【PBM】PBMの歴史の解説記事『フィクション共創による仮想社会構築ムーブメントとしてのPBMとその意義』の読みごたえが凄い【始まりから衰退まで】

なんでもかんでも蓬莱学園!

2023.6.20
フィクション共創による仮想社会構築ムーブメントとしてのPBM(プレイバイメール)とその意義──「NPO法人 日本PBMアーカイブス」の取り組みから[前編]
中川 大地
https://macc.bunka.go.jp/1826/

macc.bunka.go.jp

2021年6月、国産商用PBMの記録を後世に残すべく「NPO法人 日本PBMアーカイブス」が発足しました。本稿では、PBMアーカイブスが収蔵対象とする日本の商用PBMと周辺ジャンルの展開を概観しつつ、現在の視点から見た意義について考察します。前編ではアメリカにおけるPBM文化の起源と、国産化の動きについて紹介していきます。

 

2023.6.20
フィクション共創による仮想社会構築ムーブメントとしてのPBM(プレイバイメール)とその意義──「NPO法人 日本PBMアーカイブス」の取り組みから[後編]
中川 大地
https://macc.bunka.go.jp/1850/

macc.bunka.go.jp

NPO法人 日本PBMアーカイブス」の収蔵対象である国産商用PBMを概観しつつ、現在の視点から見た意義について考察する本稿。後編では、プレイヤー交流やコミュニティ文化の特徴などを解説しながら、インターネットが登場する以前の国産商用PBMが果たした役割を考えていきます。

 
 すごい記事見つけちゃいました。

 タイトルでわかると思いますが、かつて1980年代後半から90年代末までに日本の中高生とかの間で大流行していた各種PBM(プレイバイメール)の歴史について書かれた記事です。


 これは凄い事ですよ。


 というのも、PBMはその性質上、参加していなかった人間には何が何だか分からないし、かといって参加者も(コンピューターゲームなどと違い)個々のプレイ体験はそれぞれ異なるので、「この作品はこういうもの」という説明ができない。つまり自分が体験した「○○という作品で□□勢力の一員として参加して云々」という武勇伝しか語れない。

 ゆえに、最終的にはそのPBM作品がどんなものだったのかは、誰も語れないまま忘れ去られてしまうことになります(俯瞰して書籍にでもして語れるのは運営者サイドだけですが、そういう試みは蓬莱学園以外無かったと思う……)


 まあ過去に、こういう記事
 ↓

2017年12月30日 11:55
【ゲームの企画書】リアルを舞台に数千人規模でゲーム…そんなのは約30年前に存在した! 「蓬莱学園」狂気の1年を今こそ語りあおう【新城カズマ×齊藤陽介×中津宗一郎 】
http://news.denfaminicogamer.jp/projectbook/171230

news.denfaminicogamer.jp

 
 もあることはありましたが、これとて「蓬莱学園はすごかったよねー」という単一作品の思い出語りでしかないので、「昔流行ったPBMとはどんなものだったの?」という俯瞰した歴史は今まで語られていなかったと思います。そこにこの記事ですよ、興奮しましたね。



 全編情報の塊で、引用していたらすべて引き写すしかないので、ポイントだけ。それでも引用だらけですが……
 
 

前編

 1970年代の海外PBMの話からスタート。フライング・バッファロー社のスターウェブやその他の会社の作品の話から始まり、日本での「スターウェブジャパン」の活動、に続いて
 

BEEP誌のメガ・オービス

同誌オリジナルのスペースオペラ世界に生きるさまざまな恒星系の知的種族や国家勢力といった舞台背景をグラビアで紹介し、同じ世界を共有する小説やマンガ、それにBASICやマシン語で書かれたゲームプログラムといったコンテンツ群を誌上展開していくオリジナルのシェアードワールド企画で、読者に対して誌面記事を手本にした自作ゲームプログラムやメカイラスト、ストーリーなどの自由な投稿を呼び掛けるというものだ。

 
 
 
BEEP誌のヤタタ・ウォーズ

オリジナルのSFスペースオペラ題材でありながら、32×32マスの星図で表現されるヤタタ銀河帝国の覇権を争う2大勢力の艦隊戦を中核とするウォーシミュレーションゲーム的な状況設定が導入されている点が、『メガ・オービス』との違いだ。


さらに、エロティックな絵柄で描かれた7人の個性的な王女が戦闘空域のどこかに潜んでおり、そのうち4人を助け出した側が皇位継承権を掌握するというキャラクターストーリーに絡めた勝利条件や、エネルギー資源の運用・取引にまつわる得点獲得の仕組みなど、毎月徐々に詳細なルールが明かされるかたちで、約1年間のキャンペーンプレイが展開された。

 
 
 
ゲームグラフィックス誌の「イングリッズ・レース」と「フィクショナル・トルーパーズ」

SF世界での武装車両によるカーレースを題材にした『イングリッズ・レース』や、中近東の架空の国を舞台にした傭兵パイロットによる航空機戦を題材にした『フィクショナル・トルーパーズ』など、明確にルールに基づいて大勢の読者からのプレイング投稿を処理して勝敗結果を掲載する本格的な読者参加ゲームが登場し、人気を博すようになる。

 
 
 
コンプティーク誌の「ロボクラッシュ」と「トップをねらえ!

