【ゲームブック】感想:ゲームブック「盗賊都市」(イアン・リビングストン/2021年)【クリア】

City of Thieves Colouring Book (The Official Fighting Fantasy Colouring Books)
City of Thieves Colouring Book (The Official Fighting Fantasy Colouring Books)

http://www.amazon.co.jp/dp/4815606951
ファイティング・ファンタジー・コレクション ~火吹山の魔法使いふたたび 単行本(ソフトカバー) 2021/7/16
安田均グループSNE (著)
出版社:SBクリエイティブ (2021/7/16)
発売日:2021/7/16
単行本(ソフトカバー):1416ページ

★★【以下ネタバレ】★★
 
 

盗賊都市
「盗賊都市」の異名を持つ悪名高き港街ポート・ブラックサンドを舞台にした都市型アドベンチャー。任務の達成段階に応じて、物語の舞台が移り変わっていく。本シリーズの世界観を鮮やかに描き出した名編。

 
 昨年2021年7月に発売されたゲームブック5冊詰め合わせセット「ファイティング・ファンタジー・コレクション ~火吹山の魔法使いふたたび~」

ファイティング・ファンタジー・コレクション ~火吹山の魔法使いふたたび~ | SBクリエイティブ
https://www.sbcr.jp/product/4815606954/

www.sbcr.jp
 
 の中の一冊「盗賊都市」(イアン・リビングストン/本国イギリスでは1993年発売)をクリアしたので感想をば。

概要

 「ファイティング・ファンタジー(FF)・シリーズ」5作目。王道ファンタジー作品。


あらすじ

 交易の拠点として名高いシルバートンの町は、今や毎晩≪夜の王≫ザンバー・ボーンの送り込む魔物に襲撃されている。ザンバー・ボーンを倒せるのは老魔術師ニカデマスしかいないが、彼は犯罪者の巣窟として悪名高い≪盗賊都市≫ことポート・ブラックサンドのどこかに隠棲しているのだ。君の任務は、ポート・ブラックサンドに向かい、ニカデマスを探して連れてくることだ。君は、この危険な町で任務を果たすことができるか?!


ゲームシステムなど

 パラグラフ数は400。システムは、ファイティング・ファンタジー・シリーズ共通の「サイコロを振ってキャラクターの3つの能力(技術点・体力点・運点)を決定」、「必要に応じてサイコロで判定を行い、戦闘や運試しなどを行う」というもの。

 特別ルールは無し。


感想

 評価は○(なかなか)。

 FFシリーズ5作目。世界観に徹底的に凝りまくった一作で、プレイしていてFF世界の空気を堪能出来る楽しい一作でした。


 本作は、タイトル通り、ボリュームのほぼ9割が≪盗賊都市≫こと「ポート・ブラックサンド」という町での冒険に割かれています。この町は盗賊都市の異名に相応しく、冒頭からいきなりいかめしい門番との危険な交渉を強いられ、さらになんとか町に入っても、白昼から追いはぎたちが襲い掛かってきたり、と、危険が一杯です。

 と、それだけなら、地下迷宮に入って冒険しているのと大差は無いのですが、本作の魅力はここからで、やはり町ですから、商売をしている店もあれば、一般の住民もいます。危険な町ではあるものの、お金を出せばちゃんと見合った買い物が出来るし、困っている人を助ければ良いことが起きるし、漁師の奥様方との世間話が体験できたり、と殺伐とした「戦闘」「罠」以外の要素、FF世界での一般人の暮らしが垣間見えて、読者のイメージを膨らませてくれました。個人的には、こんなに暴力に満ち溢れている町なのに、心をいやすための公園が有ったりしたのがちょっとウケました(笑)


 本作は、難易度はそれほどではなく、幾つか分岐する道を進みつつ「横に建物の入り口がある 入るか?/そのまま通り過ぎるか?」的なものを選択していくだけ。まあ、無視して素通りしたりすると、何もイベントが発生しないままバッドエンドになってしまうので、当然全て見て回るわけですが、入って得することもあれば、「寄り道なんてしなければ良かった……」と損するだけのことも有ったりして、そういう色々を体験していくのが楽しいプレイでした。

 町で必要なアイテムを(合法的に)入手するには、やはりお金がかかるので、懐具合と相談の上で色々と行動しなくてはなりません。そして意外なことに、お金は減るばかりではなく、色々と手に入るイベントも用意されており、単なるアイテム探しにとどまらない、お買い物ゲームの要素もあるのが何となく面白かったです。

 しかし、この主人公、店に入った場合に、当たり前のように店主を剣で脅す選択肢があるし、赤の他人の家に忍び込んだりするし、結構悪党ですよね~。


 このように、町の様子が詳細に描かれているパラグラフを読んでいると、なんとなくTRPGの設定資料集を読んでいる様な感覚に陥りました。色々な店には、それぞれ個性の強い店主がいるし、通りを歩いていても色々なイベントが発生します。また主人公が、町の支配者であるアズール卿の馬車とすれ違うイベント(本当にすれ違うだけ)も有ったりします。ということで、センスのある人なら、これらの描写から、色々と新しい物語をひねり出せそうな感じがしましたね。



 さて、このように町での探索行が楽しい本作は、それゆえに一つ問題を抱えています。それは「ポート・ブラックサンドでの冒険に尺を割きすぎて、ザンバー・ボーンとの対決がほぼ付けたしにしかなっていない」という点。

 本作をプレイすると、色々なイベントが発生するポート・ブラックサンドでの冒険が楽しすぎて、それと比較して、最終目的であるザンバー・ボーンとの決戦があまり盛り上がらないんですよね。敵の本拠である塔に殴り込み、強大な力を持つラスボスとの一対一の最終決戦に挑む、という展開は、物語のクライマックスとして相応しいはずなのですが……

 せめて「二部構成で、前半がポート・ブラックサンド編、後半がザンバー・ボーンの塔編、と均等なボリューム」という形であるとか、「ポート・ブラックサンドの支配者こそがザンバー・ボーンだった。町でアイテムをそろえてから、ザンバー・ボーンと決戦だ」とかだったら文句なかったのですけどね。ポート・ブラックサンドの話とザンバー・ボーンとの対決の話がまるで繋がってないというかそんな感じで、なんとなしのバランスの悪さを感じました。


 とか言いつつも、やはりゲームブックとしての質は一流でしたので、本作は秀作と評価してよいと思います。しかし、ラス前に、ニカデマスのあやふな記憶のせいで、ザンバー・ボーンに攻撃が効かず、速攻で殺されてしまうバッドエンドは、「ここにきてこれは無いよな~」と思いました(笑)
 
 
 

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perry-r.hatenablog.com