【ゲームブック】感想:ゲームブック「クトゥルー短編集2 暗黒詩篇」(HUGO HALL  他/2020年)【クリア】

ゲームブック クトゥルー短編集2 暗黒詩篇 白い小屋、赤い絶望

http://www.amazon.co.jp/dp/B09Z23SH4Z
ゲームブック クトゥルー短編集2 暗黒詩篇 白い小屋、赤い絶望 Kindle
丹野佑 (著), 中山将平 (イラスト) 形式: Kindle

★★【以下ネタバレ】★★
 

暗黒神話に刻まれる新たなる1ページ!!
狂気の深淵を旅する、クトゥルー短編集シリーズ第2巻!

 
 

概要

 ホラー物。クトゥルークトゥルフ)神話テーマの短編ゲームブック6作入り。


ゲームシステムなど

 どの作品もサイコロ振りは無し。ただし主人公の簡単なステータス・持ち物・フラグの管理やパラグラフジャンプ等の要素がありメモは必要。


収録作品

1 ヨグ=ソトースの飛沫 HUGO HALL著 パラグラフ数54

 最近視界に黒いゴミの様な黒い点がいくつも写り込むようになり、どうにも邪魔で仕方ない。しかも怪しげな謎の老婆からは君が呪われていると告げられてしまい……



2 白い小屋、赤い絶望 丹野佑著 パラグラフ数37

 雪山で猛吹雪に襲われた君は命からがら山小屋にたどり着いた。しかし小屋の中には直前まで誰かいた気配があるにもかかわらず無人で、しかも床と壁一面に異様な文字が描かれていた……



3 忌まわしきグラファリアンの蛹(さなぎ) 中山将平著 パラグラフ数24

 1920年代のアメリカ・ニューヨーク。君は知人二人と共に真夜中の地下鉄のトンネルの「探検」に向かったが、そこで予想外のモノを発見してしまい……



4 クトゥルフ深話 山田賢治著 パラグラフ数60

 全ては暗闇から始まった。君は世界各地で発生する異変を食い止め人類を救う事は出来るか?!



5 いあいあキャバクラ ロア・スペイダー著 パラグラフ数23

 君はふと気が付くと怪しげなキャバクラの店内にいた。店内の様子を見る限り、どう見てもぼったくり店としか考えられない。君はすぐさま店から逃げ出すか? それとも紳士らしくしっかり遊んでいくか?



6 最期の日に彼女は 杉本=ヨハネ著 パラグラフ数61

 最愛の双子の姉が前触れもなく失踪した。残された妹は必死に姉の行方を捜すが……?!


各作品の感想

1 ヨグ=ソトースの飛沫 HUGO HALL著 パラグラフ数54

 評価は△(凝り過ぎで辛い……)

 何らかの呪いを受けてしまった主人公がそれを逃れようと奔走する薄暗いホラー。

 主人公は呪いのせいで視界の中にごみのような物が写り込むようになっていますが、それを表現するため文章自体に「本●日は●晴天●なり」という感じで黒丸を何個も埋め込んでいて、視覚的にも異様な雰囲気を醸し出しています。

 この時点で本作が普通のゲームブックとはまるで異なることが伝わってきますが、さらにこの黒丸は単なる見た目上の演出だけではなく「パラグラフ内にある黒丸の個数を数えてそのパラグラフに進め」とか「パラグラフの先頭に黒丸が有るパラグラフを探してそこに進め」といった指示が連発されており、その独創性・凝り具合は過去に類を見ないものでした。

 まあ、それだけならまだよかったのですが、本作にはさらにその黒丸を利用した暗号が二つあり、一つ目は難なくクリアできたのですが、二つ目は「一つ目と同じ方法で解読せよ」と指示されたものの全く解読不可能で、そこで行き詰ってしまいました。結局のところ、未読のパラグラフを探してそれを繋いでいってなんとかラストにたどり着く、というある意味インチキな手で強引にクリアする羽目になりました。

 パラグラフ数54の短編にあふれんばかりのアイデアを詰め込んでおり、それには感服しましたが、あまりに凝り過ぎてまともにクリアできなかったのでちょっと感想は辛めです。ホント二つ目の暗号(パラグラフ22)はどうやって解いて、答えは何だったんだ?



