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デッドライン (アドベンチャーノベルス) 新書 1987/5/1
北 鏡太 (著), INFOCOM
出版社:JICC出版局 (1987/5/1)
発売日:1987/5/1
新書:260ページ
★★【以下ネタバレ】★★
本書は、アメリカのインフォコム社より製作・発売された、パソコン用ゲームソフト『デッドライン』を基にしたアドベンチャーノベルスです。パソコンゲームの楽しさに読み物の面白さをプラスした、新しい形のエンターテイメントです。『デッドライン』は、インフォコム社のパソコンゲーム・ミステリーシリーズの1作に当ります。原作のゲームでは、大富豪ロブナー氏が自室にて死体で発見されたことに端を発した、ロブナー邸での事件を解決してゆく探偵小説だてになっています。本書では、その原作での事件と、時を同じくして発生した連続殺人事件とを主人公のロス市警警部補ケニーが追い、両方の事件を解決してゆくという内容で、その趣も警察小説風となっています。
あらすじ
ロサンゼルス。俺ことケニー警部補は、大富豪ロブナー氏が自宅で変死しているとの知らせを受け、現場に向かった。ところが同じころ、三年前にケニーが逮捕した連続殺人犯と全く同一の手口の殺人が発生していた。模倣犯が出現したのか? それともケニーは無実の人間を死刑台に送ってしまったのか? そしてこの二つの事件は、複雑に絡み合いながら意外な方向へと発展していく……
ゲームシステムなど
パラグラフ数は214。主人公のパラメーター無し、サイコロ振り無し、の分岐小説タイプ。
ただしフラグチェック要素があり、特定のパラグラフを通ると「アルファベットの○をチェックすること」、あるいは「XXという文字を記入すること」といった指示があり、その後の選択肢で「もしアルファベットの○がチェックされていれば~、チェックされていなければ~」といった形でストーリーが分岐する。
感想
評価は○(なかなか歯ごたえあり)。
アメリカのゲーム会社・インフォコム社の推理アドベンチャーを原作にしたゲームブック。評価はまずまずでした。
インフォコムは、パソコンゲーム黎明期に名をはせた「テキストアドベンチャーゲーム」(※絵は無く文字だけのアドベンチャーゲーム)のブランドで、「ゾーク」三部作が有名です。しかし「ゾークI」以外の作品は日本のマシンには移植されなかったため、インフォコムブランドのゲームは日本では殆ど知られていません。
本作はインフォコムの推理ゲーム三部作の一つをゲームブック化したものですが、作者が内容を独自改変しており、インフォコム作品は「原作」というより「原案」程度になっています。
さらに、本作は、二ヵ月前に先行発売されていた、やはりインフォコム推理ゲームのゲームブック化作品「ウィットネス」と舞台と登場キャラが同じ姉妹作となっています。コンピューターゲームの方では本作と「ウィットネス」は全く繋がりは無いのですが、ゲームブックはJICCの意向で「ケニー・シリーズ」みたいに作り替えちゃったみたいですね。まあ原作は日本ではほぼ知られていないので、特に支障はなかったですけどね。
ちなみに、ゲームブック「ウィットネス」と同じキャラが登場すると言っても設定は大きく違っており、「ウィットネス」では登場キャラ三人は普通の警官でしたが、本作では、
・ケニー警部補 … 自称「俺」。受け持ち区域の売春婦は全員顔見知り。捜査に行った先で高級葉巻をくすねるようなキャラクター。
・ダフィー … 気弱でケニーの言いなり。
・ヘンダーソン副署長 … 部下の書類の些細なミスを見つけてはネチネチ嫌味を言うような嫌な上司
と個性豊か。作者の北鏡太氏による描写で、本場の刑事物小説を読んでいる様な感覚になりました。
・システム
本作は、序盤・中盤・終盤でゲームブックとしての難易度が全く異なるのが印象的です。序盤はほぼ選択肢が無く、あるパラグラフから次のパラグラフへとバケツリレー方式でひたすら一直線に進んでいくだけ。時たま選択肢があっても、すぐに同じルートに合流してしまうので、難易度は大したことはありません。
