【数学】感想:NHK番組「笑わない数学 第2シリーズ」第7回「1+2+3+4+・・・=-1/12」(2023年11月29日(水)放送)

笑わない数学(NHKオンデマンド)

笑わない数学 NHK https://www.nhk.jp/p/ts/Y5R676NK92/
放送 NHK総合

www.nhk.jp
【※以下ネタバレ】
 

パンサー尾形が難解な知の世界を大真面目に解説?!

 

第7回「1+2+3+4+・・・=-1/12」(2023年11月29日(水)放送)

 

内容

笑わない数学 第2シリーズ 1+2+3+4+・・・=-1/12
[総合] 2023年11月29日 午後11:00 ~ 午後11:30 (30分)


パンサー尾形貴弘が数学の難問を大真面目に解説する「笑わない数学」。テーマは「無限個のたし算」。数学者なのに厳密さにとらわれない(?)意外で大胆な計算が連発!


1+2+3+4+…と無限につづく数を全部たしあわせた答えは? テストでそう問われたら正解は無限大(答えなし)。ところが数学者が作り出したある理論をつかうと、答えはなんとマイナス12分の1になるという。なぜこんな信じられない計算が成り立つのか!? 歴史上の数学者たちは、無限個のたし算に出会って以来、その奇妙さに困惑しつづけてきた。宇宙の自然法則につながる隠された意味があるという驚きの話も紹介!


【司会】尾形貴弘

 
●無限級数

 数学では「1 + 2 + 3 + 4 + …」や「1 + 1/2 + 1/4 + 1/8 + …」のようにあるルールで無限に続く数を足し合わせる数式を「無限級数」という。

 例えば「1 + 1/2 + 1/4 + 1/8 + …」の答えを求めてみる。

 まず100番目まで足し合わせるとその答えは「2 - 1/2^100-1」。無限番目まで足し合わせるなら、その答えは「2 - 1/2^無限-1」。2より後の数値は事実上ゼロなので答えは「2」。



●答えがあるか、ないか

 「1 + 2 + 3 + …」の答えは「無限(無限 - 1)/2」。しかし無限は数とは認められていないので、この無限級数は「答えなし」となる。

 「1 - 2 + 4 - 8 …」のn番目までを足した答えは「1/3 - (-2)^n/3)」。後ろ側の数字がプラスになったりマイナスになったり激しく動いて落ち着かないので、やはり「答えなし」。

 無限級数に答えが無い事を「発散」、答えが有る事を「収束」、という。



●答えがないのは残念だ

 現代数学では、発散する無限級数の和を考えることに意味はない、とされる。ところが過去の数学者はそう考えていなかった。

 修道士でもあったルイージ・グイド・グランディ(イタリア)。「1 - 1 + 1 - 1 …」(プラス1とマイナス1の交代級数)の答えを「和は2分の1」だと考えた。たとえ話で「二人の兄弟が一個の宝石を一定期間ごとに交代で所有しているなら、二人は宝石を1/2づつ所有しているということになる」と説明した。


 クリスティアン・ヴォルフ(ドイツ)。「1 - 2 + 4 - 8 + …」の式。n番目までの合計は「1/3 - (-2)^n/3)」。答えを変化のない「コア」の部分1/3とその後ろの「発散してしまう」部分にわけて考える。発散してしまうところはプラスになったりマイナスになったりするので平均すればゼロ、と考えれば、答えは「1/3」。



オイラーの考え

 レオンハルト・オイラー(スイス)。オイラーは「1 + X + X^2 + X^3 + … = 1/1-X」(-1 < X < 1の範囲でだけ成立)を利用。あえてXに範囲外の「-1」を代入するとグランディの答え「1/2」になり、「-2」を代入するとヴォルフの答「1/3」になる事を示した。

 さらに同じ方法で、Xに-1を代入すると「1 - 2 + 3 - 4 + …」の答えは「1/4」、「1 + 2 + 3 + 4 + …」の答えは「-1/12」になる、とした。