2 白い小屋、赤い絶望 丹野佑著 パラグラフ数37

 評価は○(なかなか)

 ストーリーが全て山小屋の中で展開する作品。あえてあちこちに移動せず、狭い小屋の中という限定した空間に舞台を限定し、そのなかで物を探しているうちに、知りたくもなかった宇宙的恐怖にどんどん近づいてしまう……、という展開がなかなか面白かったです。簡単でかつ面白い一作でした。



3 忌まわしきグラファリアンの蛹(さなぎ) 中山将平著 パラグラフ数24

 評価は○(なかなか)

 1920年アメリカが舞台という古典クトゥルフ的な設定の作品。主人公たちが興味本位で怪奇スポットに乗り込んだところ、本物の恐怖体験をする羽目になる、という王道ホラー。

 地下に閉じ込められ暗闇をあてどもなく徘徊する羽目になるとか、そこで恐ろしいものを見つけてしまうとか、どこかで見聞きしたような展開ばかりでしたが、それはそれで面白く。複雑な分岐も無く、手軽に恐怖を楽しめる好作品でした。



4 クトゥルフ深話 山田賢治著 パラグラフ数60

 評価は△(面倒くさい)

 クトゥルフなどオールスターが大復活を開始した! 君は世界の破滅を回避できるか!? 的な一大スぺクタクル作品。

 まず序盤は一切の記憶を失った状態から始まり、移動できる場所の限られた状態から、少しずつ隠しパラグラフにジャンプして移動できる先を増やしていき、それが閾値を超えると一気に後半戦に突入する、という作り。主人公が情報ゼロの状態から開始させるというアイデアはちょっと面白かったです。

 後半は、一転、世界の破滅を防ぐため各地から情報や重要アイテムを収集していくという作り。何らかのアクションを行うたびに時間が経過していき、時間が経てばアイテム入手などが可能になる代わりに世界の「災害レベル」も上昇していくため、世界が破滅する前に必要なアイテムを全て手に入れ、さらに正確な対処を行わなければならない、という時間との競争感覚が中々良しでした……

 しかし、上記の説明でわかるように正直言ってかなり面倒くさい作品でした。前半はともかく、後半は同じパラグラフに何度も戻って来て「今が1日目なら○○が発生。2日目なら△△が発生」とか、いちいち条件を切り分けて読まないといけないので煩わしかったというか、なんというか……

 この作品はコンピューターゲームフローチャートをそのまま紙に移し替えたような感じで、『同じ場所を何度も訪問するとフラグが立って反応が変化してくる』とか、コンピューターゲームなら十分ありですが、紙ベースで人間に処理させることじゃないですよ…… もうすこし読者のことを気遣ってほしかった。人間は機械じゃありません。



5 いあいあキャバクラ ロア・スペイダー著 パラグラフ数23

 評価は○(アイデアの大勝利)

 ある夜、君はいい気分で飲み歩いているうち、いつ間にやらぼったくり店と思しきキャバクラの店内にいた。しかも逃げようと考えるうちにキャバ嬢の乙姫ちゃんとクジラちゃんがやってきてしまう。君は女の子を放り出してすぐさま店から逃げだすか? もしくは紳士らしくちゃんと女の子と遊んでいくか? 全ては君の選択次第だ!

 この作品はスゴイです。何が? いやね、普通「クトゥルフ神話モノ」を書くという場合に、「舞台をキャバクラにしよう!」なんて思いつきますか?(笑) この設定を思いついた作者の発想の柔軟性にはもう感服するほかはありません(笑)

 内容はユーモアホラーといったところで、一応クトゥルフ神話っぽい用語とかミード酒っぽい物とかが出てきますが恐怖感は皆無。マルチエンディング制で、結構酷いオチも有るのですが、全体を貫くユーモラスな雰囲気が最高でした。ゲームブックとしては簡単な部類でしたが、アイデアが凄すぎて本作で最高のインパクトでしたよ!



