点ピンホイール (ハヤカワ文庫 SF ロ 1-657 宇宙英雄ローダン・シリーズ 657) 文庫 2022/1/19
マリアンネ・シドウ (著), H・G・フランシス (著), 井口 富美子 (翻訳)
出版社:早川書房 (2022/1/19)
発売日:2022/1/19
文庫:272ページ

【※以下ネタバレ】
 

エスタルトゥから故郷銀河のアルダスターへ戻るカルタン人のダオ・リン=ヘイは、この15年間の苦難の入植の歴史を回想する……。


カルタン人にとり“ラオ=シン”とは、種族のあいだで古代から伝わる楽園であり、約束の地のことだった。そこに種族の全員を移住させるため、カルタン人はラオ=シン入植計画を実行する。かれらがアルドゥスタアルと呼ぶ三角座銀河から四千万光年の距離にあるラオ=シンで、庇護者ダオ・リン=ヘイの指揮のもと、入植地は着実な発展を遂げていた。だが、そのダオ・リン=ヘイにアルドゥスタアルへの帰還命令が出される!

 

あらすじ

◇1313話 ラオ=シンの入植者(マリアンネ・シドウ)(訳者:井口 富美子)

 過去。カルタン人・ダオ・リン=ヘイは、謎の存在「アルドゥスタアルの“声”」から、種族の伝説に登場する楽園「ラオ=シン」は4000万光年離れた異銀河に実在することを教えられ、種族全員をラオ=シンに移住させる大計画を任される。ダオ・リンは二年かけて異銀河に渡り、フベイと名付けた惑星の植民地を拡大する一方で、この異銀河が「アブサンタ=ゴム」「アブサンタ=シャド」という二重銀河で、戦争を崇拝する勢力に支配されていることを知る。

 現在。ダオ・リンは召喚命令を受け故郷銀河に帰還するが、待ち伏せていたPIGの船団に襲撃される。ダオ・リオは謎の声の指示に従い小型艇で逃走した。(時期:不明:NGZ430年頃~446年3月頃)

※初出キーワード=全知女性


◇1314話 盗聴拠点ピンホイール(H・G・フランシス)(訳者:井口 富美子)

 PIG船団はダオ・リン=ヘイを捕えようとするが、ダオ・リンは小型船で逃走し、PIGの目前で船ごと消えてしまった。しかしPIGはパラテンサーの能力を使い、事態の黒幕に「全知女性」あるいは「全知者の一派」と名乗る勢力がいることを突き止めた。(時期:NGZ445年~446年4月5日)

※初出キーワード=盗聴能力者


あとがきにかえて

 SF「ぼくの未来を占ってみて」を翻訳した話。


感想

・前半エピソード 原タイトル:DIE KOLONISTEN VON LAO-SINH(意訳:ラオ=シンの入植者)

 久しぶりのシドウ担当回は、カルタン人の異銀河植民物語。シドウの担当回はいつも「種族の長大な歴史を俯瞰して物語る」みたいな話ばかりですね。何かそういう話専門みたいな立ち位置なのでしょうか。そして4000万光年を多段式宇宙船で押し渡るという展開に、太陽系帝国時代の懐かしの宇宙船「アンドロテスト」を思い出しました。


・後半エピソード 原タイトル:HORCHPOSTEN PINWHEEL(意訳:盗聴拠点ピンホイール)

 逃げるダオ・リン=ヘイと追うPIGという展開に、PIGのパラテンサーでゲストキャラのポエル・アルカンの物語を絡めた回。「単なる一回限りのゲストキャラの過去を延々と深堀りして描写する」というのは、フォルツの最初期のエピソードによくあったパターンで少し懐かしかったです。その昔、故・松谷先生があとがきで「ゲストキャラの誰それの過去が描かれるので今後活躍するのかと思ったらすぐ死んでビックリした」云々と書いていたのを思い出しました。

 表紙絵はこちらのエピソードのワンシーン。「女性の手が燃え上がる」というのは何かの比喩だと思っていたら、まんまだったのでちょっと笑いました(笑)


 という話はさておき、今回最も問題なのは、タイトルに使われている「ピンホイール」という単語が本文の中で一回も使用されていない事でしょう。日本の読者の大半は読み終えて唖然としたのではないでしょうか? 「結局ピンホイールとは何だったんだ……?」と。

 まあ本文中に「“三角座銀河・盗聴拠点”作戦」という単語が有るので、『ローダン世界では三角座銀河をピンホイールと呼んでいる』らしいことは薄々察せられます。ピンホイール(PINWHEEL)とは風車の事なので、「ソンブレロ星雲」と同じようなノリで、風車銀河と呼んでいるのかもしれません…… そしてPIG(三角座銀河情報局)は「ピンホイール・インテリジェンス・グループ」云々的な略らしいとも想像できます……

 し・か・し、タイトルに「盗聴拠点ピンホイール」とつけておいて、中身にピンホイールという言葉が出てこないことを、早川書房のローダン編集部(?)はなんとも思わなかったのでしょうか? 読者の混乱が予想できないのか? これはそもそも誰が悪いのか? ドイツの作者たちか? それとも入念な翻訳編集をしない早川の編集者たちか? よくわかりませんが、とにかく読後のモヤモヤが物凄い回でした。
 
 
 

650巻~675巻(「ネットウォーカー」サイクル)の他の巻の内容・感想は以下へどうぞ

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