【科学】感想:NHK番組「フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿 2021」『アンチエイジング 欲望の人体実験』(2022年2月24日(木))

Il sogno dell’eterna giovinezza: Vita e misteri di Serge Voronoff (GrandAngolo) (Italian Edition)

フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿 https://www.nhk.jp/p/ts/11Q1LRN1R3/
放送 NHK BSプレミアム

【※以下ネタバレ】
 
※他の回の内容・感想は以下のリンクからどうぞ
perry-r.hatenablog.com
 

科学は、人間に夢を見せる一方で、ときに残酷な結果をつきつける。
理想の人間を作ろうとした青年フランケンシュタインが、怪物を生み出してしまったように―
輝かしい科学の歴史の陰には、残酷な実験や非人道的な研究、不正が数多くあった。
そんな闇に埋もれた事件に光を当て、「科学」「歴史」「倫理」に迫るシリーズ。


ナビゲーター/ナレーション 吉川晃司 (ミュージシャン)

 

アンチエイジング 欲望の人体実験 (2022年2月24日(木)放送)

 

内容

フランケンシュタインの誘惑「アンチエイジング 欲望の人体実験」
[BS4K] 2022年02月24日 午後9:00 ~ 午後9:45 (45分)


人類の夢「永遠の若さ」。1920年代、この夢を実現したというフランスの外科医が現れた。彼が開発した若返り手術は世界中でブームを巻き起こし数千人が手術を受けたが…


永遠の若さ、アンチエイジング。人類はこの夢を追い求めてきた。クレオパトラは金や真珠の粉末を風呂に入れ楊貴妃はヒトの胎盤を生薬として摂取し小野小町はコイの生き血をすすったという。1920年代、「若返り」手術で世界の注目を集めたフランスの外科医がいた。精力増進、記憶力回復、老化による病の防止などをうたってブームを巻き起こし、数万人がボロノフ式手術を受けた。だが追試がことごとく失敗、完全に否定される―


【ナビゲーター/ナレーション】吉川晃司

 
 今回のテーマは「若返り手術」。


●「若返り術」誕生

 セルジュ・ボロノフ(1866~1951)はロシア生まれの外科医。1866年ロシアに生まれ、1888年フランス・パリ大学医学部に入学すると、現代でも使用される手術器具「ペアン鉗子」を作った有名外科医ぺアンの助手として腕を磨いた。

 1893年、クリニックを開業し、当時非合法だった中絶手術を行って年間8万フラン(2億円)を稼いだ。1895年にフランス国籍取得。1896年に師匠ぺアンの推薦で、エジプト国王アッバース2世の宮廷医となり、1910年まで勤めてから帰国。

 1914年に第一次世界大戦がはじまると軍医として勤務し、1917年からはフランス最高権威のコレージュ・ド・フランス生物化学研究所に勤務するようになり、この頃から若返りの研究に取り組んだ。

 ボロノフは、エジプトにいたころ、去勢された宦官は老けて見えることに気が付いており、精巣には若さを保つ秘密があるのではと考えた。そして羊を実験台に、若い羊の精巣を取り出してスライスし、老いた羊の精巣に貼り付けてみた。すると老いた羊が元気になり、細胞研究の権威ルテレールに調べてもらうと、貼り付けた精巣が一体化しているとのことだった。

 1919年、ボロノフは失敗事例は隠して、羊の若返りに成功したとマスコミに宣伝してから学会で論文を発表した。科学者たちはその発表には懐疑的だったが、マスコミ(ニューヨークタイムズ他)はこの話題を大々的に報道し、ボロノフは「魔術師」などと持ち上げられた。



●「若返り手術」狂騒曲

 1920年からはボロノフは「人間の精巣にチンパンジーの精巣をスライスして貼り付ける」という手術を開始。最初の対象者二人はいずれも感染症で死亡したが、ボロノフはそれを公表しなかった。

