【ゲームブック】感想:ゲームブック「雪の魔女の洞窟」(イアン・リビングストン/2023年)【クリア】

Fighting Fantasy 09 Caverns Of The Snow Witch (Puffin Adventure Gamebooks)
Fighting Fantasy 09 Caverns Of The Snow Witch

http://www.amazon.co.jp/dp/481561962X
ファイティング・ファンタジー・コレクション 40周年記念~イアン・リビングストン編~「巨人の影」 単行本(ソフトカバー) 2023/7/14
安田均グループSNE (著)
出版社:SBクリエイティブ (2023/7/14)
発売日:2023/7/14
単行本(ソフトカバー):1384ページ

★★【以下ネタバレ】★★
 
 

雪の魔女の洞窟


物語は極寒の「氷指山脈」に始まり、さまざまな場所をたどる。複数のロケーションを巡ることでアランシアの世界を描き出した記念碑的作品。

 
 今年(2023年)7月に発売されたゲームブック5冊詰め合わせセット「ファイティング・ファンタジー・コレクション 40周年記念~イアン・リビングストン編~「巨人の影」」

ファイティング・ファンタジー・コレクション 40周年記念~イアン・リビングストン編~「巨人の影」 | SBクリエイティブ
https://www.sbcr.jp/product/4815619626/

www.sbcr.jp
 
 の中の一冊「雪の魔女の洞窟」(イアン・リビングストン/本国イギリスでは1984年発売)をクリアしたので感想をば。

概要

 「ファイティング・ファンタジー(FF)・シリーズ」9作目。剣と魔法系ファンタジー物。


あらすじ

 冒険者であるきみは、数週間前から商人ビッグ・ジム・サン率いる隊商の護衛として雇われ、酷寒の地を旅していた。ところが目的地である「前哨地の砦」に到着してみると、砦は何者かに破壊され住人たちは皆殺しにされていた。きみはビッグ・ジム・サンの依頼で、砦を襲った獣を討伐するために単身出発したが……!?


ゲームシステムなど

 パラグラフ数は400。システムは、ファイティング・ファンタジー・シリーズ共通の「サイコロを振ってキャラクターの3つの能力(技術点・体力点・運点)を決定」、「必要に応じてサイコロで判定を行い、戦闘や運試しなどを行う」というもの。

 特別ルールは無し。


感想

 評価は○(ぎりぎり合格点)

 FFシリーズ9作目。ゲームブックとしてのクオリティはまあ合格点だと思いますが、個人的には面白さはもう一つでした。


 本作の特徴は、主人公が一つの大きな冒険に挑むのではなく、複数の冒険を連続して体験していく、いわゆるキャンペーン形式になっている事です。酷寒の地の小さな冒険を皮切りに、次々と場所を移動しながら新しい冒険に挑んでいく、というそれまでのFF作品に無かった形式になっています。

 と、こう書くと何か凄く面白そうですが、実際のところは過去のリビングストン作品と比較するとかなりボルテージが低く、正直期待外れの内容でした。そしてその原因はキャンペーンの各冒険が大して面白みがないことに尽きます。


 本作では、砦を襲った猛獣の追跡、雪の魔女の洞窟の探索、ストーンブリッジへの旅、死の呪いの解呪、という大きく四つの冒険が用意されていますが、どれもイマイチ。


 一番最初の砦を襲った猛獣の追跡エピソードは、導入部で起承転結の起にあたるため、ボリュームが小さくても不満はありませんが、イエティを倒した後雇い主の元に戻らず、雪の魔女の洞窟の財宝の話に目がくらんでそのまま隊商護衛の仕事を放り出してしまうのがいただけません。FF世界の契約などこの程度の物、という事かもしれませんが、正直自分の分身となるキャラクターがこんないい加減なキャラだと思うとちょっと嫌になりました。


 その次の、雪の魔女の洞窟での冒険は、過去のリビングストン作品で何度も出て来たダンジョン探索物ということで、新鮮味はないものの安定した展開でしたが、どの方向に進もうとも最終的に雪の魔女の部屋にたどり着くという親切(というより理不尽)な作りはどうかと思いました。今までにないギミックだけに、最初は自分がマッピングを間違えたのかと疑心暗鬼になったほどでした。こういう親切さは不要なのでは。

 また雪の魔女は世界征服を企んでいるとの触れ込みでしたが、その割には自分がルールを作ったジャンケン的なゲームに負けて自滅してしまうなどラスボス感が皆無で、なんとも残念な気持ちにさせられました……


 雪の魔女の洞窟を脱出した後のストーンブリッジへの道中はウィルダネスアドベンチャーで、仲間と三人での旅という今までにない形式でしたので新鮮でしたが、ここでもビッグ・ジム・サンとの契約などどうでもいいと再度強調してくるので微妙な気持ちにさせられました。

 さらには、目的のストーンブリッジへ到着しても、そのまま何もせずに町を離れるという展開も拍子抜けも良いところでした。この街から三人組のさらなる大冒険が始まるかと心躍らせていたのに。結局「運命の森」とのつながりをアピールするだけに終わってしまったのは何だかなぁ感がありましたね。


 最後の「死の呪文」を解除するために「癒し手(ヒーラー)」を探す展開はそこそこは面白かったのですが、せっかく仲間になったレッドスウィフトがあっさり死んでしまうのはショックでした。また終盤になると畳みかけるように「XXをしたか」「XXを持っているか」としつこく条件を付けてきて、今更そんなことを細かく詮索されてもとイライラしてきましたね。特にダークエルフの健康のポーションを飲んでいないと即詰みという展開はあまりにもあんまりだと思いました。

 そしてラストシーンを「火吹き山」の山頂で迎えるというのは、用意したリビングストンの得意げな顔が見えるようですが、読者的にはこじつけて無理やり火吹き山の名前を出してきたとしか思えず、軽く白けてしまいました……

 という事でどの冒険もあまり面白みがなく、完全クリアしてもあまり満足感は得られない、ちょっと残念な作品でした。


 ただ褒めるところも無くはなく、「癒し手(ヒーラー)」を探す旅での仕掛けは良く出来ていました。この探索の旅はルートが大まかに三つに分岐しますが、そのうちの一つではレッドスウィフトの兄アッシュと遭遇し癒し手についての手掛かりをもらえます。

 こういう重要キャラが出て来るならこのルートこそが本筋のように見えますが、実はアッシュと会うルートは苦労が多く死の危険も高い外れルート。アッシュと会わないルートこそ、旅をショートカットして危険が最小で済みますし、別に手掛かりをもらえなくても癒し手に会えるようになっているという……、と、このように読者の考えの裏をかくような構成になっていることにはちょっと感心しました。本作唯一の褒めるところかもしれません。


 とは言え全体的に言えば過去の作品と比較して、面白みが遥かに劣っていると言わざるを得ない一作でした。

 本作は、迷宮探険競技の開催される街「ファング」の話が出てきたり(死の罠の地下迷宮)、ストーンブリッジの町でハンマーを探す云々の話を聞けたり(運命の森)、癒し手と魔法使いニカデマスとの関係が語られたり(盗賊都市)、最後の舞台が火吹き山だったり(火吹き山の魔法使い)と、過去のリビングストン作のFFシリーズ作品を結び付け、一つの大きな世界観を描き出していましたが、それが面白さに結びついていなかったんですよね。もったいない。

 ある程度の面白さは保障されてはいますが、夢中になってプレイするという程ではありませんでした。ちと残念な一作でした。
 
 
 

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