 「1 + 2 + 3 + 4 + …」の答えの出し方は
 ↓
A = 1 + 2 + 3 + 4 + 5 + 6 + … →(1)
4A = 4 + 8 + 12 + 16 + 20 + 24 + … →(2)

(1)-(2)は
「-3A = 1 - 2 + 3 - 4 + 5 - 6 + …」 →(3)

オイラーによれば(3)の右辺の和は1/4なので
「-3A = 1/4」 →(4)

よって
A = -1/12
(※ただし1 + 2 + 3 + 4 + …の答えは発散するので和の存在を前提とする議論は正確ではない)



●それでも答えを考える意味はある

 オイラー流の考えを突き詰めると「無限 < -1」のような答えになるため、19世紀の数学者は「発散する無限級数の和を考えることに意味はない」という厳格な考え方を採用するようになった。

 ところがエルネスト・チェザロ(イタリア)。答えがないとされる無限級数にも答えを求める特殊な計算方法「チェザロ総和法」を編み出した。その後も発散する無限級数の答えを出す「アーベル総和法」「ボレル総和法」といった計算方法が出現した。

 シュリニヴァーサ・ラマヌジャン(インド)の総和法。「1 + 2 + 3 + 4 + 5 + 6 + … = -1/12」になる。和は「-1/12 + 発散する部分」となるので、発散する部分を無視すると答えは「-1/12」。

 また「ゼータ関数正規化法」で、ゼータ関数に無理やり範囲外の数「-1」を代入すると答えが「1 + 2 + 3 + 4 + 5 + 6 + … = -1/12」になる。



●現実の世界で「1 + 2 + 3 + 4 + 5 + 6 + … = -1/12」が成立している。

 無限級数に無理やり答えを考えることに意味はあるのか? 数学者のお遊びみたいなものでは?

 物理学者ヘンドリック・カシミール(オランダ)。1943年。「カシミール効果」を予言。“真空中に小さな隙間を隔てて置かれた2枚の金属板の間に奇妙な引力が働くはずだ”。実在するならその力は「1 + 2 + 3 + 4 + 5 + 6 + … = -1/12」に比例するはず。

 スティーブ・ラモロー(アメリカ)。1997年。実験で「カシミール効果」を確認。


 超弦理論超ひも理論)。「1 + 2 + 3 + 4 + 5 + 6 + … = -1/12」の式を利用できるなら「この世界は10次元でできている」という事を予言できる。


“奇妙な数式”が自然法則に利用されている?


感想

 ネットの知恵袋によく出てくる(?)「1 + 2 + 3 + 4 + 5 + 6 + … はどうして -1/12なんですか」で有名な無限級数のお話。

 また番組が先走って「1 + 2 + 3 + 4 + 5 + 6 + … は実は -1/12 になるんですよ!」とか断言して、数学に詳しい人たちから突っ込みまくられることを恐れていたのですが、ちゃんと「そういう風に計算できなくもない」としたうえで「実は現実の世界で成立しているかも?」と知らないネタを持ち出してきて驚かせてくれたので、今回は大満足です。
 
 

この番組について


パンサー尾形貴弘が難解な数学の世界を大真面目に解説する異色の知的エンターテインメント番組! 「リーマン予想」「フェルマーの最終定理」「連続体仮説」「四色問題」「ガロア理論」「abc予想」「確率論」「P対NP問題」「カオス理論」「ポアンカレ予想」「暗号理論」「虚数」・・・。天才数学者をも苦しめてきた数々の難問、そして美しくも不思議な知の世界を、1回30分ワンテーマ、ギャグ封印で、トコトン分かりやすく掘り下げる!


MC 尾形貴弘 (パンサー)
語り 合原明子 (アナウンサー)

 


笑わない数学
笑わない数学


無限級数入門
無限級数入門 (基礎数学シリーズ)