【歴史】感想:歴史番組「ダークサイドミステリーE+」2022年版(最終回)「笑顔が暴力を生んだ夜 ~なぜ人々はヒトラーに従ったのか?~」(2022年7月12日(火)放送)

ヒトラーの大衆扇動術

ダークサイドミステリーE+ NHK https://www.nhk.jp/p/ts/ZG5NQK3K3P/
放送 NHK Eテレ。毎週火曜夜10時45分~11時15分放送。

www.nhk.jp
【※以下ネタバレ】
 

他の回の内容・感想

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驚きと感動の「闇」が、地上波に登場!


BSプレミアムでシーズン4が4月14日(木)スタートする話題の番組「ダークサイドミステリー」。その名作の数々が、コンパクト30分版に見やすくなってEテレに登場!


背筋がゾワゾワ、心がドキドキ、怖いからこそ見たくなる。世界はそんなミステリーに満ちている。世間を揺るがした未解決の事件、常識を越えた自然の脅威、いにしえの不思議な伝説、怪しい歴史の記録、作家の驚異の創造力…。こうした事件・出来事を徹底再検証!


ナビゲーター・栗山千明、語り・中田譲治、テーマ音楽・志方あきこのダークなトライアングルで迫ります。

 

(最終回)笑顔が暴力を生んだ夜 ~なぜ人々はヒトラーに従ったのか?~ (2022年7月12日(火)放送)

 

内容

ダークサイドミステリーE+ 笑顔が暴力を生んだ夜~なぜ人々はヒトラーに従った?
[Eテレ] 2022年07月12日 午後10:45 ~ 午後11:15 (30分)


現代にヒトラーがいたら、あなたは従わない自信はありますか?ドイツ市民はなぜ、ナチの暴力に“気持ちよく”従ったのか?人々を笑顔で地獄へ暴走させた、人心操作の恐怖。


1938年、ドイツでユダヤ人街襲撃事件、「11月ポグロム(水晶の夜)」発生。ヒトラーのナチ・ドイツが大量虐殺“ホロコースト”に向かう端緒のこの事件は、庶民が“笑顔”でヒトラーを支持した先に生まれた。「公平・団結・格安旅行」などの施策で快感をくすぐられ、コントロールされる人々。そこに「社会の敵」を与えられると、人々は笑顔で恐ろしい集団行動へ暴走していく…。近年の研究をもとに社会の闇の落とし穴を探る。


【出演】栗山千明,【語り】中田譲治

 今回は「2021年4月1日放送回」のダイジェスト版。
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【歴史】感想:歴史番組(新番組)「ダークサイドミステリー」シーズン3(2021年版)「笑顔が暴力を生んだ夜 ~なぜ人々はヒトラーに従ったのか?~」(2021年4月1日(木)放送)
https://perry-r.hatenablog.com/entry/2021/10/01/023220

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今回のテーマは「ナチスファシズム」。


ドイツ国民はナチスの犠牲者だったのか?

 第二次大戦後、長らく「ナチス・ドイツ時代は、ナチスは国民をプロバガンダで騙し、また暴力で従わせた。つまりドイツ国民はナチスの犠牲者だ」と考えられてきた。ところが、現在でもドイツにはヒトラーを慕い、ナチス時代を懐かしむ人が存在する。近年の研究により、当時のドイツ国民は実は喜んでナチス政権を支えていたことが明らかになってきた。


 1920年代、ドイツはワイマール共和制(1919~1933年)で、都市部で工業化が進み、社会に進出する新しい女性が出てくるなど発展しており、人権を尊重する自由な社会を目指していた。しかし、当時のドイツは第一次大戦に負けたことで領土の13パーセントを失い、また賠償金13206億金億マルク(220兆円)を支払わされていた。さらに1929年の世界恐慌で国内の失業者が550万人以上に達する事態となった。

 そんな時代に現れたのがアドルフ・ヒトラーで、国民に対し「戦って奪われた領土を取り戻そう」といった威勢のいい事を並べ立て男たちの支持を得た。また女性に対しては、働く「新しい女性たち」より、家庭を守る女性の方が大切といったことを語り、女性の心をつかんだ。

 ヒトラーの掲げたのは「民族共同体」という概念で、国民が一致団結して公正な社会を作る、というものだった。これによりナチス党は議席を大幅に増加させ、1928年には12議席だったものが、四年後の1932年には220議席を獲得し、ヒトラーは1934年には首相と大統領を兼ねた「総統」に就任した。当時のスローガンは「総統は命じ、我々は従う」で、国民が積極的に独裁を支持していたことが伺える。

 当時のドイツ国民は、ヒトラーに従うことに喜びと誇りを感じていた。近年、このように国民の合意の元に行われた独裁を「合意独裁」と呼ぶようになっている。



ナチスも良い事をした?