6 最期の日に彼女は 杉本=ヨハネ著 パラグラフ数61

 双子の姉レナがある日帰宅しなかった。妹ハナは姉の行方を捜して街を奔走するが……

 前半は行方不明の姉を探し求めるミステリー的な展開、後半はその失踪にまつわる秘密を知ってしまい、というホラー展開。前半は手掛かりを求めてあちこちをしらみつぶしに探索する探偵物的な分岐ですが、後半は緊迫したストーリーを一気に進めるためほぼ一本道展開になり、と、展開に合わせて作りを変えているのが良かったです。

 本作は基本的には簡単な部類ですが、数字を使った謎解きは本当に難しく、答えの見当が全くつかず心底参りました。まあ本作は親切にも巻末にヒント集(というか答え)がついているのでなんとか乗り切れましたが、これは完全解答を教えてもらわないとどうにもならないレベルでしたね。

 一応ホラーではありますが、同時に姉と妹の心の繋がりを見せてくれる抒情的な作品でもあり、その辺りも印象に残りました。


全体の感想

 評価は○(なかなか)

 一作目と違って「ハズレ」と感じる作品が無く、どの収録作品もそれぞれ楽しめたので満足度は一冊目より上でした。これはアタリでしたね。
 
 
 

参考

クトゥルー短編集2 暗黒詩篇ゲームブック) | FT書房公式HP
https://ftbooks.xyz/shinkanjyoho/ankokushihen

ftbooks.xyz

(ヨグ=ソトースの飛沫 HUGO HALL著)
ある日視界に黒い点が浮かんだ。
点は次第に増えていく。
これが呪いだと知った君は、さまざまな場所を訪れて、解放される道を探す。
ついに黒点から逃れる方法を見つけたとき、君は……。


(白い小屋、赤い絶望 丹野佑著)
吹雪なかたどり着いた、一軒の山小屋。
壁一面に書かれた謎の赤い文字。
人のいた気配はあるが、誰の姿もない。
探索の末にたどり着く、驚くべき真実は……。


(忌まわしきグラファリアンの蛹 中山将平著)
1920年代のアメリカ。
真夜中の地下鉄路線に忍び込んだ君たちは、そこで忌まわしき「ある者」と遭遇する。
中山将平、ついにゲームブック作家としてデビュー!


クトゥルフ深話 山田賢治著)
暗闇からはじまる物語。
世界で起こる異変。
災害を防ぐために、君はさまざまな神話的アイテムを手に入れ、駆使していく。
世界を舞台にした探索系クトゥルフゲームブック


(いあいあキャバクラ ロア・スペイダー著)
急に来た異色作。
まずい客引きに捕まって、連れ込まれたキャバクラ。
2人の美人キャバ嬢に、どちらを選ぶのか選択肢を迫られる。
しかし、彼女たちは神話的……おっと、誰か来たようだ。
君は生きてキャバクラを脱出できるか!


(最期の日に彼女は 杉本=ヨハネ著)
ともに育ち、暮らしてきた双子の姉がいなくなった。
君は何の力もない、ごくふつうの女性。
警察、人々、すべてが「当たり前」にしか機能しない、現実と同じ世界。
真実に迫るとき、残されたその足跡には妹への愛情が溢れていて……。


イラストレーター中山将平の一言では終わらない解説】
クトゥルー短編集2暗黒詩篇は、冒険記録紙やサイコロを必要としない、「電車の中で遊べる」手軽さのゲームブックです。 作品によってはメモがあったほうが好ましい場合もあるかもしれませんが、多くは必要ないと思います。
収録されているのは6個の短編ホラーゲームブック
とてつもないコズミック・ホラーの世界があなたを待っています!!