【数学】感想:NHK番組「NHKスペシャル」『数学者は宇宙をつなげるか? abc予想証明をめぐる数奇な物語』(2022年4月10日(日)放送)

日本一わかりやすいABC予想

NHKスペシャル https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/
放送 NHK総合。2022年4月10日(日)

【※以下ネタバレ】
 

内容

https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/episode/te/PMMKK4872L/
NHKスペシャル「数学者は宇宙をつなげるか?abc予想証明をめぐる数奇な物語」
[総合] 2022年04月10日 午後9:00 ~ 午後10:00 (60分)


数学界に起きている前代未聞の事態▼京都大学望月新一教授によるabc予想証明をめぐる激論の背景とは?▼え?たし算よりかけ算の方が簡単?▼VFXで体感!最先端数学


2020年春、数学の難問“abc予想”を日本人が証明したというニュースが報じられた。京大数理解析研の望月新一教授の論文「宇宙際タイヒミューラー理論」が専門誌に掲載されたのだ。だが数学界では「証明が理解できない」「いや絶対に正しい」と激論が続く。論理を積み上げれば誰もが同じ答えにたどり着くはずの数学の世界で、なぜ主張が真っ向から対立するのか?前代未聞の議論を追い、数学の魅力に迫る。▼語り・小倉久寛


【語り】小倉久寛,合原明子

 
 2020年に日本の数学者・望月新一教授が数学の難問「ABC予想」を証明したというニュースが流れたが、実は未だに数学界では、この証明を認める人と認めない人に分かれて議論が戦わされている。


●掛け算は簡単、足し算は難しい

 abc予想とは何か、を理解する前提として知っておくことは、数学では「掛け算は簡単」「足し算は難しい」と考えられているということ。

 例えば「4」は素数に分けると「2×2」となる。同様に「21」は「3×7」と表せる。そして「4×21」の答えは「84」だが、84は「2×2×3×7」で表せる。つまり答え「84」を調べると、元となった「4」と「21」の中身が引き継がれていることが解る。あたかも生物の親から子に遺伝子がひきつがれているかのごとくである。

 ところが足し算は全く違い、「4(2×2) + 21(3×7) = 25(5×5)」と、答えに親の4や21の『遺伝子』がまるで引き継がれていない。だから数学者にとっては、掛け算はやさしく、足し算は難しい、のである。数学の世界に難問があるのは「足し算が存在するから」である。



abc予想登場

 フランスの数学者ジョゼフ・エステルレは、足し算「a + b = c」で、答えcに、親となるaとbの『遺伝子』がこれこれの形で引き継がれるはず、という予想、「abc予想」を発表した。最初はこの予想は「証明されてもされなくてもどっちでもいい物」扱いだったが、やがてこの予想を証明すれば、数学界の難問が雪崩を打って解決できる、ということが解り、数学者たちが証明に躍起になった。しかし成果はなかなか上がらなかった。



●宇宙際(うちゅうさい)タイヒミューラー理論

 望月新一教授は、16歳でプリンストン大学に入学、23歳で博士になった、という天才数学者。望月教授は2012年にabc予想を証明したとして「宇宙際(うちゅうさい)タイヒミューラー理論」という論文を発表した。ところが、その内容はあまりに独創的過ぎて、数学者たちは本当に証明できたのか、それとも出来ていないのかで大論争することになった。

 「宇宙」といってもあの星空の宇宙とは全く関係が無く、数学が成立する一つの世界を表している。世界Aと世界Bを考えるとして、世界Aは我々の普通の数学の世界。世界Bは世界Aの数が対応する数が二乗になっている世界。例えば世界Aの数7は、世界Bの数字49と対応している。

 さて世界Aでは「7×8 = 56」という計算が成立する。そして世界Bでは対応する数字は二乗なので「49×64 = 3136」。3136を世界Aに戻す(ルート3136)と、つまり56なので、世界Aでも世界Bでも掛け算は同様に成立する。

 ところが世界Aでの「7+8 = 15」という足し算を世界Bに持っていくと、「49+64 = 113」となり、113を世界Aに戻す(ルート113)と、世界Aと世界Bでは足し算の答えは同じにならない。

 このように掛け算だけが同じように成立する二つの「宇宙」を使い、abc理論を証明する、というのが「宇宙際タイヒミューラー理論」の基本的な考え方である。



●新しい数学が生まれる?

 数学は異なる物を同じと見なすことで成立する学問である。例えば「リンゴ三個」と「三回紐を巻き付けた杭」は全く違う物だが、数学的には「どちらも3」と見なせる。またトポロジーの考え方では「ドーナツもコーヒーカップも穴が一個空いているから同じものとみなす」という考え方をする。

 ところが、宇宙際タイヒミューラー理論は、その基本原則に反し、「同じものを違う物と見なす」という考え方をする。そのため数学者たちの間には、望月理論をもう理解不能として無視するような動きもある。

 宇宙際タイヒミューラー理論は理解不能の証明として忘れ去られるのか、または今までにない全く新しい数学の始まりなのか、今はまだわからない。

感想

 数年前にひとしきり話題になった「abc予想の証明」についての番組。かつて同様の数学の難問「ポアンカレ予想」について、素人向けに実に解りやすく解説する番組を作ったNHKが再度同様のテーマに挑むとして知り、もうワクワクしながら視聴しましたが、期待通りの面白さでした。やったね!


 当時の新聞記事を見ると「足し算と掛け算に関係があることの証明」云々と漠然と書いてあるだけで、何が何だかさっぱりわからず、当時グーグル検索のサジェストで「abc予想 かんたんに」とか出ていたのをみて失笑した覚えがありますが、NHKがそういう人間のために、易しく易しく解説してくれました。ありがたい。


 まあ数学を専門にしている人から見れば笑ってしまうような雑な説明なのでしょうけど、「abc予想ってつまり何よ?」とか「宇宙際タイヒミューラー理論って何を言おうとしているの?」とかいう素人が漠然と大づかみしたいところを分かりやすく教えてくれて、すんごくありがたかったです。

 数年にわたる胸のつかえがようやく取れました。ありがとうNHK
 
 
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宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