【歴史】感想:歴史番組「ダークサイドミステリー」シーズン3(2021年版)「変身! よみがえる人狼伝説 ~あなたの身近にひそむ野獣~」(2021年7月22日(木)放送)

人狼伝説―変身と人食いの迷信について

ダークサイドミステリー NHK https://www.nhk.jp/p/darkside/ts/4847XJM6K8/
放送 NHK BSプレミアム。毎週木曜夜9時放送。

www.nhk.jp
【※以下ネタバレ】
 

他の回の内容・感想

perry-r.hatenablog.com
 

本当の謎は、人間の闇


背筋がゾワゾワ、心がドキドキ、怖いからこそ見たくなる。世界はそんなミステリーに満ちている。世間を揺るがした未解決の事件、常識を越えた自然の脅威、いにしえの不思議な伝説、怪しい歴史の記録、作家の驚異の創造力…。こうした事件・出来事を徹底再検証!
人智を超えた謎に迫る「幻解!超常ファイル」を拡大スピンオフ!今度は人間や自然が生み出した謎と恐怖に満ちた事件・伝説の正体に、栗山千明志方あきこ中田譲治のダークなトライアングルで引き続き迫ります。

 

変身! よみがえる人狼伝説 ~あなたの身近にひそむ野獣~ (2021年7月22日(木)放送)

 

内容

ダークサイドミステリー▽変身!よみがえる人狼伝説~あなたの身近にひそむ野獣~
[BSプレミアム] 2021年07月22日 午後9:00 ~ 午後10:00 (60分)


人がオオカミに!?伝説の変身怪物・人狼は実在した?食うか?狩るか?衝撃記録の正体は?オオカミ貴公子や美少女オオカミ、現代の目撃情報など、知られざる人狼のすべて。


人々の中にまぎれ込み襲いかかる怪物・人狼(狼男)は実在した!?ヨーロッパ衝撃の、本当にあった人狼事件の記録。人狼が食うか?人間が見つけ出すか?命がけの対決は意外な結末に!▽人狼はなぜ生まれたのか?神の罰か?狂戦士ベルセルクか?強く気高いオオカミ貴公子に、人と結婚した美少女オオカミ。知られざる人狼伝説や現代の人狼事件などから見えてくる、数千年に及ぶ人間とオオカミ、文明と野生の、恐怖と感動の歴史秘話。


【ナビゲーター】栗山千明,【ゲスト】池上俊一,高津秀之,【語り】中田譲治,【司会】青井実

 
 今回のテーマは「人狼伝説」。


人狼とは

 人間が満月の夜、毛むくじゃらの獣人・狼男に変身するという伝説はヨーロッパ各地に存在し、

・英語 … ウェアウルフ
・フランス … ルー・ガル―
・ドイツ … リカントロープ
・スペイン … オンブレロボ
・イタリア … マンナーロ

と様々な呼び名が付いている。



●16世紀の人狼事件

 ヨーロッパの人狼伝説で最も有名なのが16世紀・ドイツでの事件。ケルンの北30Kmにある小さな町ベットブルクで1589年に発生した事件は、交通の要衝ケルンを訪れる旅人によってヨーロッパ各地に伝わり、遠く離れたイギリスでも本になっているほど。

 ベットブルクは人口3000人の小さな町だが、25年ほど前から、子供が突然消えて惨殺死体で発見される、森の中で大人すら襲われて殺される、という事件が起こっていた。村人たちは猟犬を使って狼を追い立てると、何故か狼が姿を消し、代わりに羊飼いのペーター・シュトゥーペが現れた。ペーターは拷問にかけられ、自分が人狼で人や家畜を襲って殺していたことを白状した。彼は悪魔からもらったベルトで狼に変身して人を殺し、人間に戻って何食わぬ顔をしていたという。10月31日、ペーターは見せしめのため残酷な方法で処刑された。

 ただし、本当にペーターが人狼だったかどうかは怪しい。社会の不満のはけ口として、無実の人間を無理やり自白させ処刑させた可能性が高い。



人狼伝説のはじまり

 人狼の歴史は古い。例えば2019年にインドネシアで発見された44000年前の壁画には半人半獣が狩りをする姿が描かれていたし、40000年前の象牙彫刻「ライオンマン」は人とライオンが合体した姿が彫られている。人は獣に変身する願望的な物があるのかもしれない。