 ヒトラーは国民を喜ばせるため数々のサービスを行った。

・その1 歓喜力行団(かんきりきこうだん)
  労働者向けにリゾート地や温泉などの宿泊を格安で提供する。

・その2 高速道路アウトバーン
  高速道路アウトバーンを建設した。また建設に出来るだけ機械を使わないようにすることで、60万人もの雇用を生み出した。

 しかし、これらの「ナチスが行った良い事」として宣伝されるものには裏があった。アウトバーンナチスが考えたのではなく、ナチ政権以前からすでに計画が存在していた。

 ナチ政権になって失業が減り、一時期550万人いたのが1939年には12万人になった、ということになっている。しかしこれは数字上のトリックで、その実態は「若者をボランティアにつかせる」「失業した職業婦人を主婦にカウントして失業の対象から外す」といった手で数字上の失業者を減らしただけだった。またやがて「労働者を兵士として徴兵する」「兵器産業につかせる」という方法で失業者を減らしたのだった。



ユダヤ人を敵に

 ナチスは「民族共同体」の団結のため、ユダヤ人を生贄にした。ユダヤ人は商業的に成功しているものが多く、一般大衆から妬み・憎しみの対象として見られていた。

 ナチスは1933年4月にはユダヤ人から物を買わないようにボイコットを呼びかけた。突撃隊員が店の周りを取り囲み、ボイコットどころか商売を妨害した。市民たちはそれを見物しているだけで止める者はいなかった。さらにナチスユダヤ人の就業の自由などの権利を奪っていった。



●水晶の夜

 1933年5月、ドイツの大学都市で学生たちはユダヤ人に関わる書物を焼き捨てる焚書を行った。そして五年後の1938年11月、ユダヤ人街を襲撃する暴動、11月ポグロム(虐殺)、別名「水晶の夜」が発生した。

 事の起こりは、1938年11月7日、パリのドイツ大使館の館員がユダヤ人に殺害されたことで、その報復としてドイツのシナゴーグユダヤ教の礼拝堂)が放火された。宣伝大臣ゲッベルスは、この件について「自然発生的な動きなので止める必要はない」と発言した。政府がユダヤ人攻撃を黙認すると宣言したのである。

 11月9日の夜。突撃隊がユダヤ人街を襲撃し、放火などを行いユダヤ人に暴力をふるった。市民は見物しているだけで止めようとはせず、それどころかやがて自分たちも暴動に参加した。

 この事件の後、ユダヤ人三万人が逮捕され、さらにナチスユダヤ人を強制収容所に送り、財産を略奪したり競売にかけた。ドイツ国民は収容所に送られたユダヤ人が二度と戻ってこないことを知っていたので、喜んで競売の品々を購入した。



●T4作戦

 さらにナチスの迫害はユダヤ人だけにとどまらなかった。1939年、ドイツは第二次世界大戦に突入すると、障がい者の介護費用を兵器生産など別の目的に振り向けるため、障がい者の組織的に安楽死させる「T4作戦」を開始した。障がい者の肉親には治療のため別のところに連れていくと説明し、ガス室に送り込んで大量殺戮を行ったのだった。

 しかし、このことが国民に知られると、宗教界から猛烈な反発を受け、ヒトラーは1941年8月に作戦を中止した。しかし作戦に関わった医療関係者は、その後も勝手に自分たちの判断で安楽死を継続した。そして対象は障がい者から拡大し、高齢者、重傷者、第一次大戦の退役軍人、等にまで及んだ。そしてT4作戦に参加した医療関係者は、その後のユダヤ人大量虐殺ホロコーストにも関わることになった。



●「民族共同体」の終わり

 1945年4月30日、ヒトラー自殺。5月7日にドイツは敗北し「民族共同体」は崩壊した。国民が喜んで独裁を支えた「合意独裁」の結果、ドイツ国民自身も含めた数千万の命が失われる結果となった。


感想

 最終回は、この番組が大得意とするナチスドイツネタで〆ました……、うっわ、最終回の後味の悪いこと悪い事……
 
 

光と闇のナビゲーター 栗山千明
語り 中田譲治
テーマ音楽 志方あきこ

 
 

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ドイツ人はなぜヒトラーを選んだのか 民主主義が死ぬ日
ドイツ人はなぜヒトラーを選んだのか——民主主義が死ぬ日 (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズIII-13)