ロボクラッシュ』(『コンプティーク』1988年7月号・9月号より)。「ゲームグラフィックス」型の読者参加ゲームのスタイルを踏襲し、アニメファンやビデオゲームからの参入者など、よりカジュアルなジュブナイル層に訴求することを試みた企画。各回の大会エントリーから結果発表まで隔月で運営され、あいだの月に『トップをねらえ!』が行われた

 
の紹介。


後編

遊演体の「ネットゲーム’88」

こうした背景のもと、『ローズ・トゥ・ロード』のゲームデザイナーである門倉直人らを擁した遊演体が1988年に設立。日本初の商用PBM(Play by Mail:以下、PBM)事業として『ネットゲーム’88(以下、N88)』を開始する。現代日本を舞台に、日本神話やクトゥルフ神話(H. P. ラヴクラフトが創造した怪奇小説群に端を発した架空の神話体系)をモチーフとした人外の怪物たちの勢力による邪神の復活を目論む陰謀をめぐり、その阻止を目指す人間側と人間社会に潜伏した怪物側とに分かれたプレイヤー同士が自ら作成した物語上のキャラクターの立場で月に1度の行動を考案・送付し、自陣営の勝利を目指して知略を競ってゆく物語を1年かけて展開するというのが、その概要である。

 
 
遊演体の「蓬莱学園の冒険」

物語の舞台を日本列島の南海に浮かぶ架空の孤島・宇津帆島に築かれた生徒数10万人を超える巨大学園「蓬?学園」に換え、前作では現代社会のさまざまな職種のなかから選択していた(それゆえプレイヤーの専門知識や社会経験がプレイクオリティに直結しやすい)PCの社会的身分を、同学園に入学・編入した高等部の新入生という立場に統一。ジュヴナイルコンテンツとしてなじみやすい学園ものジャンルの体裁を採ることで、初心者や若年層にもロールプレイングを容易にし、参加ハードルを下げポピュラリティを高める方向でデザインされている。

 
ホビー・データの『クレギオン

本作は人類が宇宙進出して数千年経った遠未来の星間世界を舞台にした王道スペースオペラもので、辺境星系を構成する複数の惑星国家などで同時並行的に進行する、ロストテクノロジーをめぐる冒険物語が展開された。

そしてシステム面では、シナリオ全体をあらかじめ物語の舞台となる惑星国家などのエリア別・事件別に分かれた「ブランチ(枝)」単位で進行するように設計し、各ブランチの専属ゲームマスターを配置。それぞれ数十人から最大300人程度のPCたちを担当するようにマスタリング(リアクション執筆)の負担を限定しつつ、参加するシナリオのフレームを明確化したことで、ブランチ内の参加ミッションに関するリアクション小説は必ず送付されるようになる。

 
 
 
 そして、まとめ

クレギオン #1』を嚆矢とするホビー・データのネットワークRPGは、いわば編集部が不特定多数の投稿はがきから優れたコンテンツを選別構築する「読者投稿」型モデルから、担当教官がマンツーマンで受講者の提出答案にきめ細かくフィードバックしていく「通信添削」型モデルへの転換を成し遂げたともいえるだろう。

ただし、ブランチ制などのシステム整備によるユーザーサービスとしての平等化は、各分野への高いリテラシーと図抜けた独創性・行動力を発揮して選抜されたトッププレイヤー層が、マスター陣と知恵比べしながら謎を解いてシナリオ全体に影響力を及ぼし、現実さながらの複雑さをもつ予測不可能な物語展開を協働制作していった(ように見える)『N88』『蓬?』当時のゲームプレイ的なダイナミズムと教養主義的な意味での文芸クオリティを、相対的に減退させていった側面があることも否めない。

 
 などが語られています。
 
 
 

コメント

 いやはや、まさかアメリカのスターウェブ辺りから話を始めるとは思わなかった。この手のPBMの話題って大抵「N88」での武勇伝と「蓬莱学園」の思い出話が99パーセントなので、クレギオンまで話を進めて、さらに「読者投稿型から通信添削型へ」みたいな考察までついていて、凄く得した気分です。

 丸ごと印刷して手に取れる形でまとめて保存しておきたいわこれレ。
 
 
試験に出る蓬莱学園!