 やがてボロノフは大金持ちの家の女性と結婚。また若返り手術を無料で開始して4人に施術し、その後。二年間で12人に手術を行った。ボロノフは自分の手術で人は20~30歳若返ると主張した。ただしボロノフは手術後の検査などはしておらず、本当に若返ったのかどうかという証拠は全く無かった。

 フランス外科学会は反発したものの、1923年ボロノフはルテレールと共同で論文を執筆し、学会をそれを受理した。学会は公式に「若返り」を認めたことになった。

 1923年にはボロノフは若返り手術を1000人以上に行い、費用は15000フラン(860万円)。手術を受けた中には、噂では、画家ピカソ、作家メーテルリンク、元首相クレマンソー、革命家アタュチュルク、たちがいると言われた。またボロノフは手術法を無料で公開し、弟子たちが15カ国で手術を行った。

 ボロノフは世界一有名な医者になり、社交界の人気者となった。1926年、60歳の時にはレジオンドヌール勲章を授与された。まさに人生の絶頂だった。



●地に落ちた「若返り手術」

 同じ頃、ボロノフはフランス政府の要請で、植民地のアルジェリアでボロノフの技術を利用し、生産性の高い羊「スーパーシープ」を作り出す計画を任された。

 生後3~4ヵ月の子羊に発情期の羊の精巣を貼り付け、一年後手術した羊の子供に同じ手術を行い、と繰り返して行くというものだった。ボロノフは、第三世代で、手術しない羊が体重30Kg、手術した羊が体重38.5Kg、と明らかに違いがあると報告した。

 ところが、1927年 六か国の調査団がアルジェリアを訪問した際、その内の一人イギリスのフランシス・クルーはボロノフの実験に疑問を抱く。本来なら一番初めに手術する/しないの対象の羊はランダムに選ぶべきだがそうなっていなかった。もし最初から体格のいい羊だけを選び抜いてその羊に手術をすれば、その子供が体格がいいのはある意味当然である。

 そしてクルーは追試を行い、全く成果が出ないことを確認、政府に報告した。また同様の実験を行った南アフリカとオーストラリアも成果が出ないため、それぞれ1930年と31年に実験を中止した。こうしてボロノフの信用は失墜した。


 結局のところ「若返り」の成功例は、思い込み、プラセボ効果だったと思われる。手術を受ける人間は、その二週間前から、禁酒・禁煙、健康的な食事、ストレスのない生活を送るようになっていた。そしてカリスマ医者のボロノフが若返りの効果を謳ってくれたので、手術を受けた後は、いかにも自分が若返ったと思ったのだと推測される。

 1930年代には、ボロノフの信用は失墜し、弟子たちは手術を辞めていった。1948年のフランスのニュース映画にボロノフが映っているが、その中ではボロノフはもはやからかいの対象として扱われていた。

 1951年、ボロノフは85歳で死去。ほとんどのマスコミは記事にせず、ニューヨークタイムズは一応記事にしたものの、インチキ医者扱いで、しかも名前の綴りが間違っていた。



アンチエイジング 夢は終わらない

 現在でも若返りを求める研究は続けられている。染色体の末端にありDNAを保護するテロメアが鍵で、テロメアが無くなると老化が起きることが解った。そしてテロメアを保護する長寿遺伝子・サーチュイン遺伝子が見つかったのである。

 老いたマウスにサーチュイン遺伝子を活性化する薬を与えると、マウスが元気になることが解った。科学者の中には、近い将来には、人は120~130歳まで元気で生きられるようになる、と語る人もいる。


感想

 この番組にピッタリの題材来ました。いやー、「失敗は隠ぺいして成功例だけ報告」とか、もう怪しい研究の典型。しかも「成功例」(と信じた)に対しても、きちんと検証しておらず「元気になった、やったやった」で済ませただけ、ってもうまともな研究じゃないですよコレ。

 そしてこんなオカルトめいた話に、マスコミが飛びついたのはともかく、フランス学会が論文にお墨付きを出したのは……、関係者は後から言い訳に必死になったのでは……

 と、まあ、面白い回でありました。
 
 
 

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