 古代ギリシャの神話には、アルカディアの王リュカーオーンが、訪問してきたゼウス神を試すようなことを行い、ゼウスの怒りをかって狼の姿にされ、永遠に放浪する罰を受ける、という話がある。

 8~11世紀の北ヨーロッパで暴れ回ったバイキングは、神オーディンの眷属として狼を崇めており、自ら狼の恰好をして戦う狂戦士ベルセルクバーサーカーがいた。このベルセルク人狼伝説の元になっている可能性もある。

 12世紀頃になると人狼に対するイメージは変わってくる。この頃ヨーロッパは温暖な気候に恵まれ人口は増加し、開発が進んでいった。人が狼の生活圏の中に入り込んでいくことになった。この頃の作家マリー・フランスの書いた物語「ビスクラヴレット」には狼に変身する騎士が登場する。騎士は夜、服を脱いで狼に変身するが、その秘密を知った妻とその愛人に服を隠され人に戻れなくなり、棋士として仕えた王に狼として仕え、妻への復讐の機会を狙ったという。ここで描かれる人狼は、人としての倫理観と野生の獣のたくましさを併せ持つ存在で、悪いイメージは全くない。



●悪魔と人狼

 しかし16世紀になると、人狼のイメージはすっかり変わり「悪魔の力で変身する邪悪な存在」になり果てていた。14世紀にヨーロッパは小氷期に入り、飢饉・ペストの蔓延・戦争などで地獄のような時代にとなっていた。そして死んだ人間を狼が食べ、狼が人の味を知ってしまったのである。15世紀になると、パリを狼の群れが襲い、大量の犠牲者が出るという事態となった。

 この頃の絵には、よそから来た放浪者を人狼として描写したものが残っている。素性が解らずうさんくさい人間は、もう人狼と同じ、という偏見が発生したのである。やがて魔女狩りとセットとなり、怪しいと睨んだ人間を人狼として処刑する、という悪夢の時代が到来した。



●近世の人狼

 しかし、自然科学の発達で、物事を科学的に見る啓蒙思想の時代が到来すると、人が狼に変身する、という迷信は徐々に消えていった。人口は増加したことで森は次々と伐採され、オオカミは害獣として駆除の対象になり数を減らしていった。

 ところが、19世紀、人狼は文学の中で復活した。1839年、イギリスの作家フレデリック・マリアットは「ハルツ山の人狼」という物語を発表した。ドイツのハルツ山に子供たちと住む男が、伝説の白い狼を追跡するものの見失う。しかしその後、クリスティーナという美女が現れ、二人は結婚する。ところが子供たちが次々と死んでしまい、さらにクリスティーナが墓を暴いて死体を食べているシーンを目撃、男はクリスティーナを射殺する。

 19世紀のイギリス人は産業革命で絶頂を極めたと考えていたが、このあとはもはや自然に退行していくしかない、と恐れていた。そして人はいくらとりつくろっても心の中に野獣を隠している、といった恐れの象徴が人狼だった。

 1840年にはスペイン・ガリシア地方で女子供13人が殺される連続殺人が発生。犯人として逮捕されたロマサンタは、自分が呪いのせいで狼に変身して人を殺してしまった、と主張した。彼は狼化妄想症を患っていたとされ、同様に中世に自らを狼と思い込んで人を殺した事例が狼男伝説の一端となったと考えられる。



●現代の人狼

 人狼はもはや過去の物になったと思いきや、2016年、イギリス・キングストン・アポ・ハルで全長2.4mの人狼が目撃されている。この人狼は鋭い牙を持ち、ジャーマンシェパードを襲って食べていたとされるが、ついに正体は不明のままだった。


感想

 今回は人狼特集。以前に「吸血鬼」テーマの回が有ったのですが、ヨーロッパ各地の伝説の存在が、文明の発達で否定されていき、19世紀になって文学の中で蘇る、という流れがまんま一緒でしたね。
 
 

光と闇のナビゲーター 栗山千明
MC 青井実 (アナウンサー)
語り 中田譲治
テーマ音楽 志方あきこ

 
 

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図説 ヨーロッパから見た狼の文化史:古代神話、伝説、図像、寓話
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