ところが中盤に入ると、それが一転、複雑にあっちこっちへと分岐を繰り返し、フローチャートが複雑に絡み合うので、正しい道筋を辿るのが一苦労になります。
しかし終盤に入ると、また序盤同様のほぼ一直線の展開に戻り、たまに分岐しても、間違った方を選択するとすぐにバッドエンドになってしまうので、間違えたら選び直せばよく、ここまでくれば後はグッドエンドまで悩むことなく突っ走ることが出来ます。
ということで、序盤は簡単に進み過ぎてちょっと甘く見てしまいましたが、中盤の複雑な展開は正直音を上げそうになって認識をガラッと改めざるをえませんでした。それだけに逆に終盤は恐ろしく簡単になったので意表を付かれましたね。
本作の売りの(?)フラグチェックシステムはなかなか凝っている、というか「凝り過ぎ」です。随所にフラグ立てのような指示がありますが、よく見ると「Aをチェックすること」と「Aを記入すること」というよく似ているが実は異なる二種類がある事が解ります。前者は「フラグAを立てること」ですが、後者は「メモ用紙にAと記入すること」という意味なので、この二つは全然違います。しかし最初はこれに気が付かなくて相当混乱させられましたね~。
ちなみに「出来るだけフラグを立てまくれば正解に近づく」ではなく、「間違ったフラグを立てるとバッドエンドに分岐する」という意地悪な仕掛けになっており、何度間違ったフラグのせいでバッドエンド(事件解決に失敗してクビ)パラグラフに行かされたかわかりません。クリアするために必須のパラグラフというのは経験がありましたが、バッドエンド回避のため通過してはいけない(フラグを立ててはいけない)パラグラフ、という物は初めてでしたね。
なお、フラグ立て以外に「アルファベットを記入すること」というアクションがあり、これは終盤まで意味が解らなかったのですが、これは正しい捜査ルートを辿り、正しいアルファベットを過不足なく拾い上げて記入し、それを並び替えると真犯人の名前が浮かび上がる、という仕掛けになっていたのです。これは、あまり面白いギミックとは思えませんが、他に例を見ないアイデアであったことは確かです。
・ストーリー
ストーリーはかなり凝っていて、最初は大富豪の不審死からスタートしますが、すぐに別件の女性の暴行殺人事件が発生、しかもその犯行の手口は主人公ケニー警部補が既に逮捕した犯人と同じということで、ケニーが無罪の人間を間違って逮捕したのではないか、という疑惑が浮上します。そんな居心地の悪い状況で、ケニーはロブナー事件と、婦女暴行殺人事件の二つを同時に追わなければなりません。同時に全く異なる事件を捜査するなんて推理ゲームは今まで見たことがありません。これはなかなか面白い体験でしたね。
ちなみに、商品紹介を読む限り、二つの事件を追うというのは原作ゲーム通りではなく本作オリジナルの展開のようです。しかしこれはこれで面白いので全く問題無いですね。
また、この作品で面白いのは、「犯人を逮捕すれば終わり」ではなく、その後に裁判が待っている事です。ケニーは地方検事とタッグを組み、正しい証人を用意し、きちんと態勢を整えてから裁判に挑まなければなりません。
誰を証人に呼ぶか、証言の順番はどうするか、相手の尋問に異議を唱えるか否か、といった選択肢を上手く選んでいかないと、すぐに『有能な弁護士にやり込められて裁判に負け、俺は警察から放り出された』というバッドエンドが待ち構えています。まあ、この辺り(終盤)になると。前述のとおり二者択一の簡単な構成になっていますので、負けたらくじけずにそこからやり直せば良い訳ですけどね。
・総括
全体として、ストーリー展開は面白く、ゲームブックとしてのやりごたえもあり、なかなかの満足感でした。これは評価出来る一作でしたね。
(ネタバレ)真犯人
ロブナー殺しの犯人は甥のバクスター。連続暴行殺人事件の犯人はジョージ・ロブナーで、三年前の事件を模